第3セクター「北条鉄道」、社長と鉄道部長を全国公募・・・背景に社内不祥事。そして北条線廃線の危機にも?
JR加古川線からかつて分岐していた2つの旧国鉄ローカル線のレール・・・
一つは厄神から分岐していた国鉄三木線で、その後第3セクター鉄道「三木鉄道」に移管するも、乗客数稀少などから昨年3月いっぱいで廃線に。
もう一つは神戸電鉄線をも分岐している粟生から分岐していた国鉄北条線で、こちらも現在では第3セクター鉄道「北条鉄道」に移管されて、かつてつながっていた加古川線の線路とは現在完全切り離された状態で今も運行が続けられています。
以前は日本初の使用済み天ぷら油発祥のBDF100%燃料による試験運転を成功させるなど、意欲的な取り組みを次々と打ち出して注目を集めた時期があったのですが、ここに来て不穏な動きが伝えられてきています。
それを知るきっかけとなったのは、先日ネット上で見つけた、北条鉄道の次期社長と鉄道部長の公募を報じる新聞記事でした。
それによると、北条市に於いて、以下の通り北条鉄道の次期社長並びに鉄道部長(取締役待遇)公募を行うとしています。
【公募期間】 11月24日まで 《10月22日開始》 【応募対象】 ◇ 社長 … 民間企業等勤務経験者 《年齢など不問;要求される人物像あり》 ◇ 鉄道部長 … 62歳以下。 10年以上の鉄道業務経験などを有すること 【選考】 小論文と面接 《社長・鉄道部長共通(小論文題目は異なる)》 【予定される年収額】 ◇ 社長 … 700万円程度 ◇ 鉄道部長 … 500万円程度 《取締役待遇》 【詳細資料(ダウンロード)】 ◇ 社長 … 『北条鉄道株式会社社長公募要綱』 ◇ 鉄道部長 … 『北条鉄道鉄道部長(安全統括管理者)の公募要綱』 |
私自身、この北条鉄道による社長等公募の話に接した時点では、民間出身者の経営感覚を採り入れることで新たな風を吹き込ませてくれるのでは、と半ば期待をしていたものでした。
ところが数日後、検索エンジンを通じて見つけた以下の新聞記事で、その印象は180度転換させられました。
元取締役の人物が会社に無断で自分の給与を水増しし、2年以上にわたって少なくとも約150万円を不正に受け取っていたというのです。
そして、どうやらこの不祥事が今回の北条市による北条鉄道専任社長等の全国公募の背景にあるみたいなのです・・・赤字まみれの中からはい上がろうとしているときに、いったい何故?
各種メディアによる報道によると、この元取締役は1995年に北条鉄道に正社員として採用され、一旦定年退職をしたあと2006年2月に時給800円のアルバイトとして再雇用されて経理の仕事に従事し、同年9月には取締役に抜擢されたわけですが、その際、給与は従前通り据え置かれたのだそうな。
そして2007年3月から2009年8月にかけて、草刈りのアルバイト並みの時給1040円を水増し請求、1人で実務面を取り仕切っていたためか、2年以上にわたって明るみに出なかったわけですが、2008年決算で人件費が異常に高いことに別の社員が気づいたところから今回の不正請求が発覚した次第。
当時実務の仕事を1人で取り仕切っていたとのことですが、やはり1人に経理の仕事を任せっきりにしていたことがよくなかったのだろうか・・・
加えて、取締役に抜擢された際に給与は従前からの”時給800円”のまま据え置かれたと報じられていますが、一部報道によれば、これだと月収ベースで14万円ほどであるのに対して他の常務取締役たちは20万円ほどの月給をもらっていたとも伝えていて、これでは人によっては「未必の故意」により給与の不正操作に手を染めてしまうものが現れても仕方無いところでしょう《勿論犯罪行為ですけどね…》。
取締役というのは、単なるアルバイトの身とは違い、会社経営に対して一定の責任を負うことになるわけですから、そうしてもらう以上はそれなりの待遇で迎えるべきだったと考えています。
もし抜擢した時点で会社としてきちんとそうしていれば、今回のような不祥事は起こらなかったのかも知れない・・・
元取締役は不正に受け取った分を全額弁済した上で9月30日に退職したため、会社としては刑事告訴をしないと表明していますが、この一連の問題を受けてか、運行安全統括管理者でもある鉄道部長も10月いっぱいで辞職を表明し、既に出社しなくなっているとのこと。
現在社長を兼務している加西市長は会社内では非常勤取締役の扱いとなっており、市長職の片手間でやっているような現状では全社に目を行き届かせられないと常々考えていた加西市長は、去る21日に加西市役所で記者会見を開き、専任の社長職と後任の鉄道部長を全国から公募することを発表すると共に市長自身は社長職から手を引くことも併せて表明しました。
ところが、この社長退任などの事実は北条鉄道に出資している自治体などには事前に知らされていなかったみたいで、加西市に隣接し、北条鉄道への出資比率5%にて出資参画している小野市は不信感をあらわにし、自ら保有している北条鉄道の株式の買い取り請求を行うという事態にまで発展・・・これにより、最悪の場合、車両補修や線路保守に対しての国からの補助が受けられなくなるばかりか、兵庫県からの支援も受けられなくなる虞が出てきています。
そうなると北条鉄道の存続自体が危うくなり、昨年3月に廃止となった三木鉄道の二の舞を踏むことが現実味を帯びてくるのかも知れません。
その意味で、今回の不祥事に端を発した北条鉄道の一連の”お家騒動”は、厳しい経営を迫られている地方の第3セクター鉄道に於いてはちょっとした不祥事が命取りにつながりかねないことを如実に示したものとして捉えるべきところでしょう。
この”お家騒動”を受けて、これまでの市長が社長職を兼ねるやり方を改め、専任の社長職を全国からの公募により新たに置くことにしたということ自体は正しい判断といえるところなのですが、時期的に遅きに失していること、そして出資者に対して早いうちに知らせることをしなかったことに関しては、鉄道事業経営者としては誤った判断だったと言わざるを得ないところです。
時期的に遅きに失している・・・3年前に取締役に抜擢したにもかかわらず給与について考慮されず置いてきぼりにされてしまったところで、既に社長として会社全体に目が行き届いていなかった可能性が少なからずあったわけで、この時点で専任の社長職を公募するなりして新たに置くことを現社長の意志として固め、市に対して具体的なプランを提示するなりして筋道立てて説得するなどの行動に移すべきだったかな、と思うのです《一部報道で、社長職を兼ねている現市長が「市長職の片手間では監視し切れない。だからこそ民間人の社長が必要だと言い続けたのに、議会などの理解が得られなかった」などと強調していたのだそうですが、ただ”必要だ”と声高に叫んでいただけなのか、このあたり気になるところです》。
まぁ、済んだことを今更何だかんだぼやいたところで仕方ありませんが・・・
ところで、地方の第3セクター鉄道に於ける社長(というか組織トップ)を全国公募した例としては、最近では、一昨年から昨年にかけては茨城県内を走る第3セクター鉄道(旧民鉄発祥)・ひたちなか海浜鉄道湊線(旧茨城交通湊線)と千葉県内を走る第3セクター鉄道・いすみ鉄道(旧国鉄木原線)が、そして昨年から今年にかけては山形県内を走る第3セクター鉄道・山形鉄道(旧国鉄長井線)が、それぞれ行ってきています《いすみ鉄道については今春にも再度社長公募有り》。
これら3鉄道事業者も、公募時点で提示された年収額は、北条鉄道と同様、700万円前後(山形鉄道のみ年660万程度、他は年700万程度)となっていました。
そして、これら3鉄道事業者による一般公募で選定された新社長の下で既に新たなスタートを切っているわけですが、このうちひたちなか海浜鉄道湊線では従来からの駅名標に代わってデザイン化されたユニークな駅名標が使われたり〔英字表示のないところが難点だが…〕、昨年で廃止された三木鉄道の車両を受け入れて自社線内で走らせたりするなどの取り組みをしている他、いすみ鉄道では昨年5月から使用済み天ぷら油発祥のバイオ燃料(BDF)を混ぜたディーゼル燃料で走行させる取り組みを本格的に開始するなど環境に配慮した点などを目下アピール中であり、更に山形鉄道では一般公募で選ばれた社長自身が著した自伝を書籍にして出版してその売り上げの一部を鉄道存続のために役立てるという前代未聞の取り組みを行ったり〔”ぬれ煎餅”などの菓子類の販売を収入源の一つにしている例はあるけれど…〕、東北地方に於ける他の第3セクター鉄道と組んでキャラバン活動を展開したり・・・など、それぞれの線区で生き残りをかけて各々特色を出した経営をしてきています。
北条鉄道でも過去に日本で初めて天ぷら油発祥のBDFのみで試験走行を敢行し成功させるなど、他の鉄道事業者に先んじた取り組みを重ねてきているわけですが、今回の不祥事発覚に端を発した”お家騒動”によりその全てが台無しになりかねない事態に・・・
そんな状況の中で今回北条市により発表された北条鉄道の社長職と鉄道部長職の全国公募──開始して1週間になりますが、前記3鉄道事業者と異なり、経営の刷新などに加えてこの度の出資者に対する失態の後始末(いわゆる”尻ぬぐい”)の一端を担わされる覚悟も要求されているとみられるだけに、果たして有望な人材が集まるのかどうか、注目されるところです。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『北条鉄道、社長と鉄道部長を公募』
『3セク鉄道が社長公募 兵庫の北条鉄道』
『第三セクターの北条鉄道が社長を募集 - 経営陣に民間出身者の活力を期待』
『北条鉄道 運行ピンチ 役員不正で免職、定員割れ』
『小野市長撤退の意向』
『加西市長:「非常勤直接責任ない」 「北条鉄道」時給水増し問題受け釈明会見 /兵庫』
『北条鉄道:給料水増し 小野市長、株の買い取り請求 「我々株主に説明ない」 /兵庫』
『北条鉄道:不正経理 直接的責任、改めて否定--加西市長 /兵庫』
『兵庫の三セク役員が“お手盛り” 時給で150万着服』
『燃料は食用油100% 加西北条鉄道が試験運転』
『「茨城交通湊線」三セク社長を年俸700万円で公募へ』
『鉄道紀行 わたし流 ~(7)ひたちなか海浜鉄道湊線 「昭和」へのタイムマシン』
『経営難の「いすみ鉄道」が社長公募 年収700万円』
『いすみ鉄道が社長を公募 - 即戦力としてリーダーシップを発揮する人材求む』
『トップセールスできる人材ぜひ 山形鉄道が社長公募要項を発表』
『山形鉄道存続へ自伝』
『三セク8鉄道、名物相乗り』
《→『【東北】ローカル線、仲良く相乗り』》
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大変なようですね。
これからの地方私鉄は、市民・行政・事業者が一体となって運行していくことが大切です。
感情論は排して、市民の足を守ることを最優先に解決してほしいですね。
力強くリーダーシップをとれる人材がいればいいのですが。
(吉田)
投稿: ひたちなか海浜鉄道 | 2009年10月30日 (金) 10時12分
ひたちなか海浜鉄道・吉田さま、こんばんは。
この度は鉄道事業者直々のコメントをありがとうございます。
おっしゃるとおりですね。
加えて、周辺の第3セクター鉄道と手を組んで互いに交流を深めながら営業活動を進めていくという東北地方のケースについては、生き残り策の一つとして、私も有望視しているところです。
一方で、今度の北条鉄道の不祥事は〔経営実態も原因の一つであるように感じるところですが〕、赤字に苦しむ地方鉄道にとってはちょっとした不祥事が命取りに繋がりかねないことを如実に示したものともいえるわけで、今後公募を経て選ばれる新しい社長さんには、率先して”前のめり”に行動する、強いリーダーシップの持ち主であることを願うばかりです。
とはいえ、出資者のひとつ(小野市)を怒らせてしまったのは、大きな痛手であるように感じる今日この頃です。
投稿: 南八尾電車区 | 2009年10月30日 (金) 21時49分