そこそこ乗る日本、悲惨なぐらいにガラガラな韓国・・・・・・空港連絡線（鉄道）の実態について

　日本国内の国際空港、成田・中部・関西の３空港には何れも都市中心部からの連絡鉄道線が伸びていることはご存知のことかと思います。

　成田へはＪＲと京成が、中部へは名鉄が、関西へはＪＲと南海が、それぞれ空港連絡線の役割を果たしているわけですが、このうちの成田で見ますと、成田の空港駅は、ターミナルが２つあることから、「成田空港駅（第１ターミナル前）」と「空港第２ビル駅（第２ターミナル前）」の２駅が存在し、それぞれの2006年度乗降人員（１日あたり；ＪＲ線は便宜上「乗車人員×２」とする）は、空港第２ビル駅ではＪＲ線11,332人と京成線18,134人、成田空港駅ではＪＲ線10,822人と京成線19,105人、よって成田空港内２駅分の１日あたり乗降人員合計はＪＲ線22,154人と京成線37,239人・・・ということになります。

　つまり、鉄道利用者だけで６万人近くに上っているわけですネ。

　これに対してお隣の韓国はといいますと・・・

　現在韓国首都圏に於けるメインの国際空港として稼働している仁川国際空港への連絡鉄道として、今年３月下旬に空港鉄道「Ａ’ＲＥＸ」がソウル市内にあるかつてのメイン国際空港だった金浦空港まで開業、上下合わせて２００本程度の列車が運行されているほか、３年後にはソウルまでの延長が予定されています。

　また金浦空港駅はソウル地下鉄５号線と同９号線（建設中；2009年開通予定）との乗換駅にもなっていて、それらのうち現在建設中の地下鉄９号線については空港鉄道との直通運転（相互乗り入れ？）も予定されているとのことです。

　運賃は仁川国際空港から金浦空港までの片道で3,100ウォン（約410円）。ソウルまで開業予定の2010年までは、ソウル市中心部へは金浦空港駅からバスや地下鉄に乗り継ぐことになるわけですが、地下鉄乗り継ぎとした場合の運賃について、「ソウル・仁川空港、待望の鉄道開通」によると、ソウル市中心部の光化門から仁川国際空港まで地下鉄で乗り継いでトータル4,200ウォン（約560円）だそうです。

　なお、この空港鉄道「Ａ’ＲＥＸ」については『韓国旅行情報KONEST』内及び『韓国ソウル旅行情報ガイドSeoulnavi』内にそれぞれ設置されている特設サイトで詳しく解説されており、後者については発車時刻表（2007年３月現在のもの）も公開されています。

　ところがこの空港鉄道「Ａ’ＲＥＸ」が、輸送見込みの大ハズレからくる巨額の赤字に苦しんでいるというのだそうです。

　『動画で見られる！韓国鉄道＆交通ニュース』に去る６月29日(金)付けで掲載された「がら空き空港鉄道･･･数百億の赤字」という記事によると、韓国のテレビ・ラジオ兼営放送局ＭＢＣ（韓国文化放送）による報道として、開業から１００日が経過した今、空気を運んでいる（がら空き）状態だというのです。

　このＭＢＣ報道と「韓国経済月報・第144号（2007年２月28日発行）」によると、この空港鉄道「Ａ’ＲＥＸ」、1997年から事業計画の検討に入り、仁川国際空港の利用者の増加とソウル首都圏に於ける地下鉄路線の拡充等の要素を考慮した上で需要を予測、当初利用予測として１日平均20万人を弾き出していました。そして４兆995億ウォン（約5449億円）の巨費を投じて2001年から工事が進められ、まず今年の３月23日にソウル市内にある金浦空港までの第１段階区間を開業させ、2010年には第２段階区間である金浦空港～ソウル間を開業させる予定としているそうです。

　またこの「Ａ’ＲＥＸ」は工事費４兆995億ウォンのうち３兆110億ウォンを民間資本でまかなったことから、開業後30年間は民間が運営し、その後は国に帰属されるのだそうです。

　つまり、30年間は「私鉄」として運営され、その後は「国鉄」となるわけか・・・・・・ま、こう単純にはいかないでしょうけれども。

　しかし、ＭＢＣの報道によると、現在では１日あたり12,000人にも満たない有様だとか。これは、列車１両４７席中、９人ほどしか乗っていない計算になるのだそうです。

　車内では、座席ががらんと空いているのを見るや、横になったりする乗客や、座席をソファーにして新聞を読んだりする乗客もいるとか。

　またこの「Ａ’ＲＥＸ」には、毎時１本、「直通列車」（金浦空港駅までノンストップ）が設定されているのですが、この「直通列車」の運賃が7,900ウォン（約1,050円）と普通列車（一般列車）の倍以上であるにもかかわらず所要時間にして現状で５分程しか違わないということもあってか、普通列車以上に乗ってこないのだそうです《そりゃ高すぎて乗らんわ～》。

　見込まれる赤字額は数百億ウォンに上るとさえいわれ、韓国政府が毎年数百億ウォン（赤字額分！？）を補填するという事態にまでなっています。

　それで、実はこの空港鉄道「Ａ’ＲＥＸ」に今年の４月に実際に乗車し、レビュー等をネット上で公開されている方の記事を２つ見つけたのですが、読んだりしていますと、やはりがら空きだったと報告されています。

　ちなみに以下の２記事です。

「ソウルは快晴」
「初ソウル♪空港鉄道＆プリンスホテルin明洞」

　さて、この空港鉄道「Ａ’ＲＥＸ」の利用低迷の原因ですが、ＭＢＣ報道から、地下鉄との乗り継ぎに際して一切の割引が無いことが影響している模様。

　「乗り継ぎに対して割引を行えば、それだけ運営機関では赤字になります。その点は協約する際の考慮部分ではありません」との空港鉄道営業管理チームのコメントが寄せられているのですが、その結果としてこのような”空気を運ぶ”状況が続くようでは何もならないわけですよね。

　その一方で、バス網が整備されている韓国に於いて、この空港鉄道が開業した後でも仁川国際空港とソウル市内などを結ぶ路線バスの需要が落ち込んだとの話は聞かれず、「荷物が多ければ重くて、バスはすぐ近くまで行きますから」とむしろバスを支持する声が根強いようです。

　ま、金浦空港駅までの部分開業という状態で「１日平均20万人」という利用予測を出していること自体が無茶のような気がしますが・・・日本の公営交通でも、新規開業時や延伸開業時に、大風呂敷を広げるがごとくの需要予測を立てたりすることが多いようですが、今回の空港鉄道のような予測と実態の開きが10倍程度になるような予測の立て方はさすがの日本の公営交通でも恐らくしないとは思いますけど。

　で、改善策としては、やはり運賃制度の見直しが手っ取り早いところでしょう。

　ソウル首都圏では４つの事業体（KORAIL（韓国鉄道公社）・ソウルメトロ・ソウル特別市都市鉄道公社・仁川広域市地下鉄公社）によって「首都圏電鉄」ネットワークを形成しており、このネットワークに属する路線の運賃は運営事業体に関係なく統一され、かつ運賃計算は乗車した区間の全て通しで計算されています。

　現状では地下鉄線との乗り継ぎ割引の導入も有効なのかもしれませんが、将来地下鉄路線（９号線）との直通運転を行うのであれば、いっそのこと「首都圏電鉄」のネットワークに組み入れてもらい、通し計算可能な「首都圏電鉄」共通運賃で乗れるようにすれば大分違ってくると思います。

　もし「首都圏電鉄」のネットワークに組み入れる場合、現在別建て運賃を採っている「直通列車」の扱いが問題となってくるところでしょうが、専用の車両を使っていることから、他の地下鉄電車に乗り継ぐ場合なども考慮して、「首都圏電鉄」共通運賃による普通乗車券に加えて”乗車整理券”を座席数分だけ発行し、これを別途購入させることで乗車出来るようにすればいいのではなかろうか、と考えます《ただ韓国の鉄道は列車種別毎に運賃を定めるのが通常のようで、日本の鉄道で見られるような「乗車券の他に特急券」という運賃・料金システムが韓国の人にも受け入れられるかどうかわからないところですが…》。

　そしてダイヤ面等ですが、これについてはソウルの地下鉄事情を熟知していないことにはなかなか書き辛いところですが、現在建設中の地下鉄９号線の開業後に開始が予定されている直通乗り入れを機にして、利用実態に即したダイヤ編成となるよう見直すこと、また第２段階区間である金浦空港～ソウル間の開業以降にでも、ＫＯＲＡＩＬ広域電鉄線区間と走行方向と電源方式が同一（左側通行・交流25kV＝60Hz）であることから、ソウル近辺からそのＫＯＲＡＩＬ電鉄線区間に直通乗り入れ出来るようにすること等が考えられるところですネ。

　今後とも安定した経営を継続するためにも、会社の都合ではなく、利用者の立場に即した運賃制度やダイヤ作り等は欠かせないところでしょう。

　勿論、安全運行の保持が大前提ですが・・・

　

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