”パヴァロッティのマスタークラス”とベートーヴェンの「第九」・・・・・・「第九」合唱に際しての教訓を探索!?
こちら大阪は午前中曇りがちの空模様の上に風が吹いていたため涼しかったのですが、午後からは風も弱まり、ちょっぴり暑い感じだったかな・・・
とはいえ、この先1週間はぐずつき気味の天候が続くようで(約1日除いて)、一時のような”猛暑”は少なくともこの先1週間は無さそうです《ホッ…》。
ところで、「世界3大テノール」の一人だったイタリア生まれのルチアーノ・パヴァロッティが去る9月6日に逝去、各種マスコミでも報じられ、ネット上でも大きな話題となっていましたネ。
そのパヴァロッティですが、ネット上で色々見ていますと、どうやらオペラのほうに活動の軸足を置いていたようで、オペラ以外の音楽作品、例えばバッハの『マタイ受難曲』やヘンデルの『メサイア』でパヴァロッティがソロを務めたという話を聞きませんし、ましてや器楽的要素の強い声楽入りの交響曲、例えばお馴染みのベートーヴェンの「第九」でソロを務めたという話は聞いたことがありません。
そういえば「世界3大テノール」の残りの2人のうち、ホセ・カレーラスもパヴァロッティと同様に「第九」のソロで歌ったという話は聞きませんが、プラシド・ドミンゴは「第九」のテノール・ソロにも参加していましたネ(→「1970年「ベートーヴェン・イヤー」に於けるバーンスタイン=VPOによる「第九」・・・・・・『YouTube』より」)。
それはともかくとして、パヴァロッティ自身のポリシーといいますか、純粋な音楽作品よりもドラマティックなオペラで挑戦し続けたい、という考えがあったんでしょうネ《違うかも知れませんが…》。
そんなパヴァロッティなのですが、『YouTube』内を見回しますと、なんと彼自身が開いたマスタークラスの映像が投稿されているのを発見、パヴァロッティのまた違った一面をかいま見る思いがしました。
このパヴァロッティのマスタークラスに関してはネット上では話として殆ど伝わっておらず(少なくとも日本語の範疇では)、「『ルチアーノ・パヴァロッティ』、死去。」と「ルチアーノ・パヴァロッティの歌唱」2本のブログ内記事で見るのみで、このうち後者ではそのマスタークラスの模様を綴っている文章も見えます。
で、その所感等(?)を書く前に、先にそのパヴァロッティのマスタークラスの模様を映した動画をご覧頂きますが、先の2本のブログ内記事によれば、パヴァロッティは米国ジュリアード音楽院でマスタークラスを開いたのだだそうで、予めつまみ食い的に映像を眺めていて、どうやらそのジュリアードに於けるマスタークラスを映したものに間違いなさそうな印象を受けました。
映像は以下の通り5分割となっていて、その構成は、4本目までがマスタークラスの授業風景となっていて、男子学生(男声)2人と女子学生(女声)1人がパヴァロッティの前で歌唱し、そして講評を受けている様子がご覧頂ける他、最後の1本はパヴァロッティ自身による”模範歌唱”が映し出されています《「5分割」と書きましたが、正確に言うと、公開レッスンを映し出している前4本の投稿者と”模範歌唱”を映し出しているだろう最後の1本の投稿者はそれぞれ異なっています(別人!?);ただ5本とも、映っているパヴァロッティの衣装は同一と見られ、更に伴奏ピアニストも同一人物に見えることから、同じマスタークラスでの出来事と捉えることが出来そうです》。
計3人の受講生のうち最後に登場した男子学生のみ名前がわからなかったものの、残りの2人の学生については以下の通り名前が判明しています《各学生が登場する際に氏名の字幕テロップが表示されるという作りのようですが、最後に登場した学生のみ、氏名テロップの表示が終わった後からの映し始めだったと思われるため、わかりませんでした》。
【1】 TONIO DI PAOLO (テノール;映像1本目)
《ヴェルディ『リゴレット』から「あれかこれか(Questa, O quella)」》
【2】 SUSAN MENTZER (メゾソプラノ;映像2本目)
《モーツァルト『フィガロの結婚』から「Non so più (cosa son)」》
なお、名前不明の3人目の受講生でありますが、3本目と4本目の2本に跨って収録されています《スミマセン、曲目も不明です…》。
それではどうぞご覧下さい。
ところで、「ルチアーノ・パヴァロッティの歌唱」によると、このマスタークラスを受講したイタリア人のテノールの学生(生憎2人のうちのどちらかは判りませんが…)がパヴァロッティのいる前で歌っている際、パッサージョでどうしても声が開き、上手くアクート出来ずにいることについて、「高音域に移行する際に口を動かすな!」とのパヴァロッティのアドバイスが飛んだそうです。
この「パッサージョ」と「アクート」という2つの用語、「ベルカント唱法。」によると、「パッサージョ」には”通過”とか”経過音”という意味を持ち、声出しをしていて低音から高音に移る際、何ヶ所かで狭くなり(声帯?)、出しにくくなる所があり、その位置のことを「パッサージョ」と呼び、その「パッサージョ」の上の音のことを「アクート」と呼ぶのだそうで、一般には「高音」という意味で使われるのだとか《元々「アクート」には”鋭い”とか”激しい”という意味があるのですが、高音域を出している際にそのように聞こえることから”高音”のことを指すようになったのだそうです》。
そして、パッサージョまで我慢してきたものを全部、自分の内面にあるものも含めて、一気に外に向かって吐き出す、これが本場西洋人(特にイタリア人)が、声楽上のパート(ソプラノ、テノール等)に関係なく、感覚として抱いている「アクート」(高音)なのだ、とした上で、パッサージョ・アクートは非常に重要で、これのない歌(歌唱)は例え声量があっても素人っぽく聞こえ、また寿命も早く到来し、声は揺れ出し、高音が出難くなってしまう、パッサージョ・アクートの形が出来てやっと一人前になる、と語っています。
また「パッサージョとは?」というブログ内記事は「パッサージョ」について、低い声を出す時と高い声を出す時のメカニズムは異なり、低い声から高い声に移行する時に各々のメカニズムが融合する音程をパッサージョと言う、とした上で、(パッサージョにかかるところでは)少し圧迫感があり、音色は地味となり、特にパッサージョの高い方の声(アクートの直前)では苦しさが伴う、このポイント(パッサージョ)を派手に、楽に、輝かしく、艶やかに歌おうとすると玉砕が待ち構えている、うまく歌えればイタリアに於いて一人前の歌手と見られる、と難しさを説く一方でとても重要な場面であることも語っています。
先に紹介したマスタークラスの映像の中でパヴァロッティが男子学生(テノール)に与えたアドバイスはこの「パッサージョ」から「アクート」に持っていく過程に於けるものであり、そのアドバイスを受けた当の学生はその過程に於ける口の動かし方で苦慮していたとのことですが、「ルチアーノ・パヴァロッティの歌唱」という記事を掲載しているブログに同じく掲載されている「アクートとは?」は、アクートした時、どの筋肉がどうなり、どんな感覚になるのか、言葉にするのは非常に難しい、と綴っています。
言葉で何となく感覚がつかめても、いざ実際にやろうとすると凄く難しそう・・・そんな印象ですネ。
ところで、「ベルカント唱法。」は、イタリアものを歌う際に最適なベルカント唱法とドイツものを歌う際に最適なドイツ唱法とでは息を吐きながら声を出す際の横隔膜の扱い方で180度異なっている、自然の生理に逆らわない発声法がベルカントだ、としており、「私が望む学会とは」は、マイクを使わない声の芸術の最も優れた形がベルカント、そして最も難しい、とした上で、ドイツではパッサージョを経てアクートしてもしなくてもあまり問題にされないようだが、イタリアではパッサージョ・アクートの統一された形があり、一流の舞台に立つにはそれをマスターすることが絶対条件、と語っています。
これに対して「発声について考える(1)」は、ドイツ、オーストリアでも勿論“Belcanto”(ベルカント唱法)で歌うことが大切とされている、Belcantoをドイツ語に訳すとschönen singen(美しく歌う)となり、どこの国の人でも美しく歌いたいという願望は普遍的にあるのではないか、と語っています。
そして、肉体を一番良い状態で使い綺麗な声を出すことに合唱もソロも違いはないはず、従って発声法に色々流儀はない、と述べ、ソリストと合唱とで発声法が変わることは無いとも主張、更に自分の声を客観的に聴くことの重要性をも説いた上で、私たちに向けてチョット耳の痛いメッセージを発信しています《私に向けられた言葉だったりして・・・》。
| しかし日本では、喉に負担を感じても、声を出したー!と満足する人達は素人の合唱団によく見受けられるようですが、年末のベートーヴェンの交響曲第九番を、作曲家のベートーヴェンと詩人のシラーはどのように悲しく聴いていることでしょう。お神輿を担いでいるかのようにうるさく、騒がしく、p(ピアノ)をf (フォルテ)で歌ってしまっては音楽ではないのです。ソリストから合唱までお祭り騒ぎでは悲しい限りです。言葉あっての声楽曲であり、言葉を正しく発音して、はじめて正しい表現をすることが出来るのです。「風呂出(Freude)、詩ヘ寝る(schöner)、月照る(Götter)糞犬(funken)・・・・」と暗譜してどのような表現ができると思えるのでしょう? |
「ベルカント唱法。」によると、一人で練習をしていると、自分の声を自分の耳で判断して出すことになるわけで、外に向けてどのように出ているか正確に把握できず、今出している声が人にも同じように聞こえているとの錯覚を起こし、いつのまにか崩れていってしまうとのことで、あのパヴァロッティでさえも自分では練習をせず、声を出す時には必ずボイストレナーに居てもらうことでで、独り善がりの声を出さない様に心がけていたそうです。
客観的に自分の声を聴いてみる、パヴァロッティのアドバイス「高音域に移行する際に口を動かすな!」・・・・・・烏滸がましいかもしれませんが、今後の「第九」合唱の練習に向けてのアドバイスとも受け取れそうな気がしてきました。
大阪の「1万人の第九」の本番まで既に3ヶ月切っていますが、少しでもこれらのアドバイスを生かしていきたいと思います《少し強引?》。
【おことわり】
動画投稿サイト(『Google Video』、『YouTube』等)にて公開されている動画については、今後、投稿者或いは運営サイドの判断等により削除される可能性があります。その場合、お楽しみいただけなくなりますことを予めご承知おき下さい。
P.S.
パヴァロッティが死去した当日に掲載した「「キング・オブ・ハイC」ルチアーノ・パヴァロッティ、生誕の地イタリアで逝去す・・・・・・享年71歳」の中で、事実上昨年6月から闘病生活に入っていたことを喋りましたが・・・
「イタリア人テノール歌手、パバロッティ氏が死去」
《『AFPBB News』2007年09月06日付け掲載記事》
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【9月6日 AFP】(一部更新)イタリア人名テノール歌手、ルチアーノ・パバロッティ(Luciano Pavarotti)氏が6日未明に死去した。71歳だった。イタリアのANSA通信が6日伝えた。 イタリアのメディアは5日遅く、パバロッティ氏の容態が急変したと報道。AGI通信は「非常に深刻な状態」と伝えた。 ANSA通信によると、北部の都市モデナ(Modena)にあるパバロッティ氏の自宅前に霊柩車が待機しているという。 パバロッティ氏は前月8日に発熱し、モデナの病院に入院。その後、同25日、診断テストの結果が良好だったため退院し、自宅で療養していた。 パバロッティ氏は2006年7月にすい臓がんの手術を受け、その後、少なくとも5回、化学療法を受けていた。手術後はコンサートをキャンセルしたことから、二度と舞台に立てないのではないかと復帰を不安視する声も上がっていた。2004年5月に始めたコンサートツアーも中止を余儀なくされた。(c)AFP |
手術後はコンサート活動を一切キャンセルし、少なくとも5回の化学療法・・・・・・1年余りの間、病と闘っていたんですね、パヴァロッティは。
P.S.(その2)
本文中で紹介したWebサイト『声楽家 川村英司』内に掲載されている「発声について考える」というWebページでありますが、今日(10日)現在で10巻〔(1)~(10)〕リリースされています。
【1】・【2】・【3】・【4】・【5】・【6】・
【7】・【8】・【9】・【10】
かなりの分量となっていますが、ざっと目を通した限りでは、自らの体験をも交えながら、興味深いことが詳しく記されているという感じがしました。
頭から読むのも良し、読みたいものだけを繰り返し読むのも良し・・・・・・”使い方はあなた次第”ならぬ”読み方はあなた次第”ということで。
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ベートーベン
歓喜の歌ドイツ語版(ショパン)
歓喜の歌~ベートーヴェン(混声)


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