譜面上のメトロノーム指示に従った独自解釈の「第九」?・・・レイボヴィッツ=ロイヤル・フィル。1960年代演奏・収録
10月も下旬に入っていますが、そんな中、今朝になってようやく気づかされたことがあります。
何かといいますと、本来ならば既に気付いていなければならないことなのですが、大阪「サントリー1万人の第九」が来年以降も続くかどうかということに関すること。
今朝方、検索エンジンからぶらり立ち寄った『2009一万人の第九1回目』という記事を見てハッと気づかされたものです。
約3ヶ月前、「1万人の第九」が創始されてから今日に至るまでずっと協賛し続けてきた飲料メーカー大手のサントリー(サントリーホールディングス、サントリーHD)が、同じ飲料メーカー大手のキリン(キリンホールディングス、キリンHD)と経営統合の交渉に入ったことが各種メディアで報じられて大騒ぎになったことは記憶に新しいところですね。
言うまでもなく、キリンは既に東証や米国NASDAQなどに株式上場しているのに対し、サントリーは未だに株式上場をしていません。
”非上場企業 VS 上場企業”故、統合交渉が難航することは容易に想像するところなのですが、現時点では事実上サントリーがキリンに吸収されるであろうとの話が囁かれています《→『アワと消える!?サントリー同族経営の高いハードル』・『【ドラマ・企業攻防】キリン、サントリー統合に3つのハードル』など》。
もしそうなれば”サントリー”の冠が被せられている「1万人の第九」は今後も続けられるのか・・・キリンへの吸収の有無に関係なく、年内の合意を目指しているとされているサントリーとキリンの統合交渉の結果次第では今年で打ち切りということも皆無とはいえないわけで、そのあたりを当該ブログ記事は懸念しているわけです。
今までこんなことに気づかなかった私・・・恥じ入るばかりですし、勿論この統合交渉の行方を見守りたいと考えるところです《尤も目くじら立てたところでどうにもならないことですが…》。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回も、前回に引き続き、各種動画共有サイトに寄せられてきているベートーヴェン「第九(交響曲第9番ニ短調作品125”合唱付”)」演奏動画のうちのひとつを当ブログに加えようと思います。
今回は”静止画像+演奏音声”ファイルの形で投稿されているものとなります。
ご紹介しますのは、1913年ポーランド=ワルシャワ生まれのユダヤ系指揮者で作曲家・音楽理論家でもあったルネ・レイボヴィッツが1961年にイギリスのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(RPO)を指揮して演奏・収録したベートーヴェン「第九」演奏。
これは前回と同じく『YouTube』に寄せられているもので、収録範囲もまた前回と同様に「全4楽章」となっていますが、こちらは楽章の枠に関係なく6本の”静止画像+演奏音声”ファイルにわたって投稿・公開されている格好となっています。
投稿ファイルに添付されているテキストデータから、出演アーティストは以下の通りとなっています。
ソプラノ:インゲ・ボルク 《Inge Borkh》 アルト:ルート・ジーヴェルト 《Ruth Siewart》 テノール:リチャード・ルイス 《Richard Lewis》 バリトン:ルートヴィヒ・ヴェーバー 《Ludwig Weber》 合唱:ビーチャム・コーラル・ソサイエティ 《Beecham Charal Society》 管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 《Royal Philharmonic Orchestra》 指揮:ルネ・レイボヴィッツ 《Rene Leibowitz》 |
実は私自身、正直に言うと、今回の記事掲載にあたっての準備作業に入るまで、ルネ・レイボヴィッツの名前を耳にしたことはありませんでした。
というか、正確には『YouTube』にてレイボヴィッツ指揮の「第九」に行き当たるまでは、全く知らなかったのです。
今回、初めてそのレイボヴィッツが指揮するベートーヴェン「第九」というものを聴いてみたのですが、テンポとしては全体として速めで、ノン・レガート基調のキレのいい歌いっぷり《速いといえば古楽アンサンブルの類を主に指揮する延原武春やフランス・ブリュッヘンあたりを思い出すところですが、彼らが指揮した場合と比べると若干遅いような感じがする(私自身の思い込みだけかもしれないけれど)…》。
それでいて一つ一つのパートの音を漏れなくきちんと鳴らしているような印象で、特にティンパニの鳴らし方は鋭く重厚な感じがして格好良かったかな。
声楽のほうはソリスト陣、コーラスともキレのある歌いっぷりで、ピッチ下がりもそれほどではなく、安心して聴けるクオリティを保っていた感じでした。
それで、今回のレイボヴィッツ指揮の「第九」演奏について、『YouTube』に投稿された際に添付されたテキストデータの中に、以下に示す文章が見えました。
"Two hundred and fifty performers are gathered together for a mammoth recording session of Beethoven's Ninth. The work's subtitle, 'Choral,' derives from the fact that it is the only symphony Beethoven wrote which included either a chorus or vocal soloists. Assembled in front of the chorus is the orchestra, the largest Beethoven ever required. Standing at the helm of the whole massive operation is conductor Rene Leibowitz, who naturally was responsible for coordinating the entire operation. It is a task not easily undertaken, since Beethoven's Ninth Symphony is the pinnacle of all his works and one of the most stupendous pieces of music ever conceived by man. Also, it is one of the most difficult to conduct. Watching every note played or sung by two hundred and fifty musicians is a formidable challenge. But when this challenge is well met the resulting experience for the listener is overwhelming" (from Readers Digest - on this picture with Rene Leibowitz, the Royal Philharmonic, and the Beecham Choral Society at Walthamstow Town Hall, England 1961). |
これは今回の「第九」演奏を初めとするレイボヴィッツ指揮によるベートーヴェン交響曲全集を世に送り出したアメリカのリーダーズ・ダイジェスト(後記)に掲載されていたとファイル投稿者が説明している、レイボヴィッツ自身が語った「第九」観とみられる文章で〔上記英文の終わりの括弧書きに”from Readers Digest”とある〕、事細かに書かれているあたり、「第九」という楽曲の音楽的構築に際しての確固たる哲学を彼自身持ち合わせていたことを窺わせています。
と、書いてはみたものの、悲しいかな、語学力に乏しい私故、上記英文を直ちに翻訳するというのはとても覚束ないところなのですが、複数の翻訳サイトに機械翻訳させたり、自らも原文に目を通しつつ乏しい語学力で幾つか知っていそうな単語を拾ってはドンブリ勘定的に訳をつくったりなどしていくうちに、彼自身「第九」という楽曲に対して真っ当な見解を持ちつつオーケストラと声楽陣(合唱&ソリスト)を高い次元で音楽的に融合させることで今までに無い音楽空間を聴衆にもたらそうと目論んでいたのではないか、と考えるようになりました《ちょっと強引ですが…》。
なお、上記英文から、この「第九」演奏のために集結した音楽家は250人───恐らく出演者総員の数を言っているでしょう───とみられると共に、今回紹介している「第九」演奏を収録した投稿ファイルのうちの静止画像部分については1961年に当時イギリスの首都ロンドンにあったとみられるウォルサムストウ・タウン・ホール(Walthamstow Town Hall)に集結したレイボヴィッツと出演者たちを写したものです《この写真も恐らくリーダーズ・ダイジェストに掲載されていたものと思われます;「ウォルサムストウ・タウン・ホール」→今回紹介の「第九」演奏の収録場所か》。
ところで、今回紹介の「第九」演奏の指揮を務めたレイボヴィッツという指揮者について、私のほうで少し調べてみたところ、1913年2月にポーランドのワルシャワで生まれ〔ラトヴィアのリガで生まれたとの説もあり〕、1972年8月にフランスのパリで没したユダヤ系の指揮者にして作曲家・音楽理論家との由。
「ユダヤ系」であること、そして出生地と生存時期などから、当然ドイツのナチスからの迫害を想像するに堅くないところですが、ドイツでヒトラー政権が誕生した1933年にフランスに渡ってパリに居を定めてから戦後の1947年にそのパリで国際室内楽フェスティヴァルを開催するまでの14年間について、1937年に指揮者デビューを果たしたことを除いて、歴史上にレイボヴィッツの名前は登場してきません《少なくともネット上で探している限りに於いて》。
けれども、先に記したように、終戦から約2年経過した1947年にパリで室内楽フェスタを開いているあたり、1940年6月にフランス侵攻をも果たしているナチスによる迫害の最中にあっても生き延びることが出来た・・・ということになるわけですね《そうでなければ室内楽フェスタは開かれないでしょう》。
しかもレイボヴィッツが居を定めていたパリを初めとするフランス北部は進行してきたナチスにより占領されてしまったはずで〔フランス南部も一応フランス政府の自治が認められたもののナチスの傀儡政権だったとか…〕、当然ユダヤ人は根こそぎ浚われたはずなのですが・・・パリから更に別の地域(アメリカなど)に亡命したとの話が聞かれないあたり、既に指揮者という一個の音楽家として公に知られていたことで奇跡的に生き延びることが出来たということも考えられなくもないところですね。
このあたり定かではないところですが・・・
ただ、これは余談になりますが、レイボヴィッツの恩師の一人であるシェーンベルク(後記)が1933年にアメリカに亡命しているところから考えると、レイボヴィッツが恩師シェーンベルクの後を追って密かにアメリカに渡った〔それも歴史上に刻まれない形で〕、と推測してしまうところですし、仮にその通りであれば第2次大戦中でも生き延びる余地は十分にあったと思うのですが、どうやら事実として無さそうな雰囲気ですし、謎ですね。
ま、それはさておき、1930年代初頭にシェーンベルク、ヴェーベルン、ラヴェルに作曲と管弦楽法を師事したレイボヴィッツは音楽理論家としてシェーンベルクらに代表される新ウィーン楽派の作曲技法の普及に取り組むと共に、指揮者としても数多くの録音を残すことになるわけですが、特にリーダーズ・ダイジェストを通じて1960年頃に世に送り出されたベートーヴェン交響曲全曲録音は有名で、ベートーヴェンが指定したメトロノーム指示に忠実に従って演奏・収録した最初のケースとして知られているのだとか。
今回紹介している「第九」演奏もどうやらその全曲録音に含まれるみたいなのですが、メトロノーム指示こそベートーヴェンの譜面通りとしても、音として聴いていると、昨今耳にしている「第九」演奏とは音の出し方の異なるところが幾つかあったりするなど、テンポ面以外のところでは独特の解釈を展開するあたりレイボヴィッツの個性というべきところなのでしょうか《実際「第九」以外のベートーヴェンの交響曲に於いても、譜面記載内容と実際の演奏とを照らし合わせて誤りを次々と指摘しておきながら、自分自身の演奏でも慣例的なスコア改変をしっかりやっていたとの話もあります》。
それでは、ここまで長くなってしまいましたが、以下の動画6本を順次再生してお聴き下さい。
50年近く前の録音であろうレイボヴィッツ指揮の「第九」演奏なのですが、雑音少なめでクリアに聴けるのがうれしい限りですね。
合唱練習にも十分使えるクオリティであるように思います・・・是非一度おためし下さい。
【おことわり】
動画共有サイト(『Google Video』、『YouTube』等)に投稿・公開されている動画については、今後、投稿者或いは運営サイドの判断等により削除される可能性がありますことを予めご承知おき下さい。
P.S.
今回紹介したベートーヴェン「第九」演奏の指揮者ルネ・レイボヴィッツに関しては『ルネ・レイボヴィッツ(1913~1972)』・『ベートーヴェン 交響曲全集 ステレオ録音』あたりが詳しく、今回の記事作成に際してそれらをも参考にさせてもらっているほか、ナチスによるフランス侵攻とその後のことについては、ウィキペディア解説「ナチス・ドイツのフランス侵攻」の他、『戦後のフランスとユダヤ人』・『フランス降伏・ヴィシー政権・反共フランス人義勇兵:Vichy France』あたりが詳しいです《私もチラリと見ました》。
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