日本の新幹線を中国が賞賛?───欧米襲来大寒波で3日間全面運休の「ユーロスター」を引き合いに出して
今月18日ごろからアメリカとヨーロッパ諸国を大寒波が襲来していることは各種メディアで既にさんざん報じられていますので、ご存じの方も多いことかと思います。
この大寒波はヨーロッパ各地の交通機関にも大きな影響を与えていて、中でも英仏間国際高速列車「ユーロスター」は18日にドーバー海峡下の英仏海峡トンネル(Channel Tunnel)内で寒波由来の電気系統のトラブルにより列車の運行が出来なくなり、21日までの3日間、全面運休という事態を招きました。
その「ユーロスター」、22日から通常の運行本数の3分の2程度という部分的運行再開に踏み切った模様でありますが、こうした中、思わぬところから、この度の「ユーロスター」の大寒波襲来による一連の運休騒ぎを引き合いに出して日本の新幹線を評価する声が挙がってきていることが明らかとなりました。
声を挙げてきたのは、日本を初めとする3カ国の高速鉄道技術を採り入れながら、少し手を入れることで「自国の技術で完成」などと国内向けに喧伝し続けている中国(中華人民共和国、中国本土)。
その中国で開設されている鉄道総合情報サイト「中華鉄道網」にて去る12月23日付けで掲載された論評記事の中で…
ユーロスターに比べ、日本の新幹線は故障が少ない。これはすべてJRが安全運行のために取っている一連の措置のたまものだ |
と、日本の新幹線を評価(というか賞賛?)しているというのです。
評価の対象となっているのは、以下の4つ。
【1】 積雪によって運行に影響が出ないよう熱水をレールにふきかけている 【2】 時には地震や台風といった大自然からの挑戦を受けるが、(運休することなく)遅延としかならない 【3】 1時間の遅延ですら大きなニュースになる 【4】 東海道新幹線では開業以来人命にかかわる事故が発生していない |
加えて「毎日多くの人びとが新幹線を利用しており、新幹線の安全かつ遅延のない運行のために巨額の資金が投入されている」とも紹介しています。
日本の新幹線を評価すること自体は、鉄道好きの一人として、素直に嬉しく感じるところなのですが、未だに日本を仮想敵国視し続けているともいわれている上、日本などから高速鉄道車両や技術を導入しておきながら最終的に「自国の技術」にすり替えたりもしている中国が、何故ここに来て、大寒波で運休した「ユーロスター」を引き合いに出しながら、日本の新幹線を褒め称えるという行動に出たのか、正直なところ、その真意がつかめないでいます。
敢えて一つ、理由と思しきことを挙げてみますと・・・
実は中国では今月下旬に高速新線「武広鉄路客運専線」〔武広線;武漢(湖北省)~広州(広東省)〕の開業を控えていて、これに先立って今月9日に広州南駅から武漢駅に向けて実施した試運転(区間距離995km)で最高速度394km/hを記録《えぇぇっ…》。
その6日後の15日にはJR東日本管轄の東北新幹線「仙台~八戸」間で実施した最新型「E5系」新幹線車両量産先行車の報道関係者向け試乗会で同車両に設定された営業最高速度である320km/hをマーク、日本国内の各種メディアはこぞってこれを「国内最速」と報じていたわけですが、中国メディアもこの試乗会の模様を報じており、これに対する中国のネットユーザからの反応として、「武広線のほうが速いぞ」や「中国より遅れているな」といった嘲笑ともとれるようなコメントが相次いで寄せられてきていたといいます。
こうしたことから、いわゆる「自国の技術」で造った中国の高速鉄道車両で日本の新幹線を上回る最高速度記録を打ち立てたことによりもたらされた自信の裏返しとして、今度の「ユーロスター」を引き合いに出した上での日本の新幹線に対する賞賛という行動に至ったのではないか───そう勝手ながら感じる私です。
ところで、中国が日本の新幹線を称えた理由とされる前記4つの要素について、私なりに見ていきますと・・・
【1】はスプリンクラーのことであり、東海道新幹線の関ヶ原界隈にかかる区間、上越新幹線の越後湯沢以北の区間など雪のよく降る地域にかかる区間に設置されています《ただ「熱水」と記されているのはちょっと大袈裟な気が・・・本当は最高でも40度台の温水らしいのですが》。
また【3】についてはまさしくその通りで、今は亡き鉄道紀行作家・宮脇俊三も、日本では数分遅れた程度でも新聞記事になる、という意味のことを自著の中で述べているほどで、定時運行に腐心している日本の鉄道の象徴の一つともいえるところでしょう。
残る【2】・【4】の2つの要素については、それぞれに反例が存在します。
【2】については、約5年前にあたる2004年(平成16年)10月23日に発生した新潟県中越地震で、当時上越新幹線を走行中だった東京発新潟行き「とき325号」の6・7号車を除く計8両が「浦佐~長岡」間で脱線、越後湯沢以北の区間が10月30日までの1週間運休となり、脱線現場を含む越後湯沢~長岡間については全線運転再開となった12月28日までの約2ヶ月間不通が続いていました《→上越新幹線脱線事故》。
まぁこのケースの場合、今度の「ユーロスター」みたいに全面運休という事態に陥ったわけではなく無く、一部区間に限っての運休だったわけでありますが、少なくとも遅延だけで終わったわけではないことは確かでしょう。
また【4】については、約14年前にあたる1995年(平成7年)12月27日、東海道新幹線・三島駅プラットホームから男子高校生がドアに指が挟まれた状態のまま転落、頭を車輪に轢かれて即死するという「三島駅乗客転落事故」が発生していて、この時点で1964年の東海道新幹線開業以来続いてきた「死亡事故ゼロ」の記録が途切れてしまっています《但し、これ以降は「車内の乗客が死亡した事故は皆無」という表現に書き換えた上で”死亡事故ゼロ”の記録を継続させているのだとか…》。
中国「中華鉄道網」に掲載の当該記事の記者が今回の日本の新幹線に対する評価発言を嘘で言っているわけでは無いのでしょうけれども、しょせんがよその国の鉄道のこと、細かいところまでは手が回らなかったんでしょう。
記事として公に出す以上は、もう少し深く掘り下げるべきところだったでしょう・・・まぁ私も大きなことは言えませんが。
時に突飛押しのないことをしてくれる中国───けれども詰めのところが甘かったかな。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『ユーロスターの運休を受け、中国で高まる「新幹線の評価」』
『中国の高速鉄道「時速394キロ」を達成…武広線で試運転』
『武漢・広州鉄道旅客専用線 スピード世界一に』
『新幹線が時速320キロを記録…中国では「ウチの方が速いじゃん」』
『ユーロスター、部分復旧へ 閉じ込め客に賠償も』
『ユーロスター、22日から部分的に運行を再開』
『寒波で運休「ユーロスター」4日ぶり再開』
『ユーロスターが3日ぶりに運行再開 損害賠償も発表』
《→『ユーロスター3日ぶり運行再開 損害賠償も発表』》
『【図解】大寒波で運休したユーロスター』
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