ブラジル高速鉄道(TAV)プロジェクト、2月中に入札実施か…昨年暮れから入札プロセス入り。コスト面のみで審査?
昨年(2009年)10月にブラジル政府による融資プランの変更のため工程がまたも先延ばしにされ、2014年にブラジルで開催予定のサッカー・ワールドカップ(W杯)までに完成が間に合わないことが確実視されてしまっている感のあるブラジル高速鉄道(TAV)プロジェクト───新幹線技術を持つ日本を初め、TGVのフランス、ICEのドイツ等の高速鉄道技術保有国の他、最近では韓国や中国、イタリアなどの国々も”参戦”する意向を表明するなど、ますます熱を帯びてきている感のあるこの国家プロジェクト、昨年暮れになってようやく具体的な動きを見せてきている様子ですね。
正直言って、ちょっとじれったい印象を抱いているところですが・・・
共同通信などによると、昨年暮れ、12月18日にブラジル政府は高速鉄道(TAV)プロジェクトへの参画事業者(建設・運営事業者)を選定するための入札に至るプロセス(手続き)に入ったことを明らかにすると同時に、その入札に際しての審査(評価)基準の原案を公表しました。
現時点で見込まれている総事業費は346億レアル(約1兆7300億円)で、ブラジル政府がこのうちの6割にあたる209億レアルを上限に融資することになっていますが、今回発表された審査基準の原案では、このブラジル政府からの融資を以下に低く抑えられるか、そして完成後に於いてどれだけ安価に運賃設定が出来るのか・・・を競わせるものになっているのだとか。
一方技術面では、高速鉄道開発技術の移転については必須項目とされているものの、審査基準原案の中に技術的な項目は一つも入っていないとの話。
NHKによる報道では、この基準を巡り、フランスTGVをベースにした車両での入札を目指している韓国が低価格で入札する可能性が指摘されているとのことですが、韓国といえば、実は過去に韓国の車両メーカー(ロテム→現代ロテム)が台湾国鉄在来線向けに鉄道車両を納入した際、納入後に故障が相次いだにもかかわらずアフターケアが十分ではない等として台湾の鉄道当局にあたる台湾鉄路管理局がブラックリスト入りを決めたという前例があり、このことを察してのことなのかどうかは定かではありませんが、日本側がブラジル政府に対して技術面をより重視すべきだと働きかけていく方針にしているのだとか。
尤も、そのNHK報道によると、今回発表された入札審査基準原案については、入札が行われるまで、必要に応じて修正する用意があるとも表明していますが・・・
その入札審査基準原案を携えて開かれたであろう〔定かではないけれども…〕、去る11日にリオデジャネイロで開催された公聴会には企業関係者ら100人以上が出席。
この席上で中国側の関係者がブラジル高速鉄道プロジェクトへの応札を表明した一方で、地元ブラジルの出席者からは「日本から最新のリニアモーターカー(JRマグレブ?)技術の導入も検討すべき」との声も上がっていたとか。
この公聴会の場で、ブラジル政府は2月にも入札を実施する可能性を明らかにしたのだそうですが、日本側の関係者も出席して入札審査基準の原案に対する意見をきちんと述べてきたのだろうか。
ただ、公聴会自体は今月29日までブラジル国内各地で開かれるみたいなので〔13日にサンパウロ市にて開催済、その後15日にカンピーナス市で、19日に首都ブラジリアでも開催済の模様〕、その中できちんと日本側の主張が出来れば───と期待しているところです。
ところで、コストパフォーマンスを意識することは事業を経営する上で確かに欠かせないことなのかも知れないのだけれども、このブラジルが打ち出している高速鉄道プロジェクトは、まさしく利用者の人命を預かる公共交通機関、それも都市部を走る地下鉄の類と比べて遙かに速いスピードで走行する高速鉄道を対象としているもの。
高速云々以前に、公共交通機関に求められている最大の要素が「安全第一」であることは、これは日本国内に於けるアンケート調査の類になりますが、2006年に日経BPコンサルティングが行ったアンケート『公共交通機関への不安』の調査結果からも明らかと言えるでしょう《→『連続調査No.36「公共交通機関への不安」』》。
ブラジル人といえども、バスや鉄道、航空といった公共交通機関に安全を求めるのは変わらないと思います《ましてブラジルは、地球上では日本の丁度裏側に位置するにもかかわらず、居住している日系人の数が最も多い国としても知られているし…》。
鉄道ではありませんが、3年前(2007年)にサンパウロのコンゴニャス国際空港で発生したブラジルTAM航空3045便エアバス機の着陸失敗・炎上事故───あの大惨事のことを、まさかブラジル政府が既に忘れてしまっているようなことは無いでしょうけれども・・・
最大800mにも及ぶ高低差も存在する等の厳しい地理的条件を予定ルート上に抱えているとされるブラジル高速鉄道プロジェクト、安全運行を担保するために必要なあらゆる地上設備(トンネルなどの構造物や信号保安設備とか)に費やされる、いわば公共交通機関に於ける”命の金”ともいわれるべき部分が安易に削られることの無きよう、日本側は、現地の協力者も交えつつ、ブラジル政府側に筋道立てて前のめりに説得なりして欲しいところですし、ブラジル政府側もまた、コストパフォーマンス面と同時に技術面にもしっかりと目を向けることで、ブラジル国民から信頼される、基礎部分から確実に高速鉄道を造り上げるよう努めてほしいところです。
P.S.
ブラジル政府による高速鉄道プロジェクトの総工費見積もりに絡んで、昨年10月末にひとつ問題が発覚しました。
去る10月30日付けでブラジルの現地紙が報じたところによると、高速鉄道建設に於けるトンネル掘削などに係る費用見積もりで、今回進行中のプロジェクトで入札業務を受け持つ国家陸運庁(ANTT)がイギリスのコンサルタント会社・ハルクロウ社に依頼して得られた見積もり結果に不正確な箇所があると、トンネル工事委員会(CBT)が報告、明るみに出ました。
何でもトンネル内径と見積価格との関係が相場と逆になっていたり、掘削対象の地盤の状態とその費用の関係に問題があったり───等の矛盾点を指摘、ANTTの次官も計算違いの可能性を認めているとのこと。
2月にも行われる見通しと報じられている入札に影響が及ばなければいいのですが───今は静かに見守っていましょう。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『ブラジル、高速鉄道の入札原案 日本勢含め資金調達力カギ』
『ブラジル、高速鉄道入札へ 日本、新幹線輸出目指す』
《→『ブラジル高速鉄道入札へ 日本、新幹線輸出目指す』》
『ブラジル高速鉄道2月にも入札へ 中国も参加に意欲』
《→『ブラジルの高速鉄道、2月にも入札へ』》
『ブラジル高速鉄道入札 コスト面を重視 』
『高速鉄道の杜撰見積り=国家陸運庁が誤算を指摘=どうなるC・マルテ駅?』
『高速鉄道の環境ライセンス認可は来年中頃か』
『インフラ/PACとブラジル高速鉄道プロジェクト』
『ブラジル初の高速鉄道、遅れる準備 W杯前の完成、地形と地価が壁』
『TAM3045便事故の原因(現地報道より)』
『台湾鐵路局、自強号とEMU500で詐欺行為のロテムを入札から追放事件詳細 2004-2005』
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はじめまして。
ブラジルの高速鉄道プロジェクトに大いに関心を持っています。
日本に落札してもらいたいもんです。
最新の情報は何かお持ちでしょうか?
延び延びになっている入札は本当にいつ実施されるのでしょう。
投稿: gachopin | 2010年2月19日 (金) 20時51分
gachopinさん、こんばんは、こちらこそ初めまして。
ブラジル高速鉄道(TAV)プロジェクト、どうやら入札実施時期がまた延び延び(というか先送り)になっていそうな気配です。
私としても是非日本の新幹線技術が選ばれて(というか落札されて)ほしいと願っているところですが───依然として予断の許さぬ状況が続いているみたいです。
投稿: 南八尾電車区 | 2010年2月20日 (土) 20時26分