大阪厚生年金会館、存廃の危機(4)・・・他地域のホール併設型厚生年金会館も危機に~九州厚生年金会館編
ウィキペディア解説「交響曲第9番(ベートーヴェン)」等によると、ベートーヴェン「第九」の日本初演は1918年(大正7年)6月1日、現在の徳島県鳴門市にあった板東俘虜収容所内にてドイツ兵捕虜たちの手により行われたことはご存じの方も多いことかと思います。
その後、1924年(大正13年)11月29日にグスタフ・クローンの指揮するところの東京音楽学校(現在の東京藝術大学音楽学部)の講師及び生徒で結成されたオーケストラによる「第九」演奏が日本人の手による「第九」初演とされているのですが、実はその約10ヶ月前の同年1月26日に福岡市記念館で開かれた「摂政宮殿下御成婚奉祝音楽会」の中でベートーヴェンの終楽章が当時の九大(九州帝国大学)フィルハーモニー会により演奏されたとの記録が残っています《→「日本人初の第九のハーモニー―榊保三郎(1870~1929)〔その1・その2〕」》。
ただこの時には、オーケストラ演奏部分こそ「第九」楽譜の記譜通りだったものの、歌唱(独唱・合唱)部分については、「第九」楽譜に記載されている本来歌詞を、当時指揮を務めていた榊保三郎により、「摂政宮殿下御成婚」を祝う”文部省撰奉祝歌詞”に置き換えた上で歌わせていたそうです。
ちなみに1924年11月に行われた東京音楽学校オーケストラによる「第九」演奏については楽譜記載内容の通りに全楽章通しで行われていたとのことのようですので、歌詞も含めて楽譜記載内容の通りに演奏されるという本来の演奏形態(テンポ、強弱は別にして)にして、かつ日本人の手による「第九」初演は1924年11月に行われたクローン指揮の東京音楽学校オーケストラによる演奏、ということになるのかも知れませんネ《尤も「第九」終楽章のメロディーを日本で最初に奏でたのは九州大学のオーケストラということになりますが…》。
さて、私の住む地元に建つ大阪厚生年金会館が来年9月に廃止・売却されるというニュースが流れ、これを受ける形で大阪厚生年金会館についての記事を起こし、その後一般市民をも巻き込んだ存続運動が展開されている全国のホール併設型厚生年金会館についてお伝えしてきています。
3回目(大阪厚生年金会館の記事から数えれば4回目)の今回は、ベートーヴェン「第九」終楽章のメロディーを日本人の手で初めて奏でた地・九州、その九州・福岡県は北九州市にある九州厚生年金会館についてです。
私自身、寡聞にして今まで知りませんでしたが、北九州市にある九州厚生年金会館に併設されているホールにはなんとパイプオルガンが据え付けられているのだそうです。
「九州厚生年金会館:募金で設置・パイプオルガン 市民の財産、存続の危機--北九州」 《毎日新聞Web版(毎日jp)・2007年10月14日付け掲載記事》 |
「話題:募金で設置したパイプオルガンが存続危機 北九州の厚生年金会館」 《毎日新聞Web版(毎日jp)・2007年10月14日付け掲載記事》 |
◇来年売却、建物解体なら 23年前、北九州市民から約2億円の募金を集めて造られた九州厚生年金会館大ホール(北九州市小倉北区、収容人員2200人)のパイプオルガン存続が危ぶまれている。政府方針で、同館は来年9月末までに売却されることが決まっているからだ。買い主の意向次第では解体の可能性がある。 パイプオルガンはドイツの老舗ワルカー社製で、高さ14メートル、幅8メートル。大ホールの観客席から見て左側に設置されている。84年4月の開館時、市民や企業の募金約2億円で購入。今も年数回、演奏会で使われている。当時の日本の音楽ホールでパイプオルガンがあるのは東京・渋谷のNHKホールなどわずかで、西日本では初めてだった。 しかし、各地の厚生年金会館を2010年までに整理する政府方針を受け、同館は来年9月末までに入札で売却されることが決定。近年マンション建設ラッシュが続く地区にあるため、市は「文化への関心が低い企業が買収すれば、マンション用地に転用する可能性が高い」(幹部)とみている。オルガンは「ホールと一体で、移設は困難」(阿部真介館長)とされ、同館が解体されればオルガンも壊される可能性が高い。 北橋健治市長は今年5月、管理する年金・健康保険福祉施設整理機構の水島藤一郎理事長と会い、「ホールの機能を残すことを前提に売却してほしい」と要望した。だが、水島理事長は「一般競争入札なので、ホール存続を条件にすることはできない」と答えた。 一時は市が買収を検討したが、財政再建途上とあって断念。売却の行方を見守っている。垣迫裕俊・市企画政策室長は「市民と行政が協力して文化施設を運営する現代の流れを先取りしたもの。市の大事な財産をぜひ残してほしい」と話す。【平元英治】 ◇音楽を愛する文化守りたい オルガン設置運動は81年、市民が期成会を結成して取り組んだ。同会会長代行だった元百貨店社長、田中丸善昌さん(74)=同市小倉北区=は「音楽を愛する文化を育てようと市民、企業、自治体が一体となって取り組んだ」と振り返る。 産業都市として発展した北九州市だが、当時「文化は不毛」とも揶揄(やゆ)された。同会の設立趣意書には「荘重な音色は、青少年の情操教育に効果を発揮する」という言葉が残る。 田中丸さんたちは、谷伍平市長(当時)らとともに市役所前に立ち、道行く市民に募金を呼びかけたほか、財界にも働きかけ、有力企業から寄付を集めた。そして、作曲家の故團伊玖磨(だんいくま)さんらの助言で、欧州各国の楽器製造業者の中からワルカー社を選び、発注した。輸送前にドイツで音色を試聴した田中丸さんは「体が震えるような調べが今も耳に残る」という。 オルガン存続が危ういと聞いた田中丸さんは8月、チャリティーコンサートを支援した。「バロック音楽だけでなく現代音楽も演奏できるよう工夫されている。できるだけ演奏会を開き、市民にオルガンの価値を伝えたい」と存続を熱望している。 |

その、九州厚生年金会館大ホール内に据え付けられているパイプオルガンというのが左の写真に示されているものになるのですが、上記記事によると、ステージに向かって左側に据え付けられているとのこと。同様にパイプオルガンが据え付けられている、例えば東京・渋谷のNHKホールとは位置が反対ということになります《NHKホールの場合はステージに向かって右側に位置》。
で、最近ではパイプオルガンの据え付けられた文化ホールが、首都圏を中心に、全国各地にちらほらと見かけるようになってきているのですが(ただ絶対数的にはそう多くはありませんが)、こと九州厚生年金会館を擁する福岡県内で見た場合、クラシック音楽仕様のホールは現在2つ存在するものの(アクロス福岡内福岡シンフォニーホール、北九州響ホール)、なぜかその何れにもパイプオルガンは装備されておらず、福岡県内(というか福岡県を初めとする九州北部地域?)に於けるパイプオルガン装備館は現在でも九州厚生年金会館1館だけ、という状態が続いているみたいですネ。
ところで、この九州厚生年金会館の現在のホール稼働率は、ざっと見た感じでは6~7割見当といったところ。
九州厚生年金会館の所在する北九州市内の他の文化ホールとしては、他に・・・
北九州市立響ホール
北九州芸術劇場(1・2・3・4)
《元・小倉市民会館(1・2)→2004年8月取り壊し済》
門司市民会館
八幡市民会館(1・2・3・4)
若松市民会館
戸畑市民会館(ウェルとばた内;1・2)
《平成14年(2002年)12月に現在地に移転》
があります。
尤も、文化ホールに準ずると見られる存在として北九州国際会議場メインホールも無くはないところですが、客席数が534席と一回り小さい上、一応コンサート用途にも使われている模様ですが、会議場仕様と考えられ、もしかするとデッドな音響仕様となっているかも知れませんネ。
ここで、余談ながら、この北九州国際会議場メインホールの使用例となり得るものを一つ見つけましたので紹介しておきます。
「亭主関白協会in北九州国際会議場(2007.5.26)」がそれで、実際に講演を行っているところを撮影した写真が掲載されており、メインホール後方(斜め後方)の様子等を確認することが出来ます。_
そして北九州国際会議場メインホールに纏わる話をもう一つ。といってもこれはホール使用例とかではありませんが、2年前(2005年)に北九州国際会議場メインホールで開かれたとある国際シンポジウムの模様を伝えた「北九州国際会議場」の中で、その国際シンポジウムにて一人のスイス人が講演していた際、「スイスではバッハとは小川(小さな川)の事」というようなことをしゃべっていたそうですが〔ちなみに「作曲家シリーズ(うそ) ベートーベンの散歩道」によると、ドイツ語で小川のことをバッハ(Bach)というのだそうです〕、この話に接した私自身、ふとベートーヴェンがバッハを指して発した名言の一つ「バッハは小川(Bach)でなく大河(大海、Meer)だ」というのを思い出しました。
まぁ、確かにJ.S.バッハという作曲家は音楽界に於いては不動の地位を築いている存在ですからね。
話がそれてしまいましたので、このあたりで本筋に戻しますと・・・
先ほど列挙しました北九州市内に所在する文化ホールについてでありますが、もし来年(2008年)の9月で九州厚生年金会館が廃止・売却され、落札者の手によりホールごと消滅(解体)されるようなことになれば、それまで九州厚生年金会館で開かれていた各種催し物は必然的にこれらの文化ホールに割り振られる格好になると思いますが、現在でも九州厚生年金会館併設ホールはそこそこの稼働率をたたき出しているだけに、残る北九州市内の文化ホールたちで全てまかなえるかどうかとなると、感覚的ではありますが、ちょっと微妙なところがありますし、更に北九州市内(下手すれば福岡県内)の文化ホールの中で唯一パイプオルガンの備わっているホールの消滅ともなれば、北九州市内、いや北九州市を擁する福岡県を初めとする九州北部地域に於ける文化行政等に影響が及ぶことも考えられなくもないところですネ。
北九州市の市議会に於いても「第46号・九州厚生年金会館の機能存続を求める意見書」を採択している他、「すこしまじめに」も、パイプオルガンの存続はホールの存続ありきだ、と述べ、更に「九州厚生年金会館の行方」も、九州厚生年金会館も北九州市が購入するべきではないか、どこかを売却してこれを購入し、運営を誰かにまかせて家賃を取ればいいのではないか、と述べて、何れも九州厚生年金会館の存続を訴えています。
ところで、この九州厚生年金会館では、各種マスコミで報じられていますのでご存じの方も多いと思いますが、良からぬことが起きていましたね・・・
「九州厚生年金会館:公的施設で組長の還暦祝い 北九州市」 《毎日新聞Web版(毎日jp)・2007年10月8日付け掲載記事》 |
北九州市小倉北区の九州厚生年金会館で9月22日夜、指定暴力団工藤会系の組長の還暦を祝う宴会が開かれていたことがわかった。同館は公的機関。直前に暴力団関係者と把握したが、日程が迫り契約も済んでいたため、予定通り利用を認めた。 同館によると、宴会には約100人が出席した。同月15日ごろ個人名で申し込みがあり、「社長の還暦祝い」と説明があったという。スタッフが打ち合わせの際に相手が暴力団関係者ではないかと疑問を持ち、福岡県警に問い合わせると、この社長が組長であることが宴会2日前に分かった。 同館は正式契約と打ち合わせが終わっていたため、そのまま利用を認めた。県警には対応を尋ねていなかった。同時間帯に別の部屋で展示会が開かれていたが、トラブルはなかったという。 阿部真介館長は「公的施設であり、最初から暴力団関係者と分かっていればお断りした。今後は個人名義であっても利用実績がなかったり、目的や規模に疑問点があれば警察に照会し、再発を防ぎたい」と話している。 同館は厚生労働省が所管する年金健康保険福祉施設整理機構が所有し、財団法人の厚生年金事業振興団が管理運営。大ホールや宴会場、ホテルを備えている。【古川修司】 |
「北九州の厚生年金会館で組長宴会、会館「気づかなかった」」 《読売新聞Web版(YOMIURI ONLINE)「九州発」・2007年10月9日付け掲載記事》 【注/記事掲載元サイト、掲載期間終了・削除済】 |
財団法人「厚生年金事業振興団」(東京)が経営する北九州市小倉北区の総合福祉施設「九州厚生年金会館」の宴会場で9月、同市に本拠を置く指定暴力団・工藤会の系列組長が還暦祝いの会を開いていたことが8日、わかった。組員を含む約100人が出席しており、同館は「公的施設であるにもかかわらず、暴力団関係者に会合の場を提供したのは不適切だった。個人名での申し込みだったので当初は暴力団関係者と気づかなかった」と説明している。 同館によると、還暦祝いの会は9月22日午後7時から約2時間行われた。 組長が開催の約1週間前に来館し、個人名で申し込んだ。その後、同館は打ち合わせの過程で暴力団関係者ではないかとの疑念を抱き、20日に小倉北署に照会して暴力団組長であるという回答を得た。 同館には「公序良俗に反するものや、他の利用者に迷惑を及ぼす会合などをお断りする」との内部規定があり、この規定で暴力団関係者の会合を拒否できることになっている。しかし、開催が2日後に迫っていたため、断った場合、損害賠償などを求められる可能性があると判断。還暦祝いの会は予定通り開かれた。 |
会館サイドに於いて、申込者が暴力団関係者であることに気づくのが遅れてしまったことが原因のようですが、ふと考えれば、文化ホールの貸館業務に於いて、どういう用途でホールを使うかについては聞かれるかも知れませんが、申し込んできた人の身元調査をも行っているとの話は聞いたことがなく(私が知らないだけかも知れませんが…)、そのあたり下手に身元を尋ねられないという事情が見え隠れしそうなところですネ《わからないけど》。
とはいえ、この一件によって九州厚生年金会館に対するイメージ大幅ダウンにつながったことは間違いないみたいで、これまで本ブログで見てきました愛知・大阪・広島の各厚生年金会館で行われているような、存続を求めての署名活動の類がこの九州厚生年金会館に於いては、少なくとも表立った形では、見られません。
あと、生活保護に於ける「〔闇(ヤミ)の〕北九州方式」がもたらした”門司餓死事件”も、北九州市の財政の現状を半ばさらけ出す格好となり、九州厚生年金会館存続への気運を削ぐ遠因ともなっていることも考えられなくも無いところでしょうネ。
けれども、何度も申すようですが、この九州厚生年金会館に併設のホールには、九州北部地域では唯一、本格的なパイプオルガンを備えている文化ホールであるだけに、仮に売却となった場合でもせめてホールだけでも維持してもらえるところに渡るよう、前回紹介した広島厚生年金会館に対する広島市の対応にあるような、ホール機能の維持を約束する買収者に対して税制面で優遇するといった措置を講じるとか、或いは財政再建途上という北九州市に代わって福岡県あたりが存続のために何らかの行動をとるとか(例えば前回記事で紹介した広島郵便貯金会館のケースに倣って、一旦ホールを買い取って新たに別名のホールとして再出発させるとか)・・・文化水準の維持の観点から、とりあえず今はホール存続に向けての何らかの具体的な行動を早急にとる必要がありそうですネ《勿論、その次の段階として中身(ソフト面)の充実も必要となってきますが…》。
次回は最終回で、北海道厚生年金会館についてとり上げます。
【関連記事(大阪厚生年金会館、存廃の危機)】
「(1)文化発信拠点の売却、その背景とは、そしてそこに集う人々の想いは・・・」
「(2)他地域のホール併設型厚生年金会館も危機に~愛知厚生年金会館編」
「(3)他地域のホール併設型厚生年金会館も危機に~広島厚生年金会館編」
「(5)他地域のホール併設型厚生年金会館も危機に~北海道厚生年金会館編」
「(6)総括として〔ホール存続のための私なりの意見(!?)も添えて〕」
「〔余録〕フェスティバルホールと大阪国際会議場(グランキューブ大阪)のこと」
【関連記事(その他”厚生年金会館”のこと)】
「全国の厚生年金会館(ホール併設型)のいま・・・ひとまず安泰の石川・大阪・九州と、風前の灯火の愛知」
【関連記事(その他)】
「死因は肺炎治療で服用した薬などによる肝臓壊死!?・・・・・・楽聖ベートーヴェンの死に関する新学説」
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