中央リニアエクスプレス(JRマグレブ)に対抗するフランスTGVにも重大な欠点が・・・
前回、日本の「中央リニアエクスプレス」の18年後を目処に開業を目指すというJR東海の公式発表を受けて、フランスの高速鉄道TGVとを対比させながら書きました。
「中央リニアエクスプレス」、別の言い方では「中央新幹線」がご存じのように従来とは全く違った”磁気浮上式鉄道”(JR式マグレブ)により建設していることは今さら言葉にするまでもないところですね。
これに対し、現在世界最高時速記録を保持しているそのJR式マグレブに追いつこうとしている、日本の最大のライバル、フランスTGVは昔からの鉄軌道を使っている。前回の記事ではここに注目していました。
その従来からの鉄軌道方式で運行されているフランスTGVが、去る4月3日に行われた試験走行で、最高時速574.7km/hをマーク・・・いったいこれまでの日本のリニアモーターカーの歴史は何だったんだ、少々唖然とした思いでその報道に接していた私がそこにありました。
でも、そんなフランスTGVにも忘れてはならない欠点があるんです。
先の通常の鉄軌道での世界最高時速をマークしたという報道に接した際、同時に、どのくらいの時間をかけてそこまでの速度になったんだろう、とも思ったりしていました。
ご存じの方もおられると思いますが、このフランスTGVの車両、私も一時「フランス新幹線」と思っていた節がありますが、その実態はというと、両端に電気機関車があって間には客車がたくさん繋がれているという、いわば動力集中方式となっています。
これに対して日本の新幹線は、ご存じの通り、各車両にモーターを装備しているいわば”電車”、別の言い方では動力分散方式を採っています。
動力集中方式の高速鉄道であるTGVでは、客車部分の製造コストは低く抑えられ、メンテナンスも容易で、騒音源ともなる動力モーターが無いので客室内は静か、というメリットがある一方で、いわば両端にある電気機関車がたくさん繋がれた客車を牽引する形となりますので加速性能が悪く、分割併合運転が難しい等のデメリットもあります。
一方、電車(動力分散方式)で運行されている日本の新幹線の場合、製造コストは高く、メンテナンスにも手間がかかり、モーターの振動などが客室内に伝わってうるさく感じることもあったりしますが、動力が各車両に分散されているため、加速性能が良く、終着駅での折り返しが容易なことや分割併合運転が比較的容易なこと等、運用面での小回りが効くというメリットがあります《ちなみに、昔の0系車両はオール電動車でしたが、最近の新型車両では、少ないながらも、モーター無しの車両(電車の中の”付随車”)も存在します》。
ところで、先に「世界最高時速をマークしたという報道に接した際、どのくらいの時間をかけてそこまでの速度になったんだろう、とも思った」と記しましたが、何故そう思ったかというと、フランスTGVの加速性能が気にかかっていたためです。
さきほどTGVと新幹線各々のメリットとデメリットを記した際、動力集中方式のTGVは加速性能が悪く、動力分散方式の新幹線は加速性能が良い、と記しましたが、各々の加速性能が具体的にどの程度なのか・・・ネット上で調べてみたところ、
TGV…0.8km/h/s
新幹線
東海道・山陽新幹線
0系…1.0km/h/s
500系&700系…1.6km/h/s
N700系…2.6km/h/s
九州新幹線
800系…2.5km/h/s
東北・上越新幹線
E1系(初代Max)…1.6km/h/s
E3系(こまち用)…1.6km/h/s
やはり動力集中方式のTGV、日本の初代新幹線車両0系にも劣っている・・・
上記の加速度値から、先のTGVがマークした最高速度574.7km/hに到達するためには、上記の加速度値から単純に計算した場合、約12分の時間を要することになります。ちなみに日本の新幹線車両の場合、7月1日のダイヤ改正で新規投入されるN700系を例にとると、単純計算上では約4分でこの世界最高時速に到達出来ることになります《現実にはあり得ないことですが》。
そして、フランスTGVがそれだけの性能を持っていると確認されたところで、じゃあそのまま日本に持って行けるのか・・・勿論ダメですよね。
山が多く地盤が緩い上に”地震大国”なんて揶揄されることもしばしばという日本の国土。
これに対してフランスでは、そりゃ国境沿いには険しい山々が聳えているみたいだけれども、国土全体ではそれほど山は無く、しかも地勢的にもなだらか。その上、何より日本の1.5倍もの国土面積を持っていることからしても、日本よりずっと条件的に恵まれているわけですね。
もう一つ、駅間距離もずいぶん違っていて、例えば東海道・山陽新幹線の場合、平均の駅間距離は30km少し。これに対してTGVはなんと213.5km!《「新幹線と仏・TGVの輸送力比較」、及び「新幹線」より》
日本より地勢的に恵まれ、線形的にも恵まれ・・・そりゃ客車の両端に電気機関車を繋ぐというスタイルのTGVが心おきなく最高時速で500キロ以上出せるはずですわな。
それと、フランスを初めとするヨーロッパの高速鉄道で忘れてならないのは、スピード以前の、いわゆる安全性の問題。
今から9年前の1998年6月にドイツICEの脱線大破事故が発生し、死者101名・負傷者200名を出していますが、「続発する欧州の高速鉄道事故」〔鉄道・交通機械工学(永瀬)研究室〕によれば、このドイツICEの脱線大破事故以降も、英国・フランスを中心に、鉄道重大事故や車両トラブルが後を絶たない模様。
ここでちょっと道草になってしまいますが、日本と接する2カ国、韓国と台湾で最近開業した両高速鉄道では、ご存じのように、韓国がフランスTGV方式を採用したのに対し台湾は日本の新幹線方式を採用しています。
フランスTGV方式を採用した韓国のKTXでありますが、2004年4月の開業以降もトラブル続きのようで・・・『「TGVより新幹線 ☆」アーカイブ ~KTXうぉっちんぐ』の中にある「KTXトラブル一覧(開業前・開業後2004年・2005年・2006年・2007年)」にこれまでのKTXに纏わるトラブル等が記されているのですが、ことのほか多い印象ですネ。
更に「韓国高速鉄道(KTX)の運行状況」(韓国高速鉄道、2004年4月に正式開業)の中の記述によれば、今年に入ってKTXの延着は開通当時の実に4倍近くに上っているとの国政監査の結果も伝えられており、「夢の超特急KTX」(日韓歴史研究)というブログ内記事では施行経験軽視の業者選定から来る施行不良事例の多発や気密性に欠けるKTX車両等を指摘しています《特に気密性に欠けるというのは高速鉄道としてはちょっと致命的な気が…》。
ま、日本と同様に山の多い地勢である韓国の国土にフランスという比較的なだらかな地勢の国で走り続けてきた動力集中方式のTGV編成をそのまま持ち込んで走らせること自体に相当無理があったみたいですね。
一方、日本の新幹線方式を採用した台湾高速鉄道(台湾新幹線)は、初めヨーロッパ連合が落札しながらも途中で日本連合に発注先を切り替えたという経緯から、ある意味で「日欧合作」という形になってしまい、それに起因するようなトラブルが続出したことから開業が1年以上遅れ、開業後もしばらく指定券発券トラブルなどが相次いで起きていましたが、今年の3月2日の台北~左営間営業運転開始以降は大きな事故などは伝えられてきていない模様です。
ただ、「台湾新幹線、ようやく営業運転開始!(まるこめZのつれづれ日記)のような、日欧混在という特殊事情から起因するトラブルが今後も起きうるといった懸念の声もあり、私としても過去のICEの脱線事故のような重大事故が起こらないことを心の中で必死(!?)に祈っている次第です。
なお、この台湾高速鉄道については、「台湾高速鉄道開業の視点」(鉄路的部落)というブログ内記事でもなかなか興味深いことが書かれています《日本と台湾の間での建設コストの考え方の違いにも言及されていて、私自身もなかなか興味深く感じました(日本も台湾のやり方を見習わなければなりませんなぁ…)》。
ところで、この韓国と台湾の両高速鉄道を眺めていてつくづく思うのが、フランスのTGVを採用している所って、どうやら技術的というよりは政治的理由で採用しているケースが目立つような気がしてなりません《歴史認識やいわゆる”竹島(独島)問題”で日本と対立している韓国はまさにその典型》。技術的観点で選ぶのならば、どう考えても日本の新幹線のほうが有利に働くと思うのですが、どんなもんでしょう。
韓国は、高速鉄道建設にあたり、自国の地勢などを熟考して、もっと慎重に選定して欲しかったですネ。
もしかしたら、そういうことが苦手な民族なのだろうか、韓国人は(尤も日本人にしても、違う面で、人のことは言えませんが)・・・・・・
本題に戻りますが、フランスTGVの欠点についての話はここでひとまず置きまして、ここで先に記しました、去る4月3日の試験走行で世界最高時速をマークした際の話を少ししてみたいと思います。
ウィキペディア解説などによると、試験走行路線として選ばれたのはまだ開業前のTGV東線。
使用編成については、同路線で使用予定の機関車2両を出力大幅アップさせた特別版の形で投入、その間に、空気抵抗を減らす理由から、2階建て客車(Duplex)3両を連結。車輪についても通常より大きなものを装着させていました。
架線電圧については通常の25000Vから31000Vに昇圧。
と、要はTGVとしての通常の仕様ではなく、試験走行のための特別仕様に仕立て上げた上で臨んだわけですが、その中で一番驚いたのは、5両編成のうちの真ん中に連結された客車の1階部分を電装機器室とし、この客車の両端にある付随台車を新開発の永久磁石同期モーター4個(4000KW)で駆動される動力台車としたこと。
これじゃまるで電車じゃないか・・・
ということは、フランス国鉄も従来からのTGVの編成形態である、幾つも繋がれた客車の両端に電気機関車を繋ぐというスタイルでの高速走行にある種の限界を感じているというのだろうか・・・
そのことを窺わせるような仰天記事(少なくとも私にとっての…)をネット上で見つけてしまいました。しかも昨年10月に掲載された記事という(これまで気付かなかった私自身がどうかしていた)・・・
「仏TGVに日本製車両」
「TGVが日本版新幹線になる日」
「鉄道ファン大集合「テツ&レイル」(2006年10月)」
上記の他、enjoy Korea内の掲示板にも同様の内容の書き込みがありますが、なんでもライバル関係にあるはずのフランス国鉄が、2014年以降予定されているTGV車両更新に係る2012年ごろ予定の国際入札で日本にも門戸を開放、日本製車両の導入の可能性を示唆するコメントを出しているとか。ライバル関係が故、なのかもしれませんが、フランス国鉄は日本の新幹線の経済性と安全性を高く評価しているそうです。
そして決定的と言えるのが「【腰砕け】KTX開業後のトラブル集2006」(「TGVより新幹線 ☆」アーカイブ ~KTXうぉっちんぐ)の下のほうにある以下の記事・・・
| 【仏の新幹線ネガティブキャンペーン清算?】フランス、KTXの原型TGVを捨てて動力分散型AGVへ。(梯子外された)韓国は?【KTX or G7/HSR350X(KTX2) orHEMU400X or TTX?】 |
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1981年にフランスで運行を開始したTGVの初期モデルは、既に25年以上レール上を走っており徐々に耐久限界に至っている。 アルストム側は2台の機関車が客車を牽引する既存の動力集中型TGVに代わり、各自の客車ごとにモーターを装着した動力分散型のAGV列車を開発し、SNCFに購入する事を説得して来た。 |
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(中略) |
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高速鉄道技術開発事業団のキム・ギファン団長は、「動力分散型列車は構造上、加速や制動の効率面で性能が優れ、線路への負担も少ない」とし、「今後の韓国型高速列車の開発も、動力分散型を目指す事が望ましい」と語った。 |
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(中略) |
| 一方SNCF側はこれに先立ち、AGVよりも全二階建て高速列車である『TGVデュプレックス』の購買の方が更に関心が高いと言う立場を明らかにした事があり、AGVの最終導入がいつになるかはまだ定かではない。 |
あのTGVの製造元であるアルストム社がこれまでの動力集中方式のTGVに見切りをつけていたようで、TGV方式を採用した韓国も、表には出していないものの、これにはさぞ戸惑ったことと思います。
更に、これまでフランスと同様に動力集中方式で運行されてきたドイツICEも、2001年6月から運用に入っている”ICE3”形式では、40パーミルもの急勾配の区間を擁する高速新線での走行に対応すべく、初めて”電車”形式(動力分散方式)による編成となっている等、ここにきて高速鉄道界ではどうやら新幹線と同じ動力分散方式にシフトしつつあると言ってよいでしょう。
通常の鉄軌道での世界最高速度をマークし、日本のリニアモーターカーが持つ世界記録に迫るスピードを見せつけたフランスTGV、しかしながら日本の新幹線車両も、加速性能の良さと安全性の高さ等は世界に誇れるものであり、駅間距離の比較的短い日本の新幹線に見事フィットしているんです。
では「中央リニアエクスプレス」はどうだろう・・・フランスTGVにスピード面であと少しのところまで迫られているとはいえ、超電導磁石によるJR式マグレブは、理論上では、更なる高速化は十分可能だそうで、今後の開発動向次第では十分期待が持てそうな気がします(でも、自治体などの誘致合戦に折れてあまり駅を作りすぎると、性能を十分に発揮出来ず、いわば”宝の持ち腐れ”となりかねないので、そこを懸念するわけです、私自身としては)。
日本の新幹線、万歳っ!
【関連記事(追記)】
「JR東海の”中央リニアエクスプレス”営業開始発表に想う・・・」《今回はこれの続編です!》
「世界最速記録樹立の舞台、営業開始へGO!・・・TGV東線開通」
「今年で26年目のフランス高速鉄道TGVの最近の話などを拾ってみました《東ヨーロッパ線中心ですが…》」
「フランス、そしてドイツで鉄道労働者等による大規模スト・・・冷や水差される「ユーロスター」と困惑する一般国民ら」
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ベートーベン
歓喜の歌ドイツ語版(ショパン)
歓喜の歌~ベートーヴェン(混声)


お邪魔します。
思うにヨーロッパの高速鉄道は「既存のインフラを有効活用する
もの」であって、「高速化のための最適のシステムを一から構築
した」新幹線とは別物だと思いますし、既存のインフラが無い場
所に作るのにも適してはいないのではないでしょうか。尤もあま
り精緻さを必要としていないので、そういう所には適しているので
はと思います(例えば中○とか)。
投稿: ブロガー(志望) | 2007年5月12日 (土) 19時41分
コメントをありがとうございます!
”別物”と仰ることには私も同感ですね。。
ただヨーロッパスタイルの高速鉄道は”在来線とは別に1から構築するやり方”でもつくれないことはないと思うのですが、日本の場合、山が多く地盤が弱いという地勢上の特徴があることから、電車方式の”新幹線”がフィットするというわけです。
投稿: 南八尾電車区 | 2007年5月15日 (火) 16時11分