日本の新幹線技術、次は鉄道発祥の地へ・・・・・・英国の高速新線CTRL向け「新幹線ベース」車両の陸揚げ
台湾から始まった日本の新幹線技術の海外への輸出でありますが、中国に続く3例目が、今月、実現へ大きく動き出しました。
しかも今回はアジア圏ではなく、鉄道発祥の地、西ヨーロッパのイギリスが舞台です。
そして今回輸出されるのは新幹線タイプの高速車両・・・
まずは英国を初めとするヨーロッパ地域の経済ビジネス情報を伝えるポータルサイト『NNA.EU』に掲載の記事から・・・
「新幹線の“親せき”登場へ[運輸]」
《『NNA.EU』2007年8月20日付掲載記事》
新幹線の“親せき”が今週にも英国に上陸する。ロンドン~イングランド南東部ケント州間の通勤サービスが大幅に向上する見通しだ。19日付オブザーバーが伝えた。 この車両は日立製作所が2004年に受注したもので、ロンドン・セントパンクラス駅とドーバー海峡を結ぶ高速鉄道「チャネルトンネル・レールリンク(CTRL)」と同線に乗り入れる在来線を走る。最高時速は225キロと、ロンドンとパリ、ブリュッセルを結ぶ大陸間鉄道ユーロスターを除き、国内のどの列車よりも速い。 CTRLは2003年に部分開業しており、年内の全面開通を予定する。新たな車両は2年の試験走行を経て、2009年にも導入される見込みだ。セントパンクラスからアシュフォードへの所要時間は従来の83分から一気に37分に短縮され、ドーバーへも98分から63分に縮まるという。 |
少し言い方を変えるならば、「チャネルトンネル・レールリンク(CTRL)」は英仏を隔てているドーバー海峡の海底を堀抜いているユーロトンネル(英仏海峡トンネル、Channel Tunnel)の英国側出口からロンドンとを結ぶ高速新線を指し、現在は英仏を結ぶTGVベースの高速列車「ユーロスター(Eurostar)」が走っています。
このCTRL(高速新線イギリス国内区間)を走る車両として、3年前(2004年)に日立製作所に対して発注をかけたわけです《厳密には2004年中に日立がイギリスの鉄道戦略庁との優先交渉権を獲得(→「英国鉄道戦略庁とHSBC Rail UKから鉄道車両(約30編成180両)の優先交渉権を獲得」)、交渉の結果、翌年(2005年)に契約を締結しています(→「英国向け新幹線車両陸揚げ」)》。
ちなみに、今年春に開業した台湾高速鉄道(台湾新幹線)の700T系電車は日立を初め川崎重工、日本車輌の3社が生産を行い、また今年1月から”密やかに”営業運転を始めている中国のCRH2型電車は川重と中国の四方機車車輌が生産を行っています《政治的理由からか、中国ではCRH2型電車を”中国製”と喧伝しているようですが、これを却って歓迎する(というか憐れむ!?)声も存在します(→「新幹線技術の世界標準化を喜ぶ」)》。
そして、去る8月23日、ついに鉄道発祥の地イギリスの港に日本製の鉄道車両が陸揚げされたわけです《以下はそのことを報じている新聞記事たち》。
「鉄道発祥国に日本から“助っ人” 日立製車両陸揚げ」
《『産経イザ!』2007年8月25日付掲載記事》
鉄道発祥の地である英国に日本から頼もしい“助っ人”が到着した。2012年ロンドン五輪に向け、英仏を結ぶドーバー海峡トンネル連絡線の一部を走る日立製作所の新型高速車両(6両編成、最高時速225キロ)が23日、神戸港から約1万6800キロの船旅を終え、英南部サウサンプトン港で陸揚げされた。 今後、英サウスイースタン鉄道会社が試験走行を実施し、09年に同トンネル連絡線の一部であるロンドン・セントパンクラス駅-英南東部ケント州アッシュフォード駅間で運行を開始する。同区間の所要時間は現在、83分間だが、36分半に短縮できるという。 同トンネル連絡線は03年9月に部分開業し、年内に全線開業する予定。(ロンドン 木村正人) |
「英国:日本の「新幹線」お目見え…日立製作所製車両」
《毎日新聞(MSN毎日インタラクティブ)・2007年8月24日付掲載記事》
【ロンドン藤好陽太郎】鉄道発祥の地・英国で初めて運行される日本製の鉄道車両が23日、英南部サウサンプトンに到着した。日立製作所が作った新幹線型の高速鉄道向け車両で、近く試験走行を実施。09年に運行を始める。 ロンドンと英南東部アシュフォード間(109キロ)を最高時速225キロで走るほか、12年のロンドンオリンピックでは、ロンドンと競技会場を往復する。今回到着したのは、1編成(6両)。09年までに29編成(174両)を計500億円で納入する。 欧州の鉄道市場は、独シーメンス、仏アルストムの金城湯池だが、日立は「英国進出は、東欧などへ足場を広げる大きなステップになる」(幹部)と意気込みを見せている。 |
「日立受注の高速鉄道、英に到着」
《『NIKKEI NET』・2007年8月24日付掲載記事》
英国内のロンドンとドーバー海峡付近を結ぶ高速鉄道路線で使われる予定で、日立製作所が受注した車両の第1便が23日、英南部サウサンプトンの港に到着した。最高時速225キロで座席数は354席以上。英仏を結ぶユーロスターと路線を共有し2009年の運行開始を予定している。 今回の1編成6両を皮切りに運行開始までに受注した全174両が到着する予定。日立によると英国の鉄道に日本製車両が走るのは初めて。(ロンドン=岐部秀光) |
また、朝日新聞Web版では、イギリスの港での陸揚げを報じるのみにとどまらず、2012年のロンドン五輪(北京五輪の次に開催される夏季五輪大会)に於ける観客輸送を担う存在としてイギリス国内メディアから熱い視線が送られていることも報じています。
「日立製作所の鉄道、英国に上陸」
《朝日新聞(アサヒドットコム)・2007年08月24日-08時07分付掲載記事》
英国の高速鉄道向けに日立製作所が製造した車両が23日、英南部サウサンプトンの港で陸揚げされた。日立の笠戸事業所(山口県)でつくった1編成6両。近く試験走行をはじめ、09年12月からロンドン中心部のセント・パンクラス駅―英南東部のアシュフォード間(109キロ)などを走る。受注は全体で計29編成174両で、維持管理も含め約700億円。日本勢としては欧州で最大の案件だとしている。これを足がかりに欧州での事業拡大に力を入れる。 |
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「「五輪高速列車来る」 日立の車両、英メディアが関心」
《朝日新聞(アサヒドットコム)・2007年08月24日-11時20分付掲載記事》
23日に英南部サウサンプトンに陸揚げされた日立製作所製の高速鉄道向け車両が、英メディアで関心を集めている。2012年のロンドン五輪では観客輸送の一角を担う予定という。英BBC(電子版)は車両の時速を「225キロ」と紹介。09年にも予定される本格導入で「英国内の旅行時間の短縮は約束される」と期待を込めた。 大衆紙デーリー・メール(電子版)は、車両到着を「最初のオリンピック高速列車来る」の見出しで紹介。主会場を結ぶ交通機関のカギになると報じた。 |
上海万博(2010年開催予定)の更に2年後のロンドン五輪を見据えての導入ということになるわけですネ・・・
ところで、実は日立製作所、鉄道車輌製造の分野では、国内の新幹線需要等があって、ここのところ好況で推移しており、山口県の下松にある車両工場ではつい先頃工場の拡張が行われたそうで・・・
「日立製作所、鉄道車両の生産性を向上-山口の工場ライン再編」
《日刊工業新聞(朝日新聞経由)・2007年08月16日付掲載記事》
日立製作所は鉄道車両を製造する笠戸事業所(山口県下松市)でリードタイムを30%短縮するなど生産性を向上させる。現在、生産能力を1・5倍に拡張するため新工場棟を建設中で、その完成に合わせ事業所全体でライン配置を再編し製品の流れを効率化する。国内外での車両、電機品などの需要拡大で売上高は拡大傾向にあるが、原料高騰による利益率悪化が深刻化しており、これを緩和するのが目的。 同事業所は受注増加に対応するため新工場棟を建設中で08年3月に稼働する予定。車両製造能力が月40両から同60両に増加する。これに合わせ、既存の工場棟も含めてラインの配置を検討し、再編する。製品の場内動線や場内物流の改善で生産効率を30%程度高める。 さらに、生産現場での「ムダ取り」などで工数削減を徹底する。車両設計の見直しも併せて、車両完成までのリードタイムを30%短縮する。顧客の短納期要求に対応するともにコスト削減を実現する。 現在、交通システム事業は国内の新幹線需要や海外の旅客鉄道網整備の影響で受注は好調で、売上高も右肩上がり。しかし、鉄道車両は原価に占める購入品比率が「60%以上と高い」(栗原和浩交通システム事業部事業部長)。鉄や銅、アルミ、樹脂など素材高の影響を受けやすく、利益が大幅に目減りしている。生産性向上、リードタイム短縮で素材高騰の影響をすべて吸収できないものの利益率の改善を目指す。 |
ちなみに、日立といえば、関西圏では阪急電鉄の車両の製造元でも知られています《以前は旧阪急(現・阪急阪神ホールディングス)の連結子会社だった「アルナ工機」が製造していましたが、債務超過に陥り、日立がその後を引き受けている形となっています》。
少し話が逸れましたが、鉄道発祥の地であるイギリスに日本の新幹線ベースの車両が納入されることは喜ばしいことなのですが、一方で、現在のイギリスの鉄道を語る上で無視できないのは、最近多発しているといわれているイギリス国内に於ける鉄道事故。
イギリス国鉄(British Rail)は経営悪化等を理由に1994年から分割民営化に着手、その方法は、簡単に言えば、経営の上下分離を行った上で列車運行会社等も細分化するというもので(線路等の鉄道インフラの保有については一つの会社が担当していたが、その後倒産して国有企業に承継)、「イギリスにおける鉄道民営化問題」によると、26の列車運行会社、3つの車両リース会社、4つの貨物運送会社・・・等に分割され、また「英国鉄民営化の壮大な実験終わる-英国の鉄道技術と技量は荒廃の極に-」によると、民営化の際、当時「小さな政府」を目指していた”鉄の女”サッチャー政権の下で政治家たちが「鉄道経営は鉄道の専門家でなくても出来る」、「鉄道幹部は鉄道実務を知る必要はなく、見識を持っておれば十分」等と主張、当時鉄道専門家たちが抱いていたであろう危機感を一蹴したそうです《なお、「[CCIPS]英国の鉄道」に於いても現代イギリスの鉄道の生々しい裏事情が綴られています》。
そしてそのようなイギリスの鉄道の民営化の結果がサービス低下と鉄道事故の多発となって現れてきているわけで、最近の例としては今年2月にイギリスの運行会社の一つであるヴァージン鉄道(ヴァージン・トレインズ)のロンドン発スコットランド・グラスゴー行の高速列車「ペンドリーノ(Pendolino)」が、イングランド北西部カンブリア(Cumbria、湖水地方)にて脱線、1人が死亡、87人が重軽傷を負うという事故が発生、原因はポイント故障だとしていますが、その後の調べで、ポイントの転てつ棒3本のうちの1本がなくなっており、残りの2本も折損、その上にボルトやナット、座金もきちんと締められておらず、何本かは現場付近で見つかったものの残りは見当たらなかったとしています《→「Cumbria Train Crush/カンブリア列車事故」・「2・23イギリス鉄道事故~民営化に大きな懸念」》。
尤もイギリス国内のユーロスター走行区間(CTRLとか)に於ける鉄道事故は今のところ発生していない模様ですが・・・・・・
なお、参考までに、イギリスを含めたヨーロッパ地域で過去に発生した高速鉄道事故をまとめたレポートもネット上に公開されていますので(→「続発する欧州の高速鉄道事故」)、よろしければ併せてごらんになって下さい《英国国内でも高速列車などが関係する事故が過去に起きているんですネ…》。
今年11月14日にはユーロトンネル(英仏海峡トンネル)の英国側出口よりロンドンまでの高速新線CTRL(109km)の全線開通が予定されており、その高速新線内を走るケントエクスプレス〔Kent Express;6両(多客時は6両+6両=12両)編成で運転。最高速度225km/h〕として走ることになるであろう日本の日立製作所製の「新幹線ベース」車両。
地元イングランドの民にも、そして英国を訪れる観光客にも、満足してもらえる走りを見せてくれるのかどうか、車両性能はもとより、イギリスCTRLの保線現場、そして車両運用等の真価が問われようとしています。
最後に、その今月11月14日に全線開通予定となっているイギリスの高速新線CTRLの沿線風景を映し出している動画を『YouTube』に寄せられた動画の中から以下にて紹介します《4本目のみ車窓からの撮影》。
尤も、以下の動画に映し出されている列車はあいにく全て「ユーロスター」ですが《4本目は「ユーロスター」車内からの撮影でしょうね》・・・
まあ、雰囲気だけでも味わってもらえれば幸いです《それにしても、「ユーロスター」の通過音、何時聴いてもあの独特の風切り音(というか機関車モーター音?)はたまりませんネ》。
【おことわり】
『Google Video』や『YouTube』等の動画投稿サイトにて公開されている動画については、今後、投稿者或いは運営サイドの判断等により削除される可能性があります。その場合、お楽しみいただけなくなりますことを予めご承知おき下さい。
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