ピアノ独奏で聴くベートーヴェン「第九」──フランス出身の”アラカン”ピアニスト、シプリアン・カツァリス。終楽章のみ
今年、なんだか「1万人の第九」と「第九ひろしま」双方の合唱団員募集の告知のペースが昨年と比べて早足になっているような感じになっていますね。
特に「第九ひろしま」今冬開催分(第26回→「第九ひろしま2010」?)の合唱団員募集告知の出足の早さには驚かされました。
何しろ例年と比べて1ヶ月以上前倒ししての告知開始でしたから───このあたり主催者(中国放送など)サイドが抱いているであろう危機感を感じずにはいられないところなのですが、私としても存続を願うばかりです。
さて、今回は『YouTube』を初めとする動画共有サイトで新たに見つけたベートーヴェン『第九(交響曲第9番”合唱付”)』の演奏を収録した動画を、紹介旁々、一緒に聴いてみようと思います。
今回聴きますのは、昨年11月に取り上げました「水戸の『300人の《第九》』」以来となります”編曲された「第九」”演奏となります。
取り上げるのは、ハンガリー生まれのピアニスト且つ作曲家で「ピアノの魔術師」という異名としても知られているフランツ・リストの手によりピアノ独奏用に編曲されたベートーヴェン「第九」の演奏。
ピアノ独奏版のベートーヴェン「第九」を取り上げるのは、当ブログでは今回が初めてのことになります。
このリスト編曲版の「第九」に於いては終楽章に取り入れられている声楽部分も織り込まれているため、演奏は一人のピアニストにより全てが進行する形になっています。
今回聴くそのリスト編曲による「第九」で演奏しているアーティストはシプリアン・カツァリス(Cyprien Katsaris)───1951年5月5日フランス=マルセイユ生まれのピアニスト兼作曲家で、過去にNHK教育テレビで放映されていた『趣味百科 ~ショパンを弾く』で先生役を務めたりしています。
1951年生まれというと、来年(2011年)にはちょうど60歳の還暦を迎える───私自身、カツァリスというピアニストの存在は知っていたものの、最近では殆ど耳にすることが無かっただけに、もう”アラカン”世代の仲間入りしていたんだ・・・と、容赦ない時の流れというものにハッとさせられる思いでした。
このカツァリスによる演奏は『YouTube』に”演奏音声+静止画像”の合成ファイルの形で都合4本にわたってアップされており、その4本合わせて終楽章(第4楽章)全体が収まっています。
静止画像は演奏(再生)されている箇所に対応するヴォーカル・スコア上の箇所のところが次々と映し出される、いわば演奏と連動したスライドショーの格好となっており、また最初の動画の冒頭では、曲名のクレジット表示に続いて作曲者ベートーヴェンの肖像画と字幕、次いで編曲者リストのモノクロ写真と字幕、そして演奏者カツァリスのカラー写真と字幕が演奏開始に先立って表示されるようになっています。
ピアノ・ソロで聴く「第九」といえば、私の場合には「1万人の第九」の本番に向けてのレッスンでクラス担任と組む伴奏担当の先生が会場備え付けのピアノで弾くメロディで幾度と無く接してきてはいるものの、ピアノ・ソロ向けにアレンジされた楽曲に一作品として本格的に向き合うのは今回が初めてのことになります。
で、一通り聴いてみるうち・・・
何だか、一人ステージ上で文学作品(というか戯曲)を朗読しているのを聴いているような感覚になるとでもいうか───原曲のままにオーケストラと合唱により演奏される「第九」というのは、いわば舞台上で芝居(というかオペラ)が展開されていくような印象であるのに対し、一人のピアニストにより演奏される「第九」というのは、いわばピアニストという朗読者がひとり戯曲をひたすら朗読していくような印象を受けるところなのです。
加えて・・・
例えばコーラスが「vor Gott!!」と高らかに歌い上げつつ一旦途切れる329~330小節目のあたりに於いて、今回のピアノ独奏による演奏を聴いていると、ティンパニによるトレモロが無くなった途端、次第にフェードアウトされていきつつ途絶えたりとか、いわゆる”二重フーガ”も終わり、その後の”「Brüder!」-’ハイハイ’-「Brüder!」…”というコーラスとオケの掛け合いも終わって、静かに「… Vater wohnen.」とコーラスが”天に向かって”響かせながら一旦途切れる場面でもやはり徐々にフェードアウトされていくような感じだったり───このあたり、原曲のままで聴いているときと比べて、何処か侘びしさというものを感じずにいられないところがあります。
結局のところ、声楽(コーラス or 独唱)導入時みたいにアタックかけずに一つの音を出しつつ伸ばし続けるということがピアノでは出来ず、「ポォ~ン」と一発発したあとアタックをかけなければ、あとは減衰されていく一方であるところから、特にコーラスで「… Vater wohnen.」と静かに響かせつつ途切れる箇所では、何かで完全に閉ざされた空間の中で次第に響きが消え入るような印象を抱くところでです。
薄ぼんやりとした寂しさとでもいうか、切なさとでもいうか・・・ちょっと言葉では言い表しにくいところがありますが、一瞬、閉ざされた空間に一人取り残されているかのような心境になりました。
ピアニスト=カツァリスの演奏を耳にするのは最近では皆無になってしまっていたのですが、原曲のまま聴いているときにはあまり耳に入ってこないようなパートの音が時に前面に出たりするなど新鮮味を覚えると共に、何処かやんわりとしながらもテクニカルに楽曲に向き合い弾き去るという演奏ぶりに、あぁこれがカツァリスの世界であり、また彼が描き出しているベートーヴェン像なのか、等と頭の中で自問自答していました。
前記でも触れましたが、「1万人の第九」公演本番に向けてのレッスンの中で幾度と無く”ピアノによる「第九」”を耳にしてきていることもあり、「練習番号M」の箇所に入る前のところなど、所々でレッスン光景を連想してしまうこともありました。
折しも、前置きのところでも書きましたが、「1万人の第九」と「第九ひろしま」は合唱団員募集を告知している段階にありますし、東京の「国技館5000人の第九」も来年開催分〔2011年(九州新幹線鹿児島ルート全線開業の年)、第27回公演〕に係る合唱団員(会員)募集を7月頃から始めると前々から告知してきていることですし、そろそろお金を貯めたり「第九」の復習などの準備をしなければ、と心の中で少し焦る(?)私がそこに・・・
で、動画(というか”演奏音声+静止画スライドショー”の合成ファイル)の紹介に移りますが、先ほど記していますように、終楽章(第4楽章)全体を収録しており、都合4分割される格好で『YouTube』に寄せられてきています。
このうち、最初の動画ファイルのみ、冒頭で曲名と作曲者、編曲者、そして演奏者のクレジット表示が順番に表示され、このうち作曲者以下のクレジット表示については肖像画または顔写真も併せて表示されます。
ここで、最後に表示される演奏者カツァリスのカラー写真というのが、これまで私の中でイメージとして焼き付いていた、髪の毛を末広がり風に伸ばしているカツァリスの風貌とは違う、ごくふつうの髪の毛をした若々しい風貌だったものだから、私自身「昔の若きカツァリスの写真か?」と少し目を丸くしていました。
じゃあ、ここに収録されている演奏は若き頃のカツァリスの演奏ということなのか・・・とも心の中で突っ込んでみるものの、投稿動画に添付されたテキストデータには、曲目解説とおぼしき長ったらしい文章は見えるものの、いつ頃演奏されたものかを示す記載は何処にも見当たらなかったため、想像するしか他無いのが現状です。
ということで、以下の4つの”演奏音声+静止画スライドショー”を順番に再生し、お楽しみ下さい。
参考までに、最近のカツァリスの活動ぶりを示すものの一つとして、2年前(2008年)に開催された北京オリンピック(北京五輪)の文化プログラムの中の一つとして組み込まれていたとみられるカツァリスのピアノ・リサイタルの一部が収められた映像を『Google Video』の中に見つけることが出来ましたので、以下にてそれを示します《なお北京五輪に於ける文化プログラム事情に関しては『北京の文化オリンピック』あたりが詳しいです》。
この動画にはリサイタルの冒頭にて行われたカツァリスの即興演奏(北京五輪にちなんで古代ギリシャの音楽や中国でよく知られたメロディ、ベートーヴェン「第九」の旋律などを織り交ぜた即興演奏)などが収められていますが、ここに映っているカツァリスの風貌を見る限り、私の中でイメージとして焼き付いてしまっているカツァリスの過去の風貌(末広がり風な髪の毛をした風貌)とほぼ一致しているような印象を受けるところです。
まぁ風貌にばかり囚われても仕方ないんですけどね───本来は演奏内容に関心持つべきなのに《う~ん》。
”オーケストラ&声楽陣”による原曲のままでの「第九」演奏と聴き比べるのも面白いですよ。
P.S.
これは音声のみになりますが、シプリアン・カツァリスが昨年(2009年)の2月にボストン(アメリカ=マサチューセッツ州)の公共放送局WGBH内に附設されているFraser Performance Studio(→同スタジオのスナップショット集)に於いて収録された番組に出演した際のインタビューや生演奏が、制作局であるWGBHのWebサイト内に於いてオンデマンド配信されているのが見えました。
この音声配信の存在を私自身の知るところとさせてくれた『WGBHのインタビュー&スタジオ生演奏』というブログ内記事によると、番組のメインキャスターによるインタビューの後にスタジオ生演奏が行われ、次いで過去の音源からの抜粋聴取、そしてカーネギーホールに於けるコンサートでカツァリスが演奏したショパンのワルツを聴いたり・・・など、盛りだくさんの内容になっています。
【おことわり】
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