姫路市営モノレールの車両、35年ぶりに日の目──当時の世論と市長交代などに翻弄された実質8年の短い”生涯”
私自身も過去に何度か姫路をかすめるたびに眼にしたものです。
姫路駅周辺のところどころに今も点在しているモノレールの遺構を。
姫路といえば朽ちてしまったこのモノレール遺構・・・というイメージが頭の片隅にできあがってしまっているほどでした。
その姫路に昔存在したであろうモノレール(いや、実際に存在していたんですけどね…)について、私の自宅で購読している新聞の去る11月16日付け朝刊の社会面の片隅にて、35年ぶりにその車両が日の目を見たとの記事を発見、思わず目を丸くしたものですよ。
白と青のツートンカラーを基本としながらも車体側面下半分の大半が無塗装で金属肌がむき出しになっているあたりがこのモノレール車両の一つのアクセントとなっているような印象を受けました。
各種メディアによる報道によると、かつてモノレール手柄山駅の駅舎だったこの建物を改修して姫路市の水族館を含めた複合施設としてリニューアルさせることになり、その前段階として今回のモノレール車両の一般公開を行ったとの由。
そして、2011年4月に予定されているその複合施設のリニューアルオープンで、長らく旧駅舎内に格納されてきたモノレール車両4両のうちの2両を、リフレッシュ施工を行った上で、複合施設敷地内に展示するとのことですが〔残る2両については必要な部品を確保した後に解体されるとの由〕、かつては半ば邪魔者扱いされていたであろうこの姫路のモノレールが、運行休止から35年の時を経て、再び日の目を見ることとなったというわけですね。
姫路市交通局(現在の姫路市企業局交通事業部)が運営していたこのモノレールが開業したのは1966年(昭和41年)のことで、当時開催された「姫路大博覧会」への会場アクセスがその主な目的でした《その当時行われた「姫路大博覧会」の中の一コマが『YouTube』に動画として寄せられています→『姫路博覧会』》。
採用されたのは「ロッキード式」と呼ばれる、鉄道と同じく鉄のレールと鉄車輪を使った跨座式モノレールで、当時は機構上フラットな客室床を実現させたこと、そして高速走行を可能にしたこと等が大きなウリとなっていました。
車両は両運転台車2両と片運転台車2両の合わせて4両が川崎重工各務原工場に於いて製造されたわけですが、製造に際しては航空機メーカーとして知られた米国ロッキード社の航空宇宙技術が生かされていたとのこと。
それを裏付けるかのように、車体にはリベット打ちされた形跡が見られるとのことですが、写真で眺める限りでは、全体としてしっかりとした造りをしているような印象を受けるところです。
ところで、この”「姫路大博覧会」への会場アクセス”というのは、実は当時の姫路市長・石見元秀がモノレール実現のために掲げたいわば大義名分(というか表向きの理由?)であり、実際には姫路市内を環状に結ぶ計画で、更には日本海側にまで延伸させるという壮大な構想もあったのだそうです。
しかし当時の世論は公共交通機関の拡充よりもモータリゼーション進展に伴う道路整備を要望する空気が強く、当時の姫路市議会や市役所内部からはモノレール建設に対する慎重な意見が相次ぎました。
それでも半ばごり押しで開業にこぎ着けた姫路市営モノレール・・・「姫路大博覧会」期間中はそれなりの輸送実績を誇っていたものの、「姫路大博覧会」が盛況のうちに幕を閉じた後、そのツケは程なく回ってきました。
距離の短さに加えて、当時としてはすごぶる高い運賃だったこともあり、利用者は激減《「すごぶる高い運賃」→当時姫路市営バスの初乗り運賃10円、国鉄の初乗り運賃30円だったのに対して姫路モノレールの初乗り運賃は100円、国鉄の初乗り運賃と比べても3倍以上の値段でした(タクシー代よりも高かったとの話も有り)》。
実は姫路市交通局内部でもこの利用客激減はある程度覚悟していた様子で、主に観光客向けの様々な施策を次々と考え出していたのだそうですが、どれもふるわなかったのでしょうか・・・
そして、開業の翌年(1967年)に執行された姫路市長選挙でモノレール計画を推進してきた石見元秀が落選してモノレール反対派の吉田豊信に取って代わられたこと、更に日本国内に於ける跨座式モノレールの標準規格として走行車輪にゴムタイヤを採用したアルヴェーグ式ベースの「日本跨座式」に決定したことで”異端児”扱いにされてしまったロッキード式の日本製造元が「今後の受注見込みなし」として会社解散に至ったことなどから、このさき補修部品確保がままならなくなる状況下での安全運行の維持は困難であるとして、開業からわずか8年後の1974年に運行休止となり、その5年後(1979年)には再開されること無くそのまま廃止となってしまいました《運行末期には部品の不足から在籍車両からの部品取り(共食い整備)が行われたとの話あり》。
それにしても、建設・開業した時期がモータリゼーション旋風の吹き荒れていた高度経済成長期のまっただ中だったというのがある意味不運だったといえなくもないところですね。
現在では環境保護が世界規模で叫ばれていて、そのあおりを受けてか、鉄道などの公共交通機関の価値が見直されている雰囲気にあるわけですが、仮にそんな現在に於いて当時と同様に姫路市営モノレールが計画されていたとすれば、或いは実際に建設・開業された昭和40年前後に於いて当時の国の取り組みや世論が現在のような環境保護の観点から公共交通機関を再評価するものであったとしたら・・・
こう考えてみると、実質わずか8年の”生涯”に終わってしまった姫路市営モノレール、その”生涯”はまさしく歴史に翻弄されたものとなっていたといえるところでしょう。
一方で、最近では「高速道路通行料金上限千円(休日特別割引)」や「エコカー減税(環境性能に優れた自動車に対する自動車重量税・自動車取得税の特例措置)」等により、かつてほどではないにせよ、モータリゼーションがまた進展してきているような印象を抱いていて〔尤もこれらの施策は何れも時限的なものなので将来にわたって持続するとはいえないところでしょうが…〕、加えて地方財政は何処も軒並み厳しい情勢にあり、公共交通機関を運営している地方自治体(大阪市など)では、補助金制度改正(→『生活交通確保のための新しい地方バス補助制度概要』)などの影響もあって、地方都市を中心にその規模は縮小傾向にあるように聞かされてきてます《有名な例として、長崎新幹線(九州新幹線長崎ルート)の誘致のあおりを受けて運行規模を縮小してきている長崎県交通局があります(テレ朝「サンプロ」より→1・2・3・4)》。
手柄山までのモノレール路線の廃止後も姫路市内でバス事業を続けてきている姫路市企業局交通事業部も例外ではなく、モータリゼーション進展に加えて姫路の経済を支えてきた重化学工業の衰退の影響なども重なり、平成18年(2006年)度決算時点での累積欠損額は約11億5千万円に達るなど厳しい経営状況が続いてきているのだとか。
こうした状況を受けて姫路市では同市運営のバス路線を、地元・姫路市内に本拠を置くバス事業者の神姫バスに移管することを昨年(2008年)11月に発表、これを受けて、今年3月下旬に姫路駅南口を発着するバス路線などを移管したのを手始めに、今年度末にかけて順次神姫バスに移管を進めていき、移管を終える来年3月末日を以てバス事業から完全撤退する予定とのこと。
このことから考えると、やはり姫路市営モノレール、仮に現在に於いて建設・開業させるにしても、よほど経営面などで明確なコンセプトを打ち出すなりしない限り、事業として成立しないのだろうか・・・
北朝鮮の地下鉄車両や北京地下鉄1・2両号線を走る(かつて走っていた)車両と前面形状が何となく似てそうな感じのする〔勿論そっくりと言うほどではないけれど…〕、35年ぶりに日の目を見た姫路市営モノレールの車両を写真で眺めながら、少し複雑な気分にもさせられる私なのでした。
あ、先に「北朝鮮の~」や「北京地下鉄の~」と記しましたが、顔立ちはとても整っていて、側面も含めて今でも古さというものをあまり感じさせず、顔立ちも整っているような印象を受けていて、私自身も眺めているうちに思わずとりつかれそうな感じがしますよ。
何だかんだと記してきましたが、今回の35年ぶりの車両一般公開を機に姫路市営モノレールに対する再評価が進むことを、ただ願うばかりです。
◎ 参照記事
『旧姫路市営モノレール:来月15日の一般公開に向け運び出し /兵庫』
『モノレール:35年ぶり公開 鉄道ファンが駆けつけ--手柄山公園、一日限定 /兵庫』
『旧姫路モノレール、35年ぶり日の目 1日だけ一般公開』
『モノレール公開に1万2千人』
『懐かしのモノレール35年ぶり公開…兵庫』
『市営モノレール公開』
『市営モノレール、35年ぶりに公開…兵庫』
『35年ぶり 姫路市営モノレール公開…兵庫』
『「姫路モノレール」一般公開へ 巨大なお荷物、一転、鉄道マニアの聖地に』
『【鉄道ファン必見】幻の姫路モノレール車両を35年ぶりに公開へ』
《→『幻の姫路モノレール車両を35年ぶりに公開へ』》
『旧姫路モノレール35年ぶりお目見え』
『モノレール車両を35年ぶりに公開=兵庫県姫路市』
『姫路モノレール35年ぶり車両屋外に 来月公開』
『35年ぶり 姫路モノレール公開に1万2千人』
『勇姿ふたたび 旧姫路市営モノレール展示会開催』
『「姫路モノレール」35年ぶりに公開-見物客1万2千人でにぎわう』
P.S.
今回取り上げました旧姫路市営モノレールに関しては・・・
『モノレールのしおり』
『麗しの姫路モノレール』
『姫路市営モノレール』
『廃線探索 姫路市営モノレール』
『姫路モノレール手柄山駅跡で封印されてきたロッキード式モノレールを見る。』
あたりが詳しいほか、『YouTube』にも以下のタイトルにて営業運転されていた当時の姫路市営モノレールの貴重な映像を含んだ動画が投稿されています。
『姫路モノレール』
『Himeji Monorail(姫路モノレール)』
『関西不思議物件 姫路モノレール 他』
なお、『FMゲンキニュース 2009年10月27日「姫路モノレール」』では一般公開に向けて長らく旧手柄山駅舎内に収納されていた旧姫路市営モノレール車両が屋外に引き出される様子などが視聴できるわけですが、旧手柄山駅構内の様子も映し出されているなど、見所満載といえるでしょう。
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