北朝鮮の鉄路に”コンクリート枕木”と”光ファイバー敷設”!?・・・・・・南北朝鮮間試運転から2ヶ月、4カ国の動き
去る5月17日、日本国内でも大々的に報じられていましたが、南北朝鮮間の鉄道試運転が実に56年ぶりに行われました。
1回限りのことだったとはいえ、朝鮮戦争以来分断されている南北朝鮮の軍事境界線を南北朝鮮の各列車が跨いだことは鉄道好きの私にとっても驚きでした。
本ブログでも「慶祝!南北朝鮮間鉄道試運転・・・・・・」という記事の中で、『産経イザ!』掲載記事などを交えながら、お伝えしている他、記事掲載後には動画投稿サイトにもこの南北試運転の模様を伝えるニュース映像が以下のように寄せられています。
《NNNニュース》
《FNNニュース》
南北56年ぶり鉄道往来 他
《読売新聞動画ニュース》
しかし、この試運転の後、国内外の各メディアから今回の南北朝鮮鉄道試運転に対する論評がちらほらネット上に寄せられているのですが、共通して言えることは南北朝鮮間での認識のズレが浮き彫りになっていること。
まずは南北列車試運転の2日後(5月19日)の日付で毎日新聞Web版(MSN毎日インタラクティブ)に掲載された以下の論評記事。
「韓国・北朝鮮:同床異夢、南北鉄道 したたか北朝鮮、見えぬ「次回」」
半世紀以上も途絶えていた韓国と北朝鮮の列車往来が、17日の試験運行でついに実現した。分断史上まれな明るいニュースだ。しかし「1日限り」の背景には複雑な事情もある。韓国政府が当面の目標とする限定的区間での実用化ばかりか、2回目の試験運行さえ容易ではあるまい。【ソウル中島哲夫】 ■南北の温度差 韓国の京義線〓山(ムンサン)駅を出発した列車が軍事境界線を越える時、南側団長の李在禎(イジェジョン)統一相は韓国側の乗客と次々に握手し、民主化勢力の愛唱歌「われらの願いは統一」を合唱した。だが、北側団長の権浩雄(クォンホウン)内閣責任参事は窓の外を眺めていた。同乗した韓国共同取材団の報告だ。 取材団はほかにも、韓国での盛大な祝祭と北朝鮮での簡素な行事や沿線住民の歓迎の薄さなど、南北の「温度差」を伝えた。北朝鮮メディアは17日夜、事実関係を素っ気なく報じただけ。 韓国統一省によると、00年の南北首脳会談を機に動き出した鉄道連結事業は、61回延べ196日にわたる各種の南北会談を必要とした。韓国側の熱意に便乗して利益を得ようという北朝鮮の姿勢を反映している。 ■「海上境界線」 04年以降は毎年、試験運行に合意したが、昨年まですべて不発。主因は安全運行のための軍事的保障措置に北朝鮮が合意しなかったことだ。条件は、韓国が海上の南北境界と見なす「北方限界線」の廃止と再設定だった。 朝鮮戦争(1950~53年)の休戦協定では陸上の軍事境界線だけが確定した。北方限界線はその後、米軍主体の国連軍が線引きしたもので、黄海側では国連軍が支配していた北朝鮮沿岸の諸島より北に設定。北朝鮮はこの海域での行動に制約がある。海軍力が弱い北朝鮮はおおむね北方限界線以南への侵入を自制した。しかし、99年6月と02年6月には侵犯を繰り返した上で韓国側艦艇と交戦、死傷者が出た。 北朝鮮が1日限りの措置に応じたのは、韓国が事実上の見返りとして8000万ドル相当の軽工業原料支援を提示したからだという見方が有力だ。 韓国政府は金剛山観光や開城工業団地に活用すべく試験運行区間の実用化を目指すが、これには恒常的な軍事的保障措置が必須。だが北朝鮮が北方限界線の再設定や経済的見返りを求める構図が急変する兆候はない。 ■老朽化も障害 韓国政府は、今回の試験運行が韓国からロシアや中国を経由し欧州に至る鉄道連結にも道を開くと説明する。ただ、そのためには老朽化が深刻な北朝鮮の鉄道整備が不可欠で、どれほど巨額の費用がかかるか分からない。韓国での報道によるとロシアがシベリア横断鉄道との連結に関心を表明したのに対し、北朝鮮はロシアの支援で国内鉄道網を補修しようという思惑を示したという。 一方、韓国の李統一相は18日のラジオ番組で「国際社会が参加して開発資金を投入するといった方法でないと、我々だけの力では難しいだろう」と述べた。ユーラシア大陸横断鉄道との連結はまだ夢物語のようだ。 |
次に去る6月5日に産経新聞Web版に掲載された以下の論評記事。
「同床異夢が露呈「南北列車」運行 韓国「常時」、北朝鮮「1回限り」」
朝鮮半島の南北を分断する軍事境界線を越えて、56年ぶりに列車が往来した。試運転とはいえ、朝鮮戦争(1950~53年)の休戦協定締結後初めての出来事を、対北融和政策を続けている韓国政府は歓迎したのに対し、北朝鮮側は1回限りの運行に最後まで固執した。列車が常時、行き交う日はまだまだ遠いようだ。(外信部 名村隆寛) 5月17日に運行されたのは、「京義線」と「東海線」の南北を連結した路線だ。連結は2000年7月の南北閣僚級会談で合意され、03年6月に軍事境界線上で式典も催されていた。しかし、昨年5月に予定されていた試運転は北朝鮮の直前の通告で中止となり、今回、やっと実現した。 朝鮮半島では今も、軍事境界線を隔てて、北側に約111万人、南側に在韓米軍約3万人を含む約72万人の兵力が対峙している。列車が境界線をまたいで走るには、安全保障上の取り決めが必要であり、運行に先立ち南北将官級軍事会談が開かれたのはそのためだ。 席上、韓国側は、試運転に限らない広範な安全保障措置を求めたものの、北朝鮮側は1回限りの保障措置を主張。結局、南北は「暫定的な安全保障措置」で合意し、列車の常時往来は今後に持ち越されることになった。安全保障措置の詳細は公表されてはいない。 とはいえ、今回の試運転は、対北融和政策を始めた金大中前政権以来、7年越しの悲願の実現であり、盧武鉉政権にとって対北政策の成功をPRする好機だ。 当日は、「平和に向けて一歩を踏み出す重要な契機となろう」(盧大統領)、「大陸との連結の一歩。試運転で終わるのではなく、定期運行を目指す」(李在禎統一相)と、韓国側はバラ色の夢を振りまいた。 だが、実際には、南北の思惑の違いが表面化する。 韓国の列車が北上した京義線の始発駅、●山は見送りの者や関係者であふれ、南北和解の祝賀ムードに包まれた。だが、韓国メディアによると、北朝鮮側の開城駅でこの列車を待ち受けていたのは、故金日成主席の肖像画や「偉大な指導者、金正日同志万歳」と大書された看板などだった。 さらに、東海線を南下した北朝鮮の列車の側面には「偉大なる首領、金日成同志がお乗りになった車両。1968年8月9日」と書かれ、韓国側で行われた列車の歓迎行事では、北朝鮮の鉄道相が「偉大なる将軍様(金正日総書記)のお導きにより、運行が実現した」と述べたという。 北朝鮮には、金日成・金正日父子礼賛と対南宣伝の場に過ぎなかったのだ。 韓国側は連結工事にすでに約7000億ウォン(約875億円)を投入しており、試運転の見返りに、北朝鮮に対し、8000万ドル(約96億円)相当の経済支援(有償)やコメ40万トンの支援を行う方針だった。だが、1日の南北閣僚級会談で韓国は、北朝鮮の核問題が進展していないことを理由に、コメ支援を留保。列車の段階的開通などの問題は議論されずに協議は決裂した。 板門店では8日、南北軍事実務協議が開かれ、列車の常時往来に向けて、安全保障措置が議題に上る予定だが、現状では、劇的な合意は期待できそうにない。 《●=紋のいとへんをさんずいに》 |
そして、在日韓国人の手で日本国内にて発行されている『統一日報』のWeb版に試運転の6日後(5月23日)の日付で掲載された以下の記事。
17日、56年ぶりに行われた南北縦断鉄道の試験運行は1日だけのイベントだった。今後、定期運行をするかどうかは見通しすらたっていない。着工から試験運行まで、韓国政府が払ったカネは5454億ウォンに達した。さらに正式開通までには数千億ウォンが必要とされる。統一部は「投資」と考え、追加費用を惜しまない構えだが、北朝鮮は受諾する姿勢を示していない。(ソウル・李民皓) 正式開通への見通し立たず 南北は2000年9月、京義線(ムンサン~開城)と東海線(猪津~金剛山)の修復に着工した。工事は急ピッチで進んだ。1年後、試験走行の準備は整っていた。 運行計画はしかし、南北間の外交駆け引きに使われ、何度も流れた。 鉄道修復から7年、ようやく最初の「試験運行」にこぎつけた。 韓国の関心は高かった。開通行事は盛大に行われ、市民は自発的に現場に集まった。一方の北朝鮮は、動員されたと思しき学生たちを除けば、それほど注目されているとは思えなかった。 今後の関心事は、鉄道の「正式開通時期」だ。韓国政府は、年内の正式開通を目標にしている。 開城までだけでも鉄道が開通すれば、南北間の経済交流は飛躍的に発展する。現在1日2回に制限されている韓国人の開城通行が随時できるようになれば、公団の作業能率は上がる。 開城工団製品を釜山まで輸送して、釜山港から輸出すれば、輸送費の大きな節約にもなる。 1TEU(20フィートコンテナ1台分)の荷物を、開城から釜山まで貨物船で運ぶと、運賃は約165万ウォンだが、列車なら75万ウォンで輸送可能だ。コメや肥料の海上輸送は、現在1TEU当たり75万ウォンだが、ソウル~平壌間を鉄道で輸送すれば、運賃は20万ウォンもかからない。 しかし、韓国政府が希望する年内の開通を、北朝鮮が簡単に受諾するはずはない。対価を要求する公算が高いからだ。 着工から試験運行まで、韓国政府が払ったカネは5454億ウォンに達する。 「これ以上技術費用はかからない」と政府は言うが、北朝鮮は注文を付けてくるだろう。 北朝鮮はすでに、休戦線以北地域にある板門駅などの駅舎と、信号機設置に使う資材と機械を要求している。さらには鉄道周辺の環境美化のための費用まで出してくれと言ったことも明らかになった。 南北連結区間の電化や複線化を要求されれば、数千億ウォンの費用と最低1年以上の時間が必要になる。北側の鉄道は老朽化し、信号体系は韓国と違うので新設しなければならない。少なくとも1兆ウォン以上が必要になると分析されている。 統一部は「費用がいくらかかろうとも投資」という考えだが、国民的合意は必要だ。 さらに大きな障壁は、北朝鮮の強硬な態度だ。 北朝鮮は今回の試験開通を「一度だけ」を条件に受諾した。56年ぶりの「短い出会い」は、次回までの「長い約束」の序章になるかもしれない。 |
更に『NIKKEI NET』内の『NETアイ~プロの視点』というコラム・コーナーに去る6月4日付で掲載された「韓国の情緒の研究」の中にも南北試運転について論じている項目がありますので、その部分だけを抜き出してみました。
盛り上がった南北直通列車 もうひとつは対北朝鮮。5月17日に韓国と北朝鮮の間で、朝鮮戦争以後初めて軍事境界線を超える直通列車が運行された。もっとも、ソウルと平壌が結ばれたわけではなく、東西の2路線の短い区間で、一回に限って試験的に運行された。これで何かが変わるわけではない。「南北関係改善」イメージを作りたい韓国政府と、援助が欲しい北朝鮮の政権が政治ショーを合作したに過ぎない。 普通の国民の多くもこれを見抜いている。だが、韓国のメディアは保守系新聞でさえ、社説や解説記事では問題点も指摘しながらも、本記や雑感記事では「統一へ一歩」、「アジア大陸横断鉄道へ」といった事実に立脚しない見出しをつけ、大いに盛り上げた。 冷戦期に韓国政府は軍事境界線沿いの最終駅に「鉄馬は走りたい」との看板を掲げた。南北直通列車の中断を「北の侵略」や「共産国家の無法ぶり」の象徴として世界に喧伝するのが目的だった。一方、この宣伝により国民にとって「鉄路分断」は「民族の悲劇」の象徴に昇華した。このためメディアの間には「一回でも、ほんの10キロでも直通列車が運行されれば、悲劇の解消や統一への前進と書かざるを得ない」空気が生まれた。 国民が「直通列車」の胡散臭さを感じていても、いったん「直通列車実現こそが南北関係の改善」という空気がメディアによって固定されれば、韓国はますます北朝鮮の術中にはまることになるだろう。北朝鮮は今後、「直通列車」を新たな交渉カードとして使えるようになったからだ。 韓国の次期政権をコントロールしたい時、北はいったん直通列車の運行に同意しておき、直前になって「南の大統領が我が方に敵対的だから運行許可は取り消す」といえばいい。それに呼応し、韓国内には「盧武鉉政権下では実現できたのに」という親北派の批判があふれるだろう。 |
要は、南北統一への第一歩といわんばかりに国を挙げてお祝いをする等して今後の南北朝鮮間の恒常的列車運行に向けて積極的に働きかける韓国に対し、北朝鮮は対外工作の一環とか何らかの見返り(というか援助)を引き出すための一道具にしか捉えていない雰囲気のようで、自分ところの内部体制が脅かされるのを恐れている感じもしますネ《尤も今に始まったことではありませんが…》。
そんな、南北朝鮮の本格的な直通運転に消極的とされる北朝鮮ですが、一方で、昔から平壌からの国際列車を走らせている(というか目的地になっている)中国とロシアを意識しての鉄道近代化事業のほうはどうやら積極的に推し進められていることが伝えられてきています。
以下はそのことを伝えている、韓国メディア『中央日報』の日本語版Webに去る7月17日付けで掲載された記事・・・
「ユーラシアへ」。 北朝鮮が、シベリア横断鉄道(TSR)および中国横断鉄道(TCR)との連結による経済的実益確保を念頭に置いて鉄道の現代化に拍車を加えている。 北朝鮮鉄道省のチュ・ジェドク局長は17日、朝鮮新報とインタビューし「今後経済がさらに発展すれば、中国とロシアを通じてユーラシア大陸とつながり、物流量も増えるだろう」とし、最近北朝鮮で推進されている鉄道現代化事業を紹介した。 鉄道現代化のうち最も注力している点は通過能力向上のための事業で、北朝鮮は従来の枕木をコンクリート化している。 また機関車の性能を高めて牽引力を向上させるため、国家科学院鉄道科学分院は機関車工場および貨車工場と産学協同を強化している。 鉄道運営システムを現代化するため鉄道専用光通信網構築事業にも拍車をかけ、「平壌(ピョンヤン)-端川市(タンチョンシ)」区間で光ケーブル設置工事を終えたほか、「平壌-平安南道(ピョンアンナムド)ゴチャ」間にも先端通信設備を設置している。 朝鮮新報は「(北朝鮮は鉄道現代化のために)他国との協力・協調も積極的に推進している」とし「対象は主に中国とロシア」と明らかにした。 特に、ロシアとの鉄道協力事業が強化され、5月末には「羅津(ラジン)-ハサン」区間の現代化に関する了解覚書を締結、北朝鮮側鉄道実態共同調査事業、鉄道関係者の相互訪問などの事業も進めている。 朝鮮新報は「今後、南北鉄道が連結し、中国やロシアともつながれば、朝鮮半島を中心にした輸送網の構築についても議論される」と伝えた。 |
これまで「中国の警備隊員も「貧乏だろ」とあざ笑うサビだらけの鉄道」や関連書籍等で伝えられて来ているように、枕木は腐食して欠け落ちて犬釘がむき出し、スピードが出ずおまけに停電でしばしば止まって何時着くのかわからない・・・等といった悲惨なイメージが付きまとう北朝鮮の鉄道に、”枕木のコンクリート化”や”産学協同による新しい機関車の開発”、そして”光ファイバー敷設”・・・・・・正直、腰を抜かす思いでした。
それで、今回中央日報により報道された北朝鮮による”鉄道現代化”の動き、実は今から約3年前にその端緒とも受け取れる動きがモスクワで行われた3カ国会議の中で見られた模様で、以下はその時の模様を伝える、朝鮮日報・日本語版Webに去る2004年5月7日付けで掲載された記事・・・
シベリア横断鉄道(TSR)と韓半島縦断鉄道(TKR)の連結に向けた南北とロシアの鉄道専門家による初の3国会議が先週、モスクワで開かれた。 韓半島での鉄道連結問題の浮上から3年目に開かれる会議である上、龍川(リョンチョン/竜川)駅の鉄道事故以来、初めて朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の鉄道専門家が参加する会議ということで、注目された。 路線問題や北朝鮮側鉄道の現代化、財源確保問題など、山積みとなった問題を論議するための会議だったが、これといった成果なく幕を閉じた。 鉄道連結事業に向け最も急がれた北朝鮮側鉄道の現代化問題について、北朝鮮代表団はロシアとの鉄道交渉を根拠に、全面的にロシア側が進めるべき案件と主張、財源準備のためのコンソーシアム構成は、話し合いすらできなかった。 次回会議の日取りも決まらなかった。もちろん6月まで各国の事情を勘案し、追って実務会議を行うとしたものの、いつになるかは不明だ。 特に、韓国側は、北朝鮮側鉄道の実地調査レベルからコンテナの試験運送を提案したものの、北朝鮮側は否定的反応をみせた。 2001年、すでにロシアが豆満江(トゥマンガン)~平康(ピョンガン)区間など、これまでに3回も鉄道実地調査を行っているため、加えて韓国にまでコンテナ試験運送を許し、北朝鮮鉄道を把握させることはできないというのが、北朝鮮側の反応だった。 北朝鮮鉄道の現代化に必要な投資額は25~30億ドル程度と推定されるというが、これはロシア側の実地調査結果による推算額に過ぎない。われわれはロシアの実地調査資料を受け取っておらず、どのような調査を基にこのような金額がはじき出されたのかも分からない。 鉄道連結問題は、3国が緊密に情報を交わし進めたとしても足りないだろう。北朝鮮側鉄道の実地調査にわれわれが直接乗り出すか、あるいはロシアの実地調査資料でも受け取るべきではないか。 それがダメなら、やれ「鉄のシルクロード」だ、やれ「ユーラシア鉄道網の連結」だといった構想は、卓上の空論として終ってしまうだろう。 |
上記記事にもありますように、話し合い自体は不調に終わるわけですが、本ブログに掲載の「慶祝!南北朝鮮間鉄道試運転・・・・・・」という記事の終わりのほうで少し書いていますが、今年に入ってロシアは欧米との石油価格交渉を優位に持っていくための日本・韓国向け石油貿易強化を狙ってシベリア鉄道に繋がる北朝鮮鉄路の近代化に本格的に取り組み始めていることが報じられ、また中国もまた吉林省から豆満江(図們江)を渡って北朝鮮を経由してロシアのシベリア鉄道に繋がる鉄路ルートを使っての輸送再開に向けての取り組みを進めていることが伝えられる等、主に北朝鮮北部国境地帯を巡る鉄道による貿易拡大とそれに伴う鉄道整備の動きが見られるようになってきています。
そのロシアによる取り組みについても進展が見られるようです。以下は何れも韓国の『聯合ニュース』日本語版Webに掲載された3記事・・・
「北朝鮮とロシア、羅津~ハサンの鉄道近代化へ」
《5月27日付掲載記事》
【ソウル27日聯合】北朝鮮とロシアが、羅津~ハサンの鉄道区間の近代化に関し了解覚書を締結した。ロシアの国営放送「ロシアの声」が27日に伝えた。 ロシア鉄道と北朝鮮鉄道省の代表は4月末で平壌で協議し、覚書を結んだ。覚書には、ロシア沿海地方の国境にあるハサン駅から北朝鮮の羅津港までの鉄道区間を改善・近代化するために合弁企業を設立することが盛り込まれているという。この会社はまた、羅津のコンテナターミナルも建設する。鉄道の近代化作業が終われば、北東アジアからロシアや欧州に向かう商品を経由・輸送する新たな基盤施設が共同運営されるとした。 双方はこの計画に関する技術的、財政的な問題を話し合うための実務委員会を作り、初会合を6月に平壌で開くことに合意している。 |
「韓・ロの鉄道公社、合弁物流事業に向けMOU締結」
《6月19日付掲載記事》
【大田18日聯合】コレール(韓国鉄道公社)とロシア鉄道公社が、釜山~北朝鮮・羅津~ロシア・ハサンの鉄道区間をシベリア横断鉄道と連結し、韓ロ共同物流事業の実現を目指すとの内容で了解覚書(MOU)を結んだ。コレールが19日に明らかにしたところによると、MOUはロシアのモスクワで16~18日に開かれた韓・ロ鉄道運営者会議で締結された。 主な内容は、▼韓国の物流企業連合とロシア鉄道公社による合弁会社設立に向けた交渉推進▼羅津~ハサンの鉄道区間を経由するコンテナ運送事業の実行▼第2回韓・朝・ロ鉄道運営者会議開催など。 コレール関係者は、朝鮮半島縦断鉄道とシベリア横断鉄道を結ぶ韓ロ物流事業が実現すれば、韓国とロシア間の経済交流の幅が拡大するだけでなく、欧州までの運送費が海運より安くなるため韓国物流業界の活性化にも役立つと期待を示した。 |
「釜山~羅津~ハサンで貨物試験運送、8月中に推進」
《6月27日付掲載記事》
【大田27日聯合】釜山港を出発した貨物を北朝鮮・羅津で朝鮮半島縦断鉄道に積み替え、ロシア・ハサンを経てシベリア横断鉄道まで輸送するパイロット運送事業が8月中に推進される見通しだ。コレール(韓国鉄道公社)が27日、政府大田庁舎で開かれた記者懇談会で明らかにした。 コレールは、韓国とロシアが合弁会社設立に向けた実務協議を行っており、ロシアが事前協約を通じ北朝鮮の了解を得たと述べた。合弁会社が設立されれば、羅津港埠頭(ふとう)改善事業や羅津~ハサン区間の鉄道改良事業に本格的に乗り出すことになるとした。日程の詳細は、統一部などの関係官庁と協議し決定するという。 現在はロシア鉄道公社側と大枠で合意した状況で、具体的な投資額などは確定していない。今後、実務レベルの協議で意見を交わす予定だ。このほか、韓国と北朝鮮、ロシアの鉄道代表による鉄道運営者会議の開催に向け準備していると、コレールは説明した。 コレールは16日から18日までロシア・モスクワで開かれた「韓・ロ鉄道運営者会議」で、ロシア鉄道公社と韓ロ共同物流事業の実現を目指す覚書(MOU)を締結している。 |
つまり、釜山から鉄道を使うのではなく、釜山から北朝鮮北部の羅津までの間は船舶を使って輸送し、羅津からは鉄道貨物車に積み替えて輸送するという形で構築されたようでありますが、とりあえずはロシアの思惑通りに事が運んできている、ということでしょうね。
ただ、北朝鮮の羅津に目を付けているのはロシアだけではないようで・・・
「中国・ロシアが羅津港争奪戦」
《『中央日報』日本語版Web・6月19日付掲載記事》
中国とロシアが北朝鮮の羅津港開発をめぐり、争奪戦をしている。 外交通商部関係者は15日「ロシアのウラジーミル・ヤクーニン鉄道公社社長が来月、訪朝し、羅津(ラジン)~ハサン区間(約55キロ)の鉄道改・補修プロジェクトを本格的に推進する」と明らかにした。 ヤクーニン社長は先月25日、ロシアを訪問した韓明淑(ハン・ミョンスク)前総理に「羅津~ハサンプロジェクトにプーチン大統領の期待が大きい。韓国企業の多くの参加をお願いしたい」と述べたという。ロシアは今年の3月、モスクワで行われた朝ロ経済共同委員会でもこれを論議したということだ。ほかの政府関係者は「羅津~ハサン区間は旧ソ連の支援で建設され広軌(1520ミリ)が敷かれ、600億ウォンあれば現代化が可能」と説明した。 ヤクーニン社長は韓国企業の投資を誘致しようと昨年7月に訪韓している。ロシアは羅津港を極東地域の物流基地で活用するが長期的には▽シベリア横断鉄道(TSR)連携事業▽東シベリア石油・天然ガスの輸出仲介基地▽対北影響力拡大--などを狙っていると分析された。特にTSRと韓半島縦断鉄道(TKR)を連結する事業は30億ドル規模の大型プロジェクトに挙げられる。 中国は東北3省の経済開発と東海(トンヘ、日本海)、太平洋への進出のために羅津港に目をつけている。外交部当局者は「東北地域の輸出入の窓口である大連港が飽和状態である上、羅津港が吉林、黒竜江地域に近接し、脚光を浴びている」と話す。琿春~大連は1300キロ、琿春~羅津は93キロだ。政府関係者は「中国は計10億ドル以上投資する意思を北側に知らせたと聞いている」と述べた。投資項目は ▽琿春~羅津区間鉄道建設▽羅津港埠頭建設▽道路網建設と財政費▽保税区、工業区建設--などと伝えられている。専門家たちは「中国は羅津港を足がかりに東海に進出しようとしている」と分析した。中国は韓・中国合作企業を通じて先月から羅津~釜山(プサン)間に週1回コンテナ船を就航している。 対外エコノミクスポリシー研究院(KIEP)は最近「北核と朝中経済関係展望」報告書で「中国は北朝鮮との道路、港湾地域一体化という戦略目標によって丹東~新義州(シンウィジュ)、集安~満浦(マンポ)、琿春~羅津、先鋒など接境都市間の連携インフラ開発事業に集中投資する可能性が高い」と話している。 ◆羅津港 総面積38万平方キロ(約111万5000坪)と計10の船籍をもつ。年間貨物処理能力は300万TEUと推定される。韓半島と中国、ロシアにつながる戦略的要衝地であり、水深が深く、港湾開発に有利な条件を取り揃えている。北朝鮮は1991年12月羅津、先鋒(ソンボン)地域を自由経済貿易地帯に設定したが、大きな成果をおさめることができなかった。 |
中国もロシアと同じようなことを考えていたんですネ。しかもロシアより行動が早い!《だから石油の値段が上がるんだ・・・というのは論理の飛躍のし過ぎ?》
そして、韓国も黙っていませんね。
先の南北朝鮮間列車試運転の成功を受け、その先のまさしく雄大な計画を既に練っているそうで、以下はそのことを報じている2つの記事・・・
「南北縦断鉄道:大陸横断鉄道計画の実現可能性は
」
《『朝鮮日報』日本語版Web・5月18日付掲載記事》
京義線と東海線が試験運転でつながった17日、政府関係者が語った大構想がある。韓半島(朝鮮半島)縦断鉄道(TKR)とシベリア横断鉄道(TSR)を連結するいわゆる大陸横断鉄道計画だ。 東海線の列車に乗った李庸燮(イ・ヨンソプ)建設交通部長官は記念式典で、「韓半島からヨーロッパ大陸までの鉄のシルクロード時代が開かれれば、韓半島はユーラシアと太平洋を結ぶ物流の拠点として世界経済の中心へと飛躍できるだろう」と語った。TKRとTSRがつながれば釜山・平壌・新義州を通過しシベリアを経てパリやロンドンまで続く大陸鉄道時代を迎えるという大きな意味を持つ。 しかし今のところこの構想は夢のような話にすぎないとされている。北朝鮮がわずか30キロの試験運転もためらっているのに国土全体を通過する韓半島縦断鉄道を認める可能性は低い。北朝鮮が同意しても核問題が解決せず、また金正日(キム・ジョンイル)体制が不安定な状況では他国が関心を示すこともないだろう。最近は不安定な北朝鮮を避け中国と海底トンネルで結びシベリア横断鉄道につなげるというアイデアも出ている。 |
「北京五輪で国際列車運行、コレール社長が構想」
《『聯合News』日本語版Web・7月31日付掲載記事》
【ソウル31日聯合】コレール(韓国鉄道公社)の李哲(イ・チョル)社長は31日、南北間の鉄道運行を基盤に、2008年の北京オリンピックで国際列車の運行を目指す考えを示した。鉄道フォーラム5周年記念式に出席した李社長は、韓国鉄道の海外進出と発展方向をテーマに講演し、国際鉄道事業の活性化に向け政府レベルでの支援を模索しており、南北鉄道協力事業に南北経済協力基金による支援など民間投資保障が必要だと述べた。北朝鮮の羅津とロシアのハサンを結ぶプロジェクトのほか、開城工業団地への列車や金剛山観光列車などの運行事業を推進する。 羅津~ハサンは、韓国とロシアが合弁で物流会社を設立し、羅津港を経由してシベリア鉄道で運送事業を行うもので、来月から合弁企業の妥当性検討に向けた実務交渉が始まる見通しだ。 李社長は特に、韓日中ロの国際鉄道観光協力ネットワークの構築や、海外観光事業活性化に力を入れており、韓中ロの観光協定などを媒介に、2008年の北京五輪で国際列車が運行できるよう協力を進める考えだ。 |
あの5月の南北朝鮮試運転の際、韓国の政府高官が朝鮮半島からヨーロッパ大陸に向けて鉄道をつなげれば物流の拠点として朝鮮半島が世界から注目されるという意味のことを記念式典の場で語り、これを受けてか(少なくともこの試運転事業が下敷きになっていることはどうやら間違いなさそう)、韓国のKORAIL(韓国鉄道公社)が来年開催の北京オリンピックに於ける国際列車の運行を思い立ったということになるわけですが、北朝鮮の現状を考えると、これはかなり思い切った決断であり、まさしく”茨の道”が続くことは想像に難くないところでしょう。
それで、来年開催の北京オリンピック(北京五輪)を動機としているのは、今回報じられた韓国KORAILの例以外にも、韓国ソウル近郊の仁川国際空港でも現在建設中の2期目拡張工事を北京オリンピック開幕に間に合わせるべく時期を前倒ししているという例もあり(→「更なる競争激化か、仁川国際空港とその周辺国の空港・・・・・・あの関空も貨物で”参戦”!?【韓国SBS報道】」)、北京オリンピックを機に朝鮮半島の交通体系に変革をもたらすことが大いに期待出来そうですネ。
それにしても「コレール」という言葉に初めて接したとき、何処かの下着メーカーの名前か、はたまた化粧品メーカーの名前なのか、マジで思ってしまいました《こう思うのは私だけ?》。
それはともかくとして、来年の北京オリンピック前後の朝鮮半島、そしてその周辺の国々(特に中国とロシア)の交通情勢が果たしてどうなっているものなのか、これは見ものですネ。
もしかすると、言葉がよくないかもしれませんが、戦前、朝鮮半島が日本統治だった頃に可能だった、東京から鉄道や船(連絡船)を乗り継いで下関・朝鮮半島・ロシア等を経由してパリやロンドンまで行く、ということがまた出来るようになるかもしれない《所要日数は片道約15日間。尤も今では東京からロンドンまで航空機(直行便)で片道約12時間半らしいのですが》・・・・・・
引き続き見守っていきたいと思います。
【おことわり】
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