ブラジル高速鉄道プロジェクト、ついに入札公示・・・11月29日迄受付、12月16日落札先決定。日、仏など7カ国応札か
先日、久しぶりに書きましたブラジル高速鉄道計画の話。
ブラジル政府が去る7月1日に、今月上旬(正確には先週)のうちに高速鉄道プロジェクトに係る入札手続きに関する公示を行う旨を発表していますが、予算的なこと等から延び延びになってきているため、今度も果たして予定通り公示されるのかどうか、正直疑っていました。
そんな中、今度という今度は実行に移してきました。
表明した時期から約1週間遅れということになりましたが、去る7月13日(現地時間基準でしょう…)、ブラジル政府はリオデジャネイロからサンパウロを経てカンビーナスに至る全長約510kmの高速鉄道プロジェクトに係る事業入札について公示しました《一部メディアは公示時期について”6月30日頃から2週間以内”というふうな報じ方をしており、これだと「予定通り」ということになりますけどね…》。
見込まれる建設費(総事業費)は331億レアル(約1兆7千億円)、リオデジャネイロとカンビーナスの間を2時間弱で結ぶ計画とのことですが、入札に際しては、安全性や運行の定時性などといった技術面は直接的な評価対象となっておらず、普通車座席の対キロ賃率(キロあたりの運賃)で0.49レアル(約25円)を上限に最も安価な運賃体系を提示した事業体を選定すると共に、もし最安な運賃体系を提示した事業体が複数出た場合には高速鉄道事業を運営している期間の最も長い事業者が選ばれることになっています。
なお、今回ブラジル政府が条件提示してきた対キロ賃率上限値で「リオデジャネイロ~サンパウロ」間の片道運賃を計算すると約120ドルと算出されると一部メディアが報じていますが、これは去る6月30日付け発行のエスタド・ジ・サンパウロ紙が報じている、ブラジル会計検査院(TCU)が示している高速鉄道プロジェクトに関する提言書の中で触れている「リオデジャネイロ~サンパウロ」間の運賃最大値〔199レアル(約110ドル)〕を約10ドル上回る格好となっています。
ブラジル高速鉄道プロジェクトに係る入札を巡っては、当初計画では2008年9月乃至は10月に入札(施工入札)を行うとしていたところ、見積額増加やプロセス変更などの影響から、今日まで入札公示自体が延び延びとなっていました。
そのため、当初は2014年開催のサッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会までに間に合わせるつもりだったのが、今ではその2年後(2016年)に開催されることになっているリオデジャネイロ夏季五輪に間に合うかどうかも微妙な情勢になっている様子です《ブラジルのルラ大統領はリオデジャネイロ夏季五輪までに間に合わせたい意向を示していますが、入札公示文書では全線竣工予定時期として「2017年」と提示している模様》。
入札には新幹線技術での受注を目指す三井物産や三菱重工業を中心とする日本連合(企業グループ)を初め、新幹線の最大のライヴァルであるTGVを保有するフランス、そして最近になってフランス等からの技術導入によって高速鉄道を走らせてきているスペイン、韓国、中国など7カ国が応札する見通しとか。
今後のスケジュールとしては、事業体からの入札(事業計画書類提出)を11月29日まで受け付け、12月16日に落札者を発表、来年(2011年)3月に契約調印の運び、としています。
そして、落札された事業体は建設工事と40年間(開業日から起算?)の路線運営を担うと共に、ブラジル政府から34億レアル(約1700億円)の出資と総事業費の6割の融資が受けられることになっています。
如何に安価な運賃体系を設定できるかで競わせる今回の入札公示───実は昨年暮れにブラジル政府が示した入札に際しての審査基準に於いても、如何にして安価な運賃設定が出来るのかどうか、を重視する内容となっていて、これを貫いた格好となっています。
確かに運賃の安さ、そして低コストというのも事業を進めていく上で重要な要素といえるのですが、公共交通機関に於いては何と言っても「安全第一」、つまり安全輸送が担保されていることが大前提となっています《今更言うまでもないことですが》。
そして、その安全輸送を担保するため、建設予定ルートにおける地形や気候などに対応した地上構造物の設計・構築、輸送需要などにフィットした輸送体系や信号保安設備などの構築、更に長期にわたって安全を保たせるための保線・施設管理の体制構築───これらを漏れなくきちんと為される必要があるように思います。
もし、妙に安価な運賃で落札となったものの、開業後相当期間を経て、何らかの人的ミスによらないトラブルが発生し、そこから手抜き工事などが明るみに出たとしたら・・・
このあたりで止めておきますが、要は長期にわたって安全且つ安定な輸送が十分担保できるという前提の下でコストの議論なりすべきところなのです。
とはいえ、現実問題、ブラジル政府からコスト重視の方針が言い渡されている以上、韓国や中国からも入札参加が見込まれる中で、日本の新幹線技術が落札されるためには、これまで日本国内で培ってきたあらゆる技術をブラジルの地形や気候に適する形で駆使する一方、部品の現地調達や車両などの現地生産に積極的に取り組むことなどによりコストを落とす工夫も必要になってくることでしょう。
ここでふと、昨年(2009年)秋口頃に「ブラジル政府が高速鉄道プロジェクトの発注先を選定するに際して技術移転計画を重視している」というふうに報じられていたことを思い出しましたが、このことを踏まえるならば、高架橋やトンネルなどの各種地上構造物は勿論のこと、車両についても、最初の1~2編成程度は技術確立の意味合いも兼ねて日本で製造するものの、残りは現地に車両工場などを建設してそこで車輌製造させることで、輸送コストの低減もさることながら、現地に於ける雇用創出にもつなげていくという戦略も必要になってくるのでは、と考えるところです。
ある意味、アメリカの高速鉄道プロジェクト以上に大変かもしれませんが、日系人の人口で世界最多を誇るブラジルの地に日本の新幹線が駆け抜ける光景を夢見ると共に、日本連合の奮闘に期待するところです。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『ブラジル高速鉄道入札公示、新幹線の受注目指す』
『ブラジルの高速鉄道、12月に事業者決定 日本勢も応札を計画』
《→『ブラジル高速鉄道の入札公示 事業費1.6兆円、事業者12月決定』》
『ブラジル高速鉄道、12月入札=日本勢も応札へ』
『ブラジル高速鉄道、入札公示 12月中旬に事業者決定へ』
《→『ブラジル高速鉄道入札公示 日本は三井物産連合が応札 12月中旬に事業者決定へ』》
『ブラジル、190億ドル規模の高速鉄道建設の入札手続き開始』
『ブラジル版新幹線計画、事業費の9.5%削減勧告=現地紙』
『新幹線=日本方式の導入を要請=日本から柴田審議官ら官民8人=下院議長、官房長官と会談=W杯開業目指す』
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