オバマ肝煎り「米国高速鉄道網整備計画」始動・・・フロリダ州、カリフォルニア州等に予算配分。JR東海も販売先選定
昨年(2009年)の11月にこのブログでも東海道新幹線「最高速度332km/h」記録に関する記事を書きましたが〔同日名古屋駅真上で開催済みの高速鉄道シンポジウムとのセット開催でしたけどね…;→『新幹線シンポジウムと試乗会(兼330km/h走行試験)、好評博す──JR東海。最高速度アップも《+米国ウソ電!?》』〕、その記事の追記のところで、アメリカで進行中の高速鉄道プロジェクトのことにちょっとだけ触れました。
その中の一つともいえる、西海岸カリフォルニア州で進行中の高速鉄道計画を告知するために開設されたカリフォルニア州高速鉄道局(CHSRA)の公式Webサイト内で発見した、東海道・山陽新幹線700系車両の”カリフォルニア高速鉄道仕様”と共に・・・
まぁ現段階では「ウソ電」になってしまっていますけどね───700系新幹線車両がアメリカに渡った話なんて聞いたこと無いし(爆)
それにしても、車体下部に見える、ある種不自然な白帯を除けば、何とも精巧に出来上がっているような印象を受けました。
私にもこのくらいの腕があれば、いくらでも「ウソ電」(というか架空の鉄道車両)を作ってしまいそうです(笑)
それはさておき、そんなアメリカ全土にわたる高速鉄道プロジェクト───昨年就任した黒人初のアメリカ大統領、バラク・オバマの肝煎りで始まった「グリーン・ニューディール政策」の一環として、5年間で総額130億ドルをかけて展開中の高速鉄道網整備計画に注目していた日本のJR東海は、昨年8月にアメリカの鉄道コンサルティング会社と契約してアメリカを初めとする各国の高速鉄道マーケットについての調査を依頼、その結果を基に検討した結果として、一昨日開かれた記者会見の席上で、合わせてアメリカ国内7計画路線への新幹線(鉄軌道式)技術並びにリニアモーターカーシステムの売り込み(販売活動)をかけていくことを正式に表明しました《→『高速鉄道の海外事業展開について』》。
調査依頼先として、昨年8月にJR東海が契約したのは「U.S.-Japan High-Speed Rail(USJHSR)」と「U.S.-Japan MAGLEV(USJMAGLEV)」の2社で、読んで字の如くとでもいうか、前者はN700系国際仕様車両(N700-I)を核にした新幹線(鉄軌道式高速鉄道)システム一式「N700-I Bullet」の売り込み先について、後者はリニアモーターカーシステム一式「SCMAGLEV」の売り込み先について、それぞれ調査にあたっていました。
そして、それらコンサルティング会社2社から得られた調査結果を基に検討を重ねた結果、何れもアメリカ国内に於ける以下の7計画路線に対して売り込みをかけていくことで正式にまとまりました。
【「N700-I Bullet」一式売り込み先】 ◎ タンパ~オーランド~マイアミ間(フロリダ州) 《約570(530)km》 ◎ ラスベガス(ネバダ州)~ロサンゼルス(カリフォルニア州)間 《約440km》 ◎ テキサス州内 ◎ 中西部地域(シカゴ周辺?) 【「SCMAGLEV」一式売り込み先】 ◎ ボルティモア(メリーランド州)~ワシントンD.C.《約65km》 ◎ チャタヌーガ(テネシー州)―アトランタ(ジョージア州) 《約200km》 ◎ ペンシルベニア州内 |
残念ながら、前置きのところでちょっとだけ紹介した、700系車両”カリフォルニア高速鉄道仕様”などの「ウソ電」を作成してまでPR活動を行ってきているカリフォルニア州高速鉄道局(CHSRA)主管の計画線「サンフランシスコ・サクラメント~ロサンゼルス~アナハイム・サンディエゴ」間については、今回は選定されませんでした。
ただ、このカリフォルニア高速鉄道計画については、主管官庁であるCHSRAが現時点では来年(2011年)のうちに受注先を選定して再来年(2012年)の着工を目指しているとの談話を出していること、日米両政府間レヴェルに於いては既に合意を取り付けていること、JR東海でも上記列挙路線(地域)以外についても引き続き検討するという意味の談話を出していますので、次にはもしかして拾われるのかもしれませんね。
それはさておき、JR東海では今回の売り込みに関して、現在自社管轄内に於いては鉄軌道方式である新幹線の建設計画が無く技術力維持には海外展開が得策、と考えているほか、2025年の先行開業を目指しているリニア中央新幹線(中央リニアエクスプレス)の整備ノウハウにも生かせる、とも考えている様子です。
ところで、今回JR東海の売り込み(販売)先として絞り込まれた7つの計画路線のうち、そのJR東海が特に力を注いでいるのが、「N700-I Bullet」売り込み先の一つとして選定されている、フロリダ半島南部を走る計画路線「タンパ~オーランド~マイアミ」間。
このフロリダ州内に於ける計画路線では、第1期区間の「タンパ~オーランド」間約140km、そして第2期区間の「オーランド~マイアミ」間約430kmから成っていて、調査依頼したUSJHSRによると、これらのうちの第1期区間については「建設準備間近」の状態とのこと。
順調な滑り出しのように思えるところですが、一つ忘れてはいけないのは、フロリダ半島南部に位置するこの一帯は、日本で言うところの台風に相当するハリケーンの通り道にあたる地域(いわば「ハリケーン銀座」)にあたっていること。
最近では昨年8月17日早朝(現地時間)に上陸した、ハリケーンの一歩手前の段階にあたる熱帯性低気圧の一つ「クローデット(Claudette)」が上陸して暴風雨をもたらしたりしています《→『熱帯性低気圧「クローデット」、米フロリダ州に上陸 今期初』》。
アメリカ政府とフロリダ州、そして売り込みをかけているJR東海も既に心得ていることと思うので、今更私が言うことでもないとは思いますが、こうした「ハリケーン銀座」と呼ばれるような地域に新たに建設される高速鉄道路線ということで、暴風雨対策というものが否が応でも求められるところでしょう。
とはいえ、鉄道に於ける暴風雨対策、といわれても正直ピンとこないところがありますが〔ましてや私の場合は素人の鉄道好きに過ぎないし〕・・・考えられるとすれば、スラブ軌道とすること〔少なくとも飛来物を大幅に減らせる〕、あらゆる地上設備(架線に動力用電気を供給するための変電所とか)をある程度の暴風雨そして洪水にも耐えられる構造とすること、そして一定以上の暴風雨を検知した時に直ちに給電を停止するなりして被害を最小限に食い止められるシステムを構築すること───ぐらいかな。
ただ、長期にわたっての安定した運営を図るには、きちんとした暴風雨対策・洪水対策を建設段階から講じておくことが肝要であるように思うところです。
そのあたり、フランスのTGVやドイツのICEでは果たして対応可能なのだろうか───ICEはどうなのか知らないのですが、TGVでは気密性の面で新幹線に劣るようなことを、TGVベースで造られた韓国のKTX(の車両と機関車)を通じて露呈されてしまっているような感がありますから・・・
と、ここまで書いたところで、ふとネット上で目にした情報がもう一つ───フロリダ半島は「落雷の名所」とも。
なんでも、上空の気流の関係などから、フロリダ半島では、晩春から秋口にかけての時期、主に午後に短時間雷を伴った嵐に見舞われることが珍しくないのだとか。
高速鉄道のこと、当然のことながら給電に際して高めの電圧が要求されることが容易に想像されるところであり〔新幹線の「交流25,000V」とか〕、日本国内でも落雷で停電となったり、運悪ければ信号設備のトラブルにも見舞われたりしているので〔→『秋田新幹線、運転再開 落雷で信号機トラブル』とか〕、落雷対策(と竜巻対策)も手抜かり無く講じる必要がありそうなところですね。
あと地震についてですが、最近アメリカ東部地域では地震発生の話はあまり聞かないものの、7年前(2003年)12月に首都ワシントンD.C.の西120マイル(約193.1km)の地点(バージニア州内)を震源とするM4.5の地震が発生し、ワシントンD.C.中心部でも揺れを感じたとの前例が存在する他〔→『WASHINGTON 通信(December 2003)』〕、今年に入ってから大地震が発生したハイチからは距離的にそれほど離れていない印象なので、地震対策も併せて施しておいたほうがいいように感じるところです《フロリダ半島とその周辺地域と、ハイチが位置する地域の地盤プレート関係が具体的にどうなっているのかは私の知るところとなっていないので何とも言えませんが──でも2003年に西海岸カリフォルニア州中部沿岸部に於いて発生したカリフォルニア地震以降、アメリカでも構造物の耐震性が問われるようになっているみたい…》。
何だかJR東海が最優先で売り込みをかけていくであろうフロリダの高速鉄道計画にまつわる余計な心配事ばかり書き並べ、長くなってしまっていますが、完成そして営業開始後に於いて長期にわたり信頼される高速鉄道として運営していく上で心配となったことを書いてみたつもりです。
勿論、フロリダ以外の地域における計画線であっても、地域ごとに特有の気象条件、地理的条件などを十分考慮し、対策を講じていくべきであることは言うまでもありませんね。
あと、心配事といえば、以上書き連ねた主に自然面の条件以外にも、コスト面に於いてTGVやICEと比べて不利といわれていること、そして新幹線技術一式自体が国際標準機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)に於いて国際規格として認定されていないこともあります。
JR東海は「日本の新幹線は世界最高のトータルシステム。アメリカは日本の新幹線システムを展開する可能性が最も高い地域。実現すれば資材や機材の供給などで日本の製造業の市場拡大にもつながるし、アメリカ国内の雇用対策にもなる」としていますが、なかなか景気低迷から脱することが出来ない中で〔”2番底形成”の懸念の声も聞かれますし…〕、いかにしてコスト差を上回る利点を筋道立てアメリカ政府などに説明等出来るのかが鍵となってきそうな感じですし、新幹線技術一式の早期のISOやIECからの規格認証取得もまた受注に向けての課題となりそうですね《慶應義塾のレポート『世界へはばたけ!日本の新幹線』はなかなかいいことを書いてくれています(同時進行中のブラジル高速鉄道(TAV)プロジェクトで仮に日本の新幹線技術が採用された場合の米国国内に於いて見込まれる雇用創出のことにも言及しています)》。
そろそろ、高速鉄道整備に用意された80億ドルの配分先が発表されるところでしょうけれども、日本の新幹線技術がアメリカでも採用されることを私自身も願うばかりです。
P.S.
この記事を書き終わる頃になって、予算配分先がアメリカ政府から発表されました。
オバマ大統領は昨日(28日→現地時間)、フロリダ州タンパでの集会で演説し、全米の13計画路線に対して予算を配分すると表明しました。
この中には、オバマ大統領の今回の演説地タンパを起点とする、JR東海が最も力を注いでいるフロリダ州の計画線も含まれている他、JR東海による売り込み先候補リストには載らなかったものの、前置きで触れた700系車両”カリフォルニア高速鉄道仕様”の「ウソ電」等も動員してまで大々的にアピールしていた西海岸カリフォルニア州の「サンフランシスコ~ロサンゼルス」間、つまりカリフォルニア州高速鉄道局(CHSRA)主管の計画線の一部も入っています。
その一方で、オバマ大統領は、この演説の中で、高速鉄道技術を保有している代表的な国として「欧州と中国」を挙げているものの〔韓国KTXを目指すべき先例として挙げていたとの一部報道も有り〕、日本のことには言及しておらず、このあたり日本勢が苦戦を強いられていることを示唆している格好となっているといえそうですね《とても残念だけど…》。
今後、日本の新幹線とフランスのTGV、ドイツICEを初めとする激しい受注合戦が本格化するといわれていますが、JR東海を初めとする日本連合には受注に向けて悔いの残らない”戦い”を展開してほしいと思います。
ただ、仮に現在日米間の最大の懸案となっているアメリカ軍普天間基地の移設問題でしくじるようなことがあれば、この激しい受注合戦にも微妙な影を落としかねないだけに、外交面なども含めた”総合力”が問われているともいえそうなところですね。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『新幹線、フロリダに照準 JR東海会長会見』
『新幹線・リニアの技術輸出…JR東海表明』
『リニア・新幹線、米に売り込み JR東海、3路線で』
『JR東海:高速鉄道システムの輸出、米7路線に照準』
『新幹線、リニア売り込みへ JR東海が米フロリダなどで本格展開』
《→『新幹線、リニア売り込みへ JR東海が米フロリダなどで本格展開』》
『新幹線、米で積極営業 JR東海「フロリダ州が最優先」』
『JR東海、米国中心に新幹線・リニアモーターカー技術売り込み発表』
『新幹線売り込み、米国4地域に重点=JR東海、葛西会長らが会見』
『新幹線やリニア、米で売り込み JR東海が7区間に絞り込む』
『新幹線は輸出の「超新星」になれるか 国内市場頭打ちで、海外に活路』
『JR東海、新幹線運行システムと超電導リニアシステムで海外進出へ』
『米、鉄道で経済再生へ』
『JR東海、新幹線システムの対米輸出に本腰』
『JR東海:リニア含む高速鉄道で世界展開-米国中心に選定』
『JR東海、北米で高速鉄道路線プロジェクト参入』
『オバマ大統領の高速鉄道網計画』
『オバマ大統領、高速鉄道計画を発表』
『グローバルコラム~第70回 米国のグリーン・ニューディール政策の展望と日本の環境政策の影響』
『長谷川洋三の産業ウォッチ ~リニア技術供与:JR東海葛西会長の中国観』
『海外に新幹線売り込め JR東海、各地計画にPR本腰』
『高速鉄道網 展開拡大、短距離航空路を駆逐するか』
『雷と雪.霰.雹 雪起し 池田勝一』
『BlueRose Wiki - フロリダ半島』《←『Florida』》
『全米13路線で高速鉄道整備=雇用効果狙う-オバマ大統領』
『米で高速鉄道整備が始動 大統領表明、日本に触れず』
『全米で高速鉄道を整備、31州に7千億円余を拠出 米政府』
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