7月中に入札公示か…ブラジル高速鉄道プロジェクト。11月末入札、その前に大統領選挙《新空港建設も懸念材料に》
久しぶりに日本の新幹線技術の海外への輸出にまつわる話を書いてみます。
ここしばらくは、オバマ大統領の肝煎りによるアメリカ高速鉄道計画に対する日本の新幹線技術の売り込みがこの手の話題の大部分を占めているような感を抱いてしまうところなのですが・・・
そんなアメリカと共に、もう一つ、忘れてはならない地域がありましたね。
一旦は政府サイドで日本の新幹線技術の採用を決めながら、巨額の事業費や採算性の低さなどに懸念を抱いた国会に於いて否決したベトナム───ではなくて・・・
南米の大国、ブラジル(ブラジル連邦共和国)(既に記事タイトルの中に現れていますけどね…)。
日本から見ればほぼ地球の裏側に位置しながら、海外に在住する日系人の数が最も多いこの南米の大国に於いても高速鉄道計画(ブラジル高速鉄道プロジェクト・・・「リオデジャネイロ~サンパウロ~カンピーナス」間)が策定され、これまでに、アメリカに於けるそれと同様、日本を初め、同じく高速鉄道技術を保有するフランスやドイツ、更にはフランスなどから高速鉄道技術を導入して自国にて高速鉄道を走らせている韓国や中国などからも入札の意向を示してきています《ちなみにプロジェクト自体は2007年11月13日付けで発布された大統領令6256号、2008年1月22日付けで発表された2008年度「国家経済成長促進計画(PAC)」への組み入れ等を経て動き出してきています→『インフラ/PACとブラジル高速鉄道プロジェクト』》。
だが、予算面など諸々の問題が次々と明るみに出たりして、入札、いやそれ以前に入札に必要な条件などの公示が遅れに遅れ、未だに公示すらされていない状態にあります。
更に、日本やフランスなどの海外勢が関心を示す一方で、ブラジル国内の企業からは、政府による公共事業の採算性に疑念を抱いていることなどから、名乗りを上げるところが一つもなく、ブラジル政府が急遽国庫融資を検討するなど、なかなかスンナリ事が進まない現状などが浮き彫りになってきているみたいです。
そんな中、去る6月30日、ブラジルの連邦会計検査院(TCU)が高速鉄道計画に係る事業費の削減を勧告、これを条件に入札に向けての手続き開始を承認した、との報道がありました。
余談ながら、この報道に於いて、削減後の事業費は約331億レアル(約1兆6600億円)となっていますが、削減前の事業費についてはメディアによって異なっていて(’346億レアル’又は’366億レアル’)、どっちが正しいのか頭を抱えてしまうところです。
それはさておき、TCUの承認を受けて、ブラジルのパソス運輸相は去る7月1日に’来週にも’入札手続きを公示し11月末に入札を実施する方針───と伝えてきているのですが・・・
7月1日時点で’来週にも’と述べたということは、つまり今週中にも入札に係る公示が為されることを意味するわけでありますが、ネット上にて把握する限りでは、入札公示が為されたとの情報は未だ入ってきていません。
今日に至るまでブラジル高速鉄道プロジェクト自体の進捗に大幅な遅れが生じていることを考えれば、今更目くじら立てても仕方ないところなのですが、公示が出るのは来週ぐらいか、さもなければ再来週か・・・
ところで、このブラジル高速鉄道プロジェクトに関しては、現在、2つの懸念材料が存在するといわれています。
一つはサンパウロ市近郊に計画されている新空港建設計画。
この計画はブラジルの大手ゼネコン2社(アンドラデ・グチエレス、カマルゴ・コレア)の連合(JV)が2007年頃から進めてきているもので、サンパウロ市の北西35kmのところに位置するカイエイラス市内に約20億ドル(約1770億円)を投じて新空港(サンパウロ近郊に於ける3つ目の空港)を建設することになっています。
先月頃、グチエレス=コレアJVはこの新空港建設と運営・管理にあたるための許可申請をブラジル社会経済開発銀行(BNDES)に提出しています。
グチエレス=コレアJVは、このサンパウロ近郊に於ける3つ目となる新空港について、同じくサンパウロ近郊に位置する主要国際空港でヨーロッパやアジアからの国際線乗り入れも行われているグアルーリョス国際空港と同程度の年間2200万人の利用を見込むと共に、迅速さで政府に勝る民間が主導することで2014年開催のサッカーW杯ブラジル大会に間に合わせる、と意気込んでいる様子。
その一方で、この新空港が建設されることになっているカイエイラス市は、リオデジャネイロとカンピーナスを結ぶブラジル高速鉄道プロジェクトの予定ルートのうちの「サンパウロ~カンピーナス」間に所在しており、新空港建設がこの高速鉄道プロジェクトにも影響を及ぼしかねないとしてブラジル政府は頭を抱えているのだとか。
同時に、グアルーリョス国際空港開港(1985年1月)まで日本を含むアジア地域などからの中・長距離国際線の乗り入れが行われていたヴィラコッポス国際空港(但し航空貨物取扱は現在ブラジル第2位の規模を誇る)の拡張計画にも大きな影響を及ぼすとの報道もあります《ちなみにブラジル高速鉄道プロジェクトではこのヴィラコッポス国際空港近くにも駅が設けられることになっているそうです…》。
ブラジル国内に於いては、経済成長の加速(経済成長率の上方修正)や格安航空会社(LCC)の市場拡大により、今後航空需要の拡大が見込まれるとの話が聞かれるところなのですが、このサンパウロ近郊に建設される3つ目の空港がどのような形で影響を及ぼすのか、今は見極めるのみですね《ブラジルに於けるLCCといえば2001年設立のブラジル初のLCC・ゴル航空が知られているところなのですが、これに加えて2008年12月にはオランダ系ブラジル人実業家が立ち上げたアズーブラジル航空も参入、今では貨物中心となってきているヴィラコッポス国際空港を拠点に急成長を遂げているそうです》。
もう一つの懸念材料は、入札実施予定時期(11月末)の前月に行われるブラジル大統領選挙。
今度のブラジル高速鉄道プロジェクトを開始させた現職のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ(ルラ)大統領は2003年1月1日に就任、任期4年のところ、現在2期目に入っていますが、今年いっぱいで任期切れを迎えます。
アメリカの大統領選挙と同様、ブラジルの大統領選挙にも「再選は1回限り」というブラジル憲法規定が存在するため、ルラ大統領は今年いっぱいで大統領職を退く格好となり、後継大統領を決める大統領選挙の投票が10月3日(恐らく現地時間基準)に実施されることになっています。
そのブラジル大統領選挙には与野党双方から3人が立候補の届け出を済ませており、現在選挙戦のまっただ中に入っているわけでありますが、仮にこの選挙で野党候補者が当選するようなことになると契約プロセスの見直しや高速鉄道(高速鉄道プロジェクト)の管轄省庁の変更などが懸念されるところだとか。
ちなみに現地で実施された世論調査による候補者ごとの支持率について、初めのうちは野党側候補者の一人がリードしていたものの、最近になって与党(労働者党)側候補者が現政権の実績をアピールして逆転したのだそうで〔一方で地域格差が益々拡大したとの指摘も有り〕、10月の投票に向けて激しい選挙戦が繰り広げられるだろうと報じられています。
まぁ今度のブラジル大統領選挙の結果如何で直ちにTAV自体が立ち消えになることは無いと思うのですが、現行のプロセスで進捗するのか否かは大統領選挙の結果にかかっているといっても過言ではないでしょう。
南米の大国ブラジルの地を日本の新幹線、或いは他国規格の高速鉄道が駆け抜けるようになるのは、まだまだ先の話になりそうです。
勿論、私自身としては、予定ルートに於ける地形やそれに伴って必要となるトンネルの数などから、是非日本の新幹線が採用されることを強く望むところです。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『ブラジル高速鉄道、11月にも事業者決定』
『ブラジル版新幹線計画、事業費の9.5%削減勧告=現地紙』
『ブラジル高速鉄道、入札公示へ 日本も応札検討』
《→『ブラジルの高速鉄道、入札公示へ 日本も新幹線システムで応札検討』》
『高速鉄道に国庫融資を検討 嫌気する企業に政府焦りか』
『サンパウロの第3空港は民営化か』
『空港民営化の動きが活発に』
『サンパウロ市に第3の空港計画 市から35kmが条件』
『格安航空会社アズーの参入で変化するブラジル国内路線市場』
『ブラジル・サンパウロの新幹線計画 その1 今度こそは実現か。』
『ブラジル・サンパウロの新幹線計画 その2 徐々に明らかになる計画。』
『ブラジル大統領選、主要3氏が立候補申請』
『ブラジル 次期大統領に難題山積 年金頼みの最貧困層 地域格差は拡大』
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