南北朝鮮間鉄道試運転に見る朝鮮半島の現実・・・『イザ!』掲載記事から
前回、南北朝鮮間鉄道試運転の話を書きましたが、その直後に『産経イザ!』に「南北縦断鉄道試運転 真の交流、ほど遠く 北朝鮮、韓国主導の「統一」を警戒」という記事が掲載されているのが確認出来ました。
この記事ですが、今回の試運転に際して北がとった姿勢に対して一定の懸念を示す内容となっていますね。
まず記事では、打ち上げ花火は上げるわ、国の内外のマスコミを招き入れるわ…でさながら祝賀ムードに沸いた韓国側に対し、北朝鮮側では特段の行事を行わなかった、これは北朝鮮の韓国に対する警戒心の表れだ、と指摘しています。
ところが、NHKオンラインでは、北朝鮮側が仕立てた試運転列車(北朝鮮国鉄の「DL+客車5両」編成)について、故・金日成(キム・イルソン)主席が実際に乗ったとされる客車を使い、試運転列車の乗客のためにリンゴと飲料水が用意された、と伝えています。
この客車は4人がけの座席になっていて、全てに高級感のあるクリーム色のカバーが掛けられていたとのことで、韓国側のような目立ったセレモニーこそ無かったものの(簡単なセレモニーは行われたようですが)、北朝鮮サイドでも今回の試運転にはある程度重要視していたようですね。
また記事では、韓国側が鉄道整備に積極的なのに対して北朝鮮側は、「軍事優先」を理由に鉄道施設の整備などは事実上ほったらかしの状態にある上、韓国主導の南北統一の動きに警戒感を露わにしていることも指摘すると同時に、韓国の対北朝鮮支援は、最終的には韓国主導による統一実現へと持っていくことを狙いとしている、とも述べています。
このうち韓国側の思惑については、金正日体制になってから益々貧困のどん底に陥れられた感のある北朝鮮の一般人民(特に地方在住の人民)の生活や、極端に立ちおくれた鉄道を含めた各種社会インフラの現状を考えると、やむを得ないところでしょうね。
でもそんな韓国も、高齢化等の社会問題を抱えていることもあり、経済的な体力はむしろ低下傾向にあると指摘する専門家もいます。
「インタビュー:深川由起子教授・1「韓半島は危機状況」」
「インタビュー:深川由起子教授・2「親中国軍部クーデターの可能性十分にある」」
仮に、この先、北朝鮮の政変などで北朝鮮人民が難民として韓国に流入した場合、今の韓国の経済的体力と国内情勢のままでは持ちこたえていくのはどうやら困難なようで・・・疲弊しているんですね、韓国って。
で、最近ではオリンピックを初めとするスポーツの国際試合等の場に於いて韓国と北朝鮮の両選手団が、南北朝鮮統一旗のもと、揃って合同行進を行うなど、南北朝鮮統一を念願としている風潮があるようですが、『イザ!』の記事では、同じく分断されていた東西ドイツが統一出来たのになぜ朝鮮半島の統一は未だに出来ていないのか、ドイツ統一に学ぶべきなのは韓国であり北朝鮮ではないか、とツッコミを入れています。
ただこれについては、これまた言うまでもないことですが、ドイツとは事情が違いすぎる、と言うことができると思います。
東西ドイツ再統一については実現に至るまでに幾つもの段階を踏んできています。
これはウィキペディア解説の「ベルリンの壁崩壊」の中で語られていることなのですが、旧東ドイツの人民たちは同じ旧東側諸国の一つだったハンガリーが隣接する西側諸国の一つオーストリアとの国境を開放するというニュースを聞きつけ、ハンガリーとオーストリアを通って西ドイツに行けるかもしれないと思い立ち、堂々とハンガリーへの旅行許可をもらってハンガリーに向かうも、オーストリアとの国境まで行ったところでハンガリー国民のみが国境を通過出来ることが判明。やむなくオーストリアとの国境付近に滞留するようになったところへ、ハンガリーで活動していた民主フォーラム等の手助けもあって、政治集会の名目で旧東ドイツ人たちを集めての集会を開いた(汎ヨーロッパ・ピクニック)。そしてその集会を契機としてオーストリアへの脱出を決行、成功した。そしてこのことがきっかけで旧東ドイツ人民が次々とハンガリーやチェコスロヴァキアのオーストリア・西ドイツとの国境地帯へと押し寄せるようになり、現地政府の処置などもあって旧東ドイツ人民に対しても国境を開放、それがやがてベルリンの壁崩壊へと発展していき、最後には東西ドイツ統一(1990年10月3日)へと至ったというわけです。
ちなみにハンガリーではその当時でも既に非共産系政党の政治活動も認められるようになっていたそうで、ハンガリー国内に於いては民主化を求める運動が活発化していたという事情も幸いしたと言うことができますね。
これに対して南北朝鮮(韓国と北朝鮮)はといいますと、周辺国といえば中国、ロシアの2つの大国、中国の一領土か否かでもめ続けている小さな島国台湾、それと同じく島国である我が日本・・・ということになるわけですが、この位置関係だけでもドイツの場合と大いに異なる上、陸上でつながっている中国とロシアについても、東西冷戦の頃と比べれば情勢は大分変わってきてはいるものの、民主化運動に関しては今でも抑え込まれている格好です。
そして現在の北朝鮮の体制は、ご存じの通り、かつての東側諸国以上に徹底した個人崇拝・全体主義政策をとっており、その上、地方在住者を中心に、経済的な困窮は旧東ドイツ以上に深刻なものがあり、旧東ドイツのようにはいかないと思ったりもします。
ま、ドイツのようにやれと言われても出来ないのは当然のことで、そこは朝鮮半島とその周辺における事情というものがありまして・・・
ただその北朝鮮も最近では国内のあちらこちらで体制のほころびと受け取れる事象が散見するようになっていると、一部マスコミが既に伝えているほか、
「北朝鮮における国民統制の限界についての一考察」
「北朝鮮における軍隊の特異性についての一考察」
「金正日体制は平和的に打倒すべきである」
の中でも取り上げられています。とりわけ北朝鮮国内で最重要視されているはずの軍隊内でもほころびが見え始めているというのはショッキングな話ですね。
その上、最近の北朝鮮による核実験強行のため、長らく北朝鮮と友好関係にあった中国も次第に北朝鮮に対して嫌気をさすようになってきているそうで、
「金正日の亡命説が出てきました」
「721将軍サマ亡命へ?」
「北朝鮮崩壊のシナリオ?」
「北朝鮮のクーデター」
の中でも記されていることなのですが、北朝鮮をいわば”兵糧攻め”状態にして金正日を中国におびき寄せて幽閉し、その後北朝鮮に中国の傀儡政権を樹立するのではないかという話もあります。
もしそれが本当だとして、実行に移されて見事成功ということになると、体制の根本からの変革が現実のものとなり、軍部の出方にもよりますが、これまで金父子に抑圧されてきた北亜朝鮮人民の解放が実現出来るかもしれない、ということが言えますね。
この場合、ドイツのように同じ民族による2つの分断国家が一つになるというのではないのですが、現状から考えるとこれもやむを得ないのかな、なんて思ったりします。
余談ですが、先ほど軍隊内でもほころびが見られ始めている、と記しましたが、その北朝鮮軍部にまつわる興味深い記事を見つけました。
「中国が北朝鮮を政権転覆する? 」
「ブッシュ、専門家グループ北朝鮮のクーデタ可能性論議」
「2007年 北朝鮮の展望と金正日政権の運命」
「金正日政権の崩壊と中国の最善の選択は?
」
どうやら北朝鮮国内でも親中国派と反中国派の対立や軍自体の腐敗が進んでいるみたいで、中国としては親中国派の(或いは北朝鮮の改革開放を支持している)将校らによるクーデターを画策している模様のですが、果たしてどうなることやら・・・
ただ、先に記した中国の”金正日幽閉”画策と併せて、仮に実行に移された場合、勿論一時的に国内が混乱することは容易に想像出来るところですが、少なくとも現状の金父子(現在は金正日)抑圧体制からは解放されることが期待出来、中国が現在掲げている”社会主義的市場経済”と相俟って、次第に経済的に持ち直し、同時に社会的インフラも整備されるという効果も期待出来ます。
社会的インフラの整備は当然北朝鮮国内の鉄道網のリニューアルを伴うものと期待することが出来、リニューアルが進むにつれて、今回1回限りに終わった南北朝鮮間鉄道試運転は恒常的なものとなり、そして南北朝鮮間の定期運行の実現、目を中国・ロシアと接している北部地域に転じればロシアも自国につながる北朝鮮鉄路の整備を表明していることから何らかの形でリニューアルに手を貸すことになるでしょう。で、やがては、日本統治時代以来の、韓国から北朝鮮を通って中国・ロシアなどの大陸諸国へとつながる広大な鉄道網の復活へとつながり(「アジア横断鉄道」構想の実現)、人とモノの往来に変革をもたらすことは間違いないところでしょう。
ドイツのような同一民族による2つの分断国家の再統一が実現出来なくとも、中国などの出方次第では現在の北朝鮮の極端な圧政から解放することは十分可能と言えましょう。
今回の1回限りの南北朝鮮間鉄道試運転が朝鮮半島における新たな時代への先駆けとなるや否や、それは北朝鮮とその周辺国(韓国・中国・ロシア等)の出方にかかっていると言ってよいでしょう。
南北朝鮮が平和裏に統一するのがベストなのは言うまでもありませんが、もし南北朝鮮の統一に至らなくても、万人が心豊かに暮らせる国づくりを実現し、併せて鉄道網の再整備により大陸に向けた物流ネットワークを本格形成し、そのことにより豊かな社会づくりに寄与出来るようになることをただ願うのみです。
【関連記事(追記)】
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