「水了軒」事業停止、破産手続きへ…4月20日。1888年(明治21年)創業の老舗駅弁屋、大阪駅大改築最中の終焉
大阪駅や新大阪駅を利用したことのある人ならば、一度は目にしたことのあろうところの「水了軒」の文字・・・
尤も駅構内でどういうルートを歩くかによっては目にしないケースもあるのかもしれませんが──ちなみに私自身は幾度と無くこの屋号が目に入ったものです。
そんな老舗的存在だった「水了軒」───ついに破産。
1888年(明治21年)、大阪駅(初代)構内に於ける水あめ、あんパンの販売にて創業した「水了軒」、去る4月20日に事業停止そして破産手続きに入ったことが判明、122年もの長きにわたる歴史に自ら終止符を打ちました。
負債総額は約3億3000万円。
金額的に小さいなぁ──と感じるのは私だけ?《企業倒産の際に抱えている負債総額といえば、たいていはン十億以上の金額で伝えられてきているものだから・・・まぁ企業規模にもよるけれども》
それはさておき、新聞系メディアに掲載されている、シャッターの固く閉ざされた水了軒店舗をとらえた写真を眺めているうち、何だか切ない思いに駆られるところがあります。
各種メディアは、今や駅構内にまで進出してきている安価なコンビニ弁当(おにぎりの類もあったっけ…)の台頭や、デパ地下で駅弁と同等かそれ以下の価格で販売されている出来たての温かい弁当の存在などを水了軒を破産に至らしめた背景として指摘しているみたいですが、加えて、従前から駅構内に於いて駅弁より安価で済ませられるうどん・そばスタンド(駅そば)の存在もその背景の一つとして無視できないような気がしないでもないところです《尤も最近ではそのうどん・そばスタンドの数すら減らしてきているとの話も聞こえてきていますが…》。
実際、私自身も旅先での食事の大半を駅ホーム上などに軒を構えるうどん・そばスタンドで済ませていましたから〔どうもスミマセン…〕───そんな私の眼には、正直、駅弁は贅沢品に映ってしまっていました。
とはいえ、全く駅弁の類を食べたことがないのかと言われると、必ずしもそうではなく、希ながらも、食したことはあります。
その中には、帰りの新幹線車内で半ば緊急避難的に千円台の駅弁の類を食したという経験も含まれますが───けれども、値が張る一方で、弁当ごとに様々な工夫が凝らされていたりして〔特産品が入っていたりとか…〕、それなりに食しつつ楽しめるかな。
最近では個性的な駅弁たちが京王百貨店や阪神百貨店などで毎年開催されてきている大規模な駅弁大会の類に集結して味や技などを競い合い、放送メディアなどでも取り上げられたりして脚光を浴びてきているように思えるところなのですが───ネット上で見聞きする限りでは、水了軒の弁当、幕の内主体の商品ラインナップとなっていて、駅弁大会にも顔を出すことは少なく、地味な存在だったように聞きます。
けれども、そこは122年の長きにわたる歴史を誇る老舗駅弁屋───地味ながらも味覚面などで高く評価する声が聞かれますし〔→『大阪の水了軒はおいしいですか?』〕、一方では”大阪コテコテ”の個性的な弁当も出回っていたみたいで〔→『駅弁の老舗「水了軒」が倒産』(「くいだおれ」とのコラボ弁当なども出していたとは知らなかったです…)〕、それなりに生き残りを図ってきていることが窺えます。
とはいえ、今や駅構内にまで進出してきている安価なコンビニ弁当などに圧されてきている中で、何か一つ突出した個性(というか特徴)を前面に出すと共に駅弁大会(京王「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」とか)などの公の場で広くそれをアピールするなどの行動をとらなければ生き残れない今の駅弁を取り巻く厳しい現実を垣間見る思いがしました。
一方で、駅弁の抱える決定的なデメリットの一つとして、一部を除き、寒い時期には”冷や飯”状態のまま販売されてしまうという点が挙げられるところかな。
うどん・そばスタンドでしたら、夏期限定メニューなど一部例外を除いて、当然のことながら温かい状態で食することが出来ますし〔街中のホカ弁屋も同様のことがいえますね…〕、コンビニ弁当にしてもレジ精算後に店員に頼むなりしてレンジで温められますし・・・
最近では駅弁の中にも、ごく一部、食する前に温めてくれる仕掛けの付いたものが登場してきてはいるものの、総じて言えば、冬などの寒い時期に於いては駅弁は旅先の食事としてちょっと付き合いにくいところがあるように正直思えるところです。
駅弁事情以外に水了軒倒産の背景を求めるならば、前出のブログ内記事の中でも指摘されていますように、従前から店舗として構えている駅構内に於ける時代に応じた環境の変化についていけなかったというのも原因の一つとして挙げられるところです《ちなみに前出のブログ内記事では天王寺・新大阪両駅構内に於ける環境変化に原因の一つを見出しています》。
最近考えられる背景(というか駅構内に於ける環境の変化)を一つ挙げてみますと───大阪駅自体が、現在、「大阪駅開発プロジェクト」に基づく大規模な駅舎改築工事の真っ最中にあり、ただでさえ売り上げ不振に苦しんでいるところに新駅舎完成後に於けるテナント入居に係る家賃負担の話が持ち込まれ、これではやっていけないと泣く泣く廃業を決めた可能性も考えられなくもないところですね《勿論これについての真偽については定かではありませんが…》。
何れにせよ、ここ最近は売り上げ不振に苦しんでいた様子で、そこに幾つもの悪い要素が重なって、最終的に自己破産に追い込まれたということで、経済的理由からあまり駅弁のお世話にならなかった私がこんなことを言っても虚しく響いてしまうだけなのかもしれませんが、大阪に住む鉄道好きの一人として、また一つ心の空白が出来てしまう思いがして寂しい限りです。
私が言うのも変ですが───長い間、大阪の地で行き交う旅人たちのおなかを満たし続けてくれて、ありがとう。
P.S.
駅弁を専門に扱うWebサイト『駅弁の小窓』内に掲載されている『衛生管理抜群の水了軒駅弁工場』というページを検索エンジンを通じて拾うことが出来ました。
このページは5年前(2005年)の1月30日に水了軒駅弁工場をサイト管理人らが実際に見学に訪れた際の写真入りレポートとなっているわけでありますが、当時この駅弁工場では衛生管理徹底のため3つのゾーンに厳格に仕切るなどの工夫が採り入れられており、地元・大阪市の保健所から満点に近い評価を得ていることなどが紹介されています。
この工場見学会の約5年後に会社自体が終焉を迎えることになるなんて───眺めているうち、改めて切ない気持ちに駆られました。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『「大阪寿し」「八角弁当」の水了軒、破産手続きへ』
《→『八角弁当の「水了軒」、破産手続きへ 明治21年創業』》
《→『「大阪寿し」「八角弁当」の水了軒、破産手続きへ』》
『水了軒:弁当製造、破産申し立てへ』
『駅弁の草分け「八角弁当」の水了軒、破産申請へ』
《→『水了軒が破産申請へ…負債3億円、事業停止』》
《→『水了軒事業停止…コンビニ、デパ地下台頭影響』》
『駅弁の老舗「水了軒」破産申請へ 負債総額約3億3000万円』
《→『駅弁の老舗「水了軒」破産申請へ 負債総額3.3億円』》
《→『駅弁老舗「水了軒」破産申請へ』》
『時代はコンビに弁当…老舗駅弁会社破産へ』
『駅弁競争に警鐘か! 八角弁当(大阪駅)が消滅』
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【関連記事〔駅弁販売業者「水了軒」(4月21日自己破産)の事〕】
「駅弁「八角弁当」等の復活に道筋・・・岐阜の総菜店チェーン「デリカスイト」、水了軒保有の商標・工場施設一切を買取」
「旧・水了軒の「八角弁当」他約20品目、復活販売へ・・・デリカスイト、2月15日から。当面は阪神地区向け予約販売のみ」
【関連記事(その他、駅弁のこと)】
「第42回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会(駅弁大会)に寄せて・・・」
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» 1326.ある老舗駅弁業者の破綻~水了軒よ、お前もか! [さすらい館]
以前の記事で、管理人は駅弁についてこんなことを書いています(当時の記事は こちら
)。
しかし最近では、コンビニなどに押されて、駅弁を販売する業者・販売する量双方共が減少傾向にあるのは、何とも残念です。
最近でも、北海道の名寄駅の業者が廃業したり、羽越線... [続きを読む]
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