ブラジル高速鉄道(TAV)プロジェクトに暗雲──融資プラン変更で更なる遅延。2014年サッカーW杯に間に合わず
日本の新幹線技術の売り込み先の一つとして注目されている、ブラジル南東部に位置するリオデジャネイロ・サンパウロ・カンピーナスの3都市を結ぶブラジルの高速鉄道(TAV、Trem de Alta Velocidade)プロジェクト。
日本のみならず、TGVを擁するフランス、ICEを擁するドイツなども「参戦」している、このブラジルの歴史的ともいえる国家プロジェクトに、今、暗雲が垂れ込めています。
と書いてみるものの、実はこの事実を私自身の知るところとなったのは2~3日前のことで、一方でこのことが報道されたのは先月中旬の話───つまりここに記すのは約1ヶ月遅れです(苦笑)
ブラジル政府は、去る10月11日、同政府が推し進めている高速鉄道(TAV)プロジェクトについて、当初策定していた、TAVの建設などを担う事業会社に対する融資プランの見直しを行う必要が出てきた表明、当初目指していた2014年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会開催までの開業は絶望的となりました。
約2ヶ月前の9月3日にブラジル政府から発表された当初のプランでは、当初見込みの総工費346億レアル(約1兆8080億円)のうち約7割(現地紙報道では”最大206億レアル”)を政府系金融機関・ブラジル経済社会開発銀行(BNDES)からの融資などの公的資金でまかなうとともに、約2割にあたる70億レアル(約3,660億円)については事業会社から出資してもらい、約1割は高速鉄道技術供与国の輸出入銀行からの融資を見込むものとなっています《ブラジル日系人向け日本語新聞『サンパウロ新聞』による報道では、BNDES融資分7割の中に輸出入銀行からの融資分を含ませ〔33億レアル…約1,720億円〕、事業会社は70億レアルを出資、あと政府が予定線ルートにかかる用地取得(立ち退き料)に23億レアル(約1,200億円)を、別途設立するTAV運営公社に資本金として11億レアル(約570億円)をそれぞれ投下する、となっています》。
ところが、その後BNDESの資産状況を調べたところ、国際決済銀行(BIS)が定めている、国際業務を営む銀行に対して自己資本比率8%以上の維持を求めること等を定めたBIS規制(バーゼル合意→現在は2004年制定の”新BIS規制”を適用)に抵触する可能性があることが判明、これを受けてブラジル政府は融資プランの見直しを表明しました。
現在提示されている見直し案では、11億レアルを資本金として政府が出資するTAV運営公社を売却すると共に、国庫からBNDESを通じて201億レアルを直接融資する、となっています。
このほか、民間金融機関からの資金協力を仰ぐことも検討していたものの、サッカーW杯と五輪向けのエネルギー供給関連で手一杯の状態で、更に海外からの新たな借款も検討していた模様で、けれども上限120億レアルとなっている上にブラジル向け長期融資に難色を示されたのだとか。
こうした融資プランの見直しの結果、ただでさえ先延ばしされてきている高速鉄道プロジェクトは更なる遅延が決定的となり、来年1月中に予定されている同プロジェクトに係る入札は「来年の第1四半期中」にずれ込み、これにより着工は最も早くて来年下半期以降となってしまい、来る2014年のサッカーW杯ブラジル大会開幕までの高速鉄道開業は絶望的な情勢に。
一方、ブラジル政府は、契約期限内の工事完成を期するため、入札参加企業(恐らく日本などの高速鉄道技術保有国の企業連合を指すとみられる)に対して一定額を保証金として積み立てることを求める保証金制度の導入を検討中で、これにより入札参加者を財政力の面から絞り込み、政府内で資金的余裕をつくる、としています。
ブラジル政府は、W杯には間に合わなくとも、その2年後(2016年)に開催が決定しているリオデジャネイロ五輪には間に合わせたい、と意気込んでいますが、この高速鉄道プロジェクトを巡っては更なる問題も明るみに出ています。
政府が試算した当初見込みの総工費346億レアルについて、地元ブラジルの建設業界関係者の間からは、政府の試算には環境対策関連が算入されておらず、その上用地取得費として提示されている23億レアル(ブラジル日系人向け日本語新聞・ニッケイ新聞報道では「26億レアル」)は少なすぎる、との批判の声が挙がっています。
更に、高速鉄道建設予定ルートにかかる各都市では「街を二分される」として地元住民らが反対運動を起こしており、日本やフランスなどの高速鉄道技術保有国をも巻き込んだこのブラジル高速鉄道プロジェクトの行く手は険しいものとなってきています。
ブラジル政府の国庫をまかなっている税収の面でも必ずしも穏やかではない情勢で、ブラジル国庫庁(ブラジル財務省の外局?)のまとめによると、ブラジル経済全体が回復基調にあるにもかかわらず、今年9月度の実質税収は前年同月比11.29%減の515億レアルにとどまり、今年に入ってからの9ヶ月間の税収も4,836億レアルと今年設定された政府目標の7,370億レアルを大きく下回っています。
更に、今年9月度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は76億レアルの赤字となっており、今年9月までの9ヶ月間のプライマリーバランスも163億7,000万レアルの黒字(ちなみに8月までの8ヶ月間では238億5,000万レアルの黒字)と、政府目標である黒字額427億レアルにはほど遠い情勢です。
そうした状況の中で進められてきている今度の高速鉄道プロジェクト、エネルギー関連など振り向けなければならない案件が他にもある中で、いかにして効率よく資金を回していけるのかが当面のカギと言えそうなところですね。
2つの世界的スポーツ・イヴェントを機にブラジル国内に交通革命をもたらすことは出来るのか、ブラジル政府の手腕が改めて問われようとしています。
◎ 参照記事
『ブラジル高速鉄道で財源案、初期投資7割は公的資金』
『聖~リオ間高速鉄道 来年1月に入札実施か』
『高速鉄道計画は資金不足? 政府、融資元を国庫庁に変更』
『高速鉄道=国庫庁が融資肩代わり=入札は再延期へ=照準はW杯から五輪か=沿線都市は市貫通に反対』
『TAVの民営化を決定』
『負けてよかった(?)16年五輪 ブラジル高速鉄道に商機 (寸人)』
『9月の国庫庁の税収は11.29%減少』
『9月のプライマリー収支は76億レアルの赤字』
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