全国の厚生年金会館(ホール併設型)のいま・・・ひとまず安泰の石川・大阪・九州と、風前の灯火の愛知
長らく、昨年(2008年)秋頃から年金・健康保険福祉施設整理機構(RFO)による一般競争入札で順次売却されてきている厚生年金会館(但しホール併設型。全国7カ所)のことについて書いてきませんでした。
にもかかわらず、これまで掲載してきた厚生年金会館関連の記事にご訪問される方もおられるみたいで、申し訳ない限りです。
それで、全国に7カ所点在しているホール併設型厚生年金会館の現状については、既にご覧になった方もおられるかもしれませんが、全国コンサートツアー事業者協会Webサイト内の『ACPCnavi@Web(SPRING 2009 VOL.02)』というコーナーの中で、各厚生年金会館毎に現状レポートなどがアップされているのが見えます。
この現状レポートなどから、7つのホール併設型厚生年金会館の一般競争入札の結果などについて、以下のように分けられます。
◎ 地元自治体が落札(検討中も含む) ◆ 北海道厚生年金会館 ◆ 広島厚生年金会館 ◆ 九州厚生年金会館 ◎ 電力会社が落札 ◆ 石川厚生年金会館 ◎ 建設会社が落札 ◆ 愛知厚生年金会館 《取り壊し濃厚か》 ◎ 売却公告先延ばし(運営継続) ◆ 大阪厚生年金会館 ◎ 情報無し(正式発表無し) ◆ 東京厚生年金会館 |
この中で、署名活動を大々的に展開するなどの目立った動きを見せなかった石川厚生年金会館が地元電力会社である北陸電力によって落札されたのには正直少し驚いたものでしたが〔失礼!〕、とてもラッキーなことであり、電力会社だったらパブリックスペースとしてホールを活用してくれることだろう、とある意味安心感を抱くと共に、実際落札した北陸電力でも「ホールの機能を維持する」との趣旨を入札時に表明していた模様で、ひとまずは命拾いした格好となったわけですね。
ただ、石川厚生年金会館の所在する金沢市界隈について見ますと、駅周辺には石川県立音楽堂と金沢市アートホールが、駅からバスで約15分のところに金沢市文化ホールが、同じく約20分のところには金沢歌劇座(旧・金沢市観光会館)があったりと、数の上では揃っている印象なのですが、いかんせん稼働率が・・・まぁヨソ者が気にしたところで何にもならないところなのですが、北陸電力という巨大インフラにしてライフラインの一つを預かる事業者の手に渡った石川厚生年金会館、会館自体は「北陸電力会館」という名称に改めた上で再スタートさせると共に、併設されているホールに対しては「本多の森ホール」という名称を与えることを公募により決定、気合い十分といった印象を受けるところですが、ここはハード面だけでなくソフト面の充実をも図っていくことで長期にわたって会館としての存在感を示していって欲しいところです。
その一方で、可哀想な結果となってしまったのが名古屋の愛知厚生年金会館。
2008年秋頃から順次始まった厚生年金会館の一般競争入札に於いて、各地に点在するホール併設型厚生年金会館の存続を訴えるプロモーターやファンらにとって最も懸念していたのが、その一般競争入札の結果マンション販売などを手がける建設会社の手に渡り、取り壊されてマンションにされてしまうことなのですが、残念ながら愛知厚生年金会館の場合は、ご存じのように、建設会社による共同企業体である長谷工&積水JVの手に渡ってしまいました。
その後、取り壊して分譲マンション建設を行う計画であることが明らかとなり、これに対して「愛知厚生年金会館の存続を願う会」では引き続きホール存続と賃貸によるホール活用の交渉を行っていて、今のところ取り壊し作業には入っていない模様。
けれども、サブプライム問題に端を発した金融危機の影響で建設・不動産業界は冷えに冷え切っていて、昨年(2008年)のマンション販売戸数は全国で3年連続の減少、そして東証一部上場企業すら経営破綻に追い込まれるところが出る有様・・・長谷工もご多分に漏れず、パートナー相手の倒産等に伴う借入金の急激な増加等もあって株価は「ボロ株」といわれる2桁台にまで落ち込んでいるという苦しい状況に《ちなみに今日(5月21日)の長谷工株の終値は昨日比2円高の「74円」》。
こんなご時世に新たにマンションを造っても売れるんだろうか、と首をかしげてしまう一方で〔まぁ長谷工=積水JV側としてビジネス上の戦略を持っていたから今回のような行動に出たんでしょうけれども…〕、コンサートホールという存在は、文化の薫りを漂わせるという点で、マンションなどの諸物件の販売に際して駅やスーパーマーケット等と並んでセールス・ポイントの一つになりうる要素となっているみたいで、加えて名古屋は、東京・大阪と共に三大都市圏を形成してることもあってか、コンサートホール数に対する需要が高く、愛知厚生年金会館ホールにしても売却前に於ける稼働率も7~8割程度と優秀な部類に入る存在・・・地域バリューの維持と向上のためにも、また精神の方面での豊かさの向上(肉体的健康を保持する上でも、これは重要ですよ)のためにも、売却となってしまった愛知厚生年金会館のホール機能の維持は必要であるように感じる次第です。
「愛知厚生年金会館の存続を願う会」の今後の交渉具合を注意深く見守る必要有りですね・・・
で、私の地元・関西圏内に所在する大阪厚生年金会館。
ここに限らず、7カ所の厚生年金会館に併設されているホールは、比較的廉価なホール使用料で利用出来るとあってか、プロのミュージシャンたちはもとより、アマチュアの音楽芸術団体(アマオケやバレエ団とか)までもがこぞって利用し、高水準な稼働率を叩き出しているわけで、大阪厚生年金会館に併設されている2つのホール(「大ホール」と「芸術ホール」)もまたポピュラーものからクラシックものに至るまで幅広い音楽団体などに多く使われてきている他、昨年いっぱいで中之島にあるフェスティバルホールが建て替えを理由に一時閉鎖となってからは海外有名歌劇場の引っ越し公演も入るようになってきています《尤も代替会場としてでしょうけれども・・・でもクラシック好きの一人としては嬉しい限りですよ》。
去る3月19日、大阪市は大阪厚生年金会館の所在する区画について1,000席超のホールを擁する施設の設置を同市の都市計画案の中で義務づけることを明らかにするとともに、来年(2010年)9月までに同会館が一般競争入札に付されるのを前にして、今夏頃までにこの都市計画を決定させると報じられていますが〔→『厚生年金会館、閉館後もホール設置義務づけ 大阪市』〕、この報道では元毎日放送(MBS)アナウンサーでもある平松大阪市長が今回制定の都市計画案に対して「ホールを中心とした文化の薫りがする街のDNAを後世に残していくことができる」と前向きな考えを示していて、私もこの姿勢には大いに期待を寄せたいところですね。
ジャンルを問わず、コンサートに行ってきたよ(或いは”参戦したよ”)という人の書いたブログ内記事を一通り読んでいると、何だか胸が熱くなるとでもいうか、読んでいる私も楽しい気分になってしまうところがあります。
だから・・・というわけではないのですが、精神的な糧を求めている人たちは確実に存在するわけで、そのような人たちのためにも、また地域の活性化のためにも、末永く頑張っていってほしいのは勿論なのですが、イベンター(プロモーター)への貸館だけに止まらず、自ら積極的に情報を発信したり、ワークショップを開くなりすることで「文化活動を行う」人材の育成にも着手したりして、文化施設としての存在感をより高めるための行動にも出てほしいところですね。
最後に、九州島内に所在する文化ホールの中では数少ない、パイプオルガンを備えるホールを擁する九州厚生年金会館。
幸い北九州市が、小倉城を中心とした勝山公園の一区画として組み込む格好で同会館を編入させる意思表示を示し、購入に向けて動き出したことで昨年9月の閉館予定が延期となったみたいで、九州島内に於いては貴重なパイプオルガンは当面守られた格好となったわけですね。
しかしその一方で、北九州市といえば、かつて「北九州方式」ともいわれた生活保護行政で死人を出したところとしても知られていて、まぁ文化振興のための行動に出ること自体は市民生活全体の向上につながる意味では素晴らしいことなのですが、それによって生活保護などの福祉(社会保障)行政全般がなおざりとなっては元も子もないわけで、かといって北九州市自体の財政状況は厳しいのが現状であり、ここは指定管理者制度の活用によって実際の運営を音楽や諸芸術などの文化の方面に精通した民間団体に委託したり、期間を定めてホール名称を自由に付する権利〔いわゆる”ネーミングライツ(命名権)”〕を販売する等、運営上の負担や財政上の負担を出来るだけ軽減するための手段を講じることで、何とか文化振興と社会保障等との両立を図っていくべきですね。
まぁ私が言わなくとも北九州市自身が自覚して何らかの対策を講じることでしょうけれども・・・
全国に7つあるホール併設型厚生年金会館、これからがまさしく正念場といえそうなところですね。
<(_ _)> ありがとうございます <(_ _)>
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