高速バス、トラック(運送)、そしてフェリーにも・・・高速道路「休日特別割引(ETC搭載車”一律1,000円”)」の影響
6月に入り、夏の「青春18きっぷ」シーズンまであと1ヶ月半ほど(発売開始までは1ヶ月足らず)・・・人によってはそろそろ夏の乗り鉄プランを策定している人も出始めていることと思います。
そんな中で、先のゴールデンウィーク期間中は、政府の景気対策(生活対策)の一環として打ち出された高速道路料金の「休日特別割引」(ETC搭載車対象;いわゆる”高速道路料金一律1000円”)の影響からか、全国の主要高速道路は何処も大渋滞で、まさに阿鼻叫喚の様相を呈するほどだったことは各種メディアが報じてきているとおりです。
一方で公共交通機関に目を向けますと、航空各社は全体的には利用者増となったものの〔個別的に見ると地方路線を中心に減少したところも有り〕、JRは旅客会社6社とも利用者減となっていた模様でしたが・・・まぁ確かにJRにとっては脅威となったこの「休日特別割引」なのですが、よく考えてみると、JR以上に可哀想な存在があることに気づきました。
何かといいますと、そう、その大渋滞となった高速道路をテリトリーとしている高速バス(高速路線バス・高速ツアーバス)・・・ただでさえ従前からの高速路線バス(ハイウェイバス)が最近台頭してきた「高速ツアーバス」に圧され気味で苦戦を強いられてきているところに今回の普通乗用車・軽自動車対象の高速道路通行料金「休日特別割引」の施行ときたわけです。
嬉々としたマイカー族がこぞって高速道路に集結、そのため主要な高速道路で大渋滞が発生、そのために高速バスの正常な運行が事実上不可能となり、結果として大幅な遅れと利用者の大幅減につながったわけですね。
この状況に対して九州のバス事業者とその業界団体である九州バス協会がついに国への申し入れを行う事態にまで発展・・・5月27日のことでした。
申し入れでは、現在国が検討している「休日特別割引」の適用期間拡大(土休日のみ適用対象となっているものをお盆期間や年末年始期間にも拡大するというもの)に反対するとしていますが、この申し入れの前日には九州バス協会の会長を務めている竹島和幸西鉄社長が定例記者会見を開き、政府が打ち出した「休日特別割引」施策に対して怒りを露わにしていました。
また、これより少し前には全国のバス事業者で組織する日本バス協会に於いても大手バス事業者5社に対する聞き取り調査を実施、やはり輸送人員の減少と相次ぐ到着遅延などの実態を明らかにしています。
一方、高速路線バスの対抗勢力として位置づけられている高速ツアーバスへの影響については、企画・運営している旅行会社並びに実際の運行に駆り出されている中小のバス事業者共々、殆ど報じられていませんが〔というか先の”九州バス協会による国への申し入れ”を巡る報道の中に織り込まれているのかも…〕、運行区間に高速道路を挟んでいる以上、何らかの影響を受けていることは想像するに難くないところでしょう。
それで、最近知ったことなのですが〔恥ずかしい…〕、高速バスに於いては定められた走行ルート以外のルートを走行することが認められておらず、たとえ定められた走行ルート上で大渋滞が発生していたとしても、予め幾つかの別ルートを予備として認可を受けていない限り、そのまま渋滞に巻き込まれるしか無いわけで、今回のゴールデンウィーク期の大渋滞ではさぞ手も足も出せなかったことでしょう《予備用としての別ルートでの認可については『近畿運輸局 高速バス渋滞時に迂回OK(06年8月)』を参照(ちょっと古いブログ内記事ですが…)》。
こうなると、この夏以降も設定されている「休日特別割引」適用日・期間に備えて、高速路線バスは通常走る認可ルートとは別に一般幹線道路等を辿る別ルートを予備として認可をもらっておく等の対策を講じない限り、本当に持ち堪えられないような気がしてならないところです《ゴールデンウィーク期に於ける道路状況については、大渋滞していた高速道路とは対照的に一般道路は空いていた、との証言を幾つかネット上で聞くことが出来ます(→『今年のゴールデンウィークは.....』・『2009年GW、日光への旅。-その1-』・『いざ、鎌倉。GWの高速は混むので、渋滞に入る前に一般道へ。』とか)》。
勿論、一旦逃がしてしまった旅客を再び取り込むための施策等も必要かもしれませんが、自動車系公共交通機関であるバスが道路状況にモロ左右される宿命にあるとはいえ、利用者が公共交通機関として一定の役割を期待している以上、それに応えるべく可能な限りの対策を講じることは路線を維持していく上で欠かせないものになっていると思うところです。
そして、この「休日特別割引」による影響はバス業界だけに止まらず、同じく高速道路を行き来して生計を立てているトラック(運送)業界にも・・・例えば鹿児島では鹿児島県トラック協会が会員企業50社に対して緊急アンケートを実施、この中で、高速道路料金の「休日特別割引」が適用される土日祝日に於いて走行環境が悪化したと回答した企業は全体の98%に上り、具体的には「走り慣れていない車が増えて事故が懸念される」とか「渋滞で納期に支障が出る(間に合わない)」等を挙げている他、「休日特別割引」と同じく政府の景気対策の一環として施行され、トラックなどの車種も対象となっている「平日昼間割引」については、「使い勝手が悪い」を理由に挙げるなど、必ずしも高速道路の利用増にはつながっていない実情が浮き彫りになっています。
以前NHK総合テレビで放映された『NHKスペシャル』(だったと思う…)で運送業界の現状について取り上げた特集を見たことがあるのですが、そこでは、密着取材を行った長崎のとある運送業者の姿を通じ 荷主側による運賃ダンピングに加えて「ジャスト・イン・タイム」体制の進展もあってドライバーへの負担は増すばかりとの運送業者を取り巻く現実が紹介されていたのを覚えています。
土休日限定とはいえ主要高速道路がレジャー目的の自家用車であふれかえるという状況に、大手(●本●便、●ロ●コとか)も含めた運送業者はさぞ困惑していたことでしょう《そしてこの影響は運送業者を利用する個人・法人ユーザーにも及んでいるわけで、とらえ方によっては幅広い層にわたって影響が及んでいるということが出来るかもしれませんね》。
トラックといえば、それを積載して海上を航行するフェリー(船舶)を連想するところなのですが〔尤も積載するのはトラックだけではないのですが…〕、そのフェリーもまた”大きな荒波”を受けていて、「休日特別割引」施行以降は昨年比で利用台数が半減する等の影響が示現、結果として瀬戸内海航路を中心に航路廃止や減便を打ち出す動きが相次いでいます。
そして、その航路廃止に追い込まれた航路の中には、かつて国鉄連絡船の中で最もマイナーな存在だった「仁堀連絡船」(「に方~堀江」航路)廃止の遠因となったであろう「呉・松山フェリー」も含まれていて、地元メディアは、こうした瀬戸内海航路の相次ぐ廃止に対し、交通体系がどうあるべきかの広い視野を欠いた場当たり的政策の犠牲だ、と厳しく批判しています。
私自身も過去に何度か旅先でフェリーのお世話になったことがありますが〔主に深夜便ですが…;他には大阪市の渡船のお世話にも・・・小さいですけどね〕、深夜便設定の有無に関係なく、こうして航路が次々と消滅していくことに対しては一種のやるせなさというものを感じてしまいますね。
そんな中、フェリーならではの発想を生かして難局を乗り切ろうとする動きも見られます。
かつて旧国鉄も鉄道連絡船(宇高連絡船)を運航させていた、本州の宇野港〔岡山県玉野市)と四国の高松港(香川県高松市)を結ぶ「宇高航路」には、現在、「宇高国道フェリー」と「四国フェリー」の2社が運航していて、やはり「休日特別割引」の煽りを受けて今年のゴールデンウィーク期間中の利用実績は昨年比で半減したとのことですが、国道フェリーでは「船にしかない強み」を前面に打ち出すことで難局打開を図ろうとしています。
「船にしかない強み」・・・それは一つには環境に優しいこと〔車に比べて二酸化炭素排出量が少ない→「モーダルシフト」へとつながる〕、そしてもう一つには”車を運転しない安全”を提供出来ること《更に大災害時に於ける非常輸送手段としての役割もあります》。
特に後者に関しては、乗船中はハンドルを握らずに船室内で横になるなどして確実に休息出来るわけで、これにより降船してからも安全運転がし易くなるというメリットがあるのだそうです《ついでに言うならば、乗船中は安全上の理由からエンジンを止めているわけですから〔言うまでもないことだけど…〕、その分燃料費の節約にもなりますね》。
鉄道と共に公共交通機関の一つに数えられるフェリー、まずはそのメリットを最大限にアピールするところから着手する必要があると思います《勿論それだけではやっていけないと思いますので、そこから更に他の公共交通機関との密なる連携や地元自治体とのタイアップなどを模索していく必要が出てくるでしょう》。
高速道路料金の「休日特別割引」施行の基となった政府の「生活対策」が昨年秋頃に策定され、そこから今年に入ってからの第2次補正予算案の可決成立、そして3月の関連法改正案の成立というプロセスを辿っていった中で、いわゆる”高速道路通行料金一律1000円”等で表現される「休日特別割引」というものが、一時的な景気刺激策として政府が期待していた一方で、策定段階に於いて公共交通機関に与えるダメージというものを最初から想定していなかったのか、それとも想定はしていたが自動車関連産業などの振興のほうを優先させたのか・・・そのあたりは定かではありませんが、何れにしてもこのETC搭載の普通乗用車・軽自動車が対象の「休日特別割引」は全国民にあまねく恩恵をもたらすものではないことは確かで〔少なくとも私みたいに運転免許を持たぬ人間には何の恩恵も無い(泣)〕、更には「休日特別割引」施行に伴う自動車通行量の増加は、当然のことながら排気ガスの増加につながり、そのことが世界的潮流となっている環境保護への取り組みに逆行するものであり、決して賞賛されるべきものではないと思います。
そしてもう一つ、忘れてはならないのは、ETC搭載車対象「休日特別割引」を初めとする政府の「生活対策」(景気対策)が国民から徴収した税金を投入して行われていること。
「休日特別割引」などの適用拡大(適用日を増やしたり期間を延長したりすること)は、やがては国民負担の増加へとつながることになるでしょう。
最終的に全ての国民に対して恩恵がもたらされるよう、政府には、ただ目先のことにとらわれるのではなく、中長期的視点から物事を考え、行動に移してほしいところです。
『「1000円高速」広げないで 九州のバス業界が要望』
《→『「1000円高速」広げないで 九州のバス業界が要望』》
『高速1000円「お盆はやめて」、九州バス協会が国に要請』
《→『高速1000円「お盆はやめて」 九州バス協会要請へ』》
『九州バス協会 乗客激減で要望 「1000円高速」拡大に反対』
『「高速千円」バスに打撃 乗客減少、大渋滞で延着も』
『九州バス協「高速千円拡大しないで」 渋滞禍・利用減』
『「1000円高速」広げないで 九州のバス業界が要望』
『西鉄社長 1000円高速に怒り バス乗客減、4時間遅れも』
『ETC高速割引、鹿児島県バス・トラック業界を圧迫』
『高速道路1000円…フェリー落ち込む、本四間では5割減』
『1000円高速、フェリーに荒波 客奪われ廃業や減便も』
『呉・松山フェリー廃止へ』
『呉・松山フェリー:航路廃止へ“ETC特割”直撃、来月30日限りで業務停止 /広島』
『呉・松山フェリー航路廃止へ』
『瀬戸内海を結ぶカーフェリー、呉・松山フェリーが6月末で航路廃止へ』
『フェリー廃止 場当たり的政策の犠牲だ』
『盛況「1000円高速」の波紋、国土交通省の早すぎる翻心』
『おかやま大研Q:土日祝、高速道1000円 苦境に立つ宇野-高松航路 /岡山』
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いろんな影響が出ましたね。
ETC1000円制度により。
投稿: 長瀬国分線 | 2010年5月30日 (日) 12時48分
長瀬国分線さん、こんばんは。
引き続きのコメントをありがとうございます。
いわゆる「高速道路上限千円」、西鉄の社長が怒りまくっていましたからね。
投稿: 南八尾電車区 | 2010年6月 3日 (木) 22時00分
南八尾電車区さん
西鉄社長の激怒はもちろん知っています。
フェリー会社も死活問題になっています。瀬戸内海では広松間の航路が次々と廃止されましたから。
和徳間の南海フェリーも大幅値引き制度を両県間で推進された程です。
東海地方では伊勢湾フェリーの廃止が決まり、
国道42号・国道259号は分断されてしまいます。
投稿: 長瀬国分線 | 2010年6月 6日 (日) 11時18分
長瀬国分線さん、こんばんは。
引き続きアリガトウです。
フェリーと言えば、旧国鉄時代から受け継がれてきている宇高航路(現在は民間が運航)すら”風前の灯火”状態にありますし・・・
投稿: 南八尾電車区 | 2010年6月15日 (火) 07時06分