アメリカに積極的、ブラジルには慎重姿勢──南北アメリカ大陸に於ける高速鉄道プロジェクト。日本の新幹線売り込み
南北アメリカ大陸に於いて現在進行中の高速鉄道プロジェクト2本。
ここにきて、明暗が分かれつつある様子です。
いや「明暗」という言い方が適当かどうか、私自身正直わからないのですが・・・
オバマ大統領の肝煎りで策定され、現在進行中にあるアメリカ国内に於ける高速鉄道プロジェクトのうち、フロリダ州に於ける高速鉄道計画に関して、東海旅客鉄道(JR東海)は、同社の連結子会社・日本車輌製造を初めとする鉄道車両関連メーカーや大手商社などの有力企業11社と共に、同計画への参画を正式に表明、入札に向けての資格審査に応募することを明らかにしました。
このフロリダ州の高速鉄道計画では「タンパ~オーランド~マイアミ」間約500kmで策定されており、今回はそのうちの第1期区間にあたる「タンパ~オーランド」間約130kmについて資格審査の応募受付を今月中に開始し、来年(2011年)の2月頃までに4つのチーム(連合)程度に絞り込んだ上で来年夏を目処に正式な入札を実施するとしています。
この第1期区間の資格審査には、JR東海を初めとする日本連合のほか、TGVを保有・運行するフランスやICEを保有・運行するドイツ、TGVとICEの技術をベースにしてAVEを運行させているスペイン、同じく海外からの高速鉄道技術の供与を受けて高速鉄道網を広げ運行している中国や韓国なども参加が見込まれていますが、フロリダ州では応募企業(チーム)に対して各種鉄道構造物建設・車両運行・保守についてアメリカ企業をメンバーに加えるよう求めるものとみられることから、JR東海も今後アメリカ側協力企業の選定を急ぐ考えを示しています。
JR東海では現時点で、他にも「ロサンゼルス~ラスベガス」間(約440km)、テキサス州内都市間への新幹線技術の売り込みを目指しているほか、東日本旅客鉄道(JR東日本)でも別途「ワシントン~ニューヨーク」間などへの新幹線技術売り込みを目指す考えを明らかにしており、今回のフロリダ州高速鉄道計画への入札に向けての行動はJRによる新幹線技術の輸入を狙う上で最初の試金石になるとみられています。
最近では韓国や中国といった、元々の高速鉄道技術保有諸国から技術導入し自国内で高速鉄道網を広げてきている国々からも低コストを旗印に参戦する動きも見せており〔特に中国…〕、それに対し日本の新幹線技術の優位性をコスト面も含めてどこまでアピールできるのか、注目されるところですね《いくら技術的に優位に立っているとしても高コストでは見向きされない虞もありますし───まして新幹線技術は現時点では国際標準として認定されていないのが現状で厳しい戦いが予想されるところ…》。
一方、南米大陸で最大の国家で海外在住日系人の人口最多を誇るブラジルに於いて進行中の高速鉄道プロジェクトは、当初の予定から延びに延びて、今月29日にもようやく入札という運びとなっている模様ですが、ここにきて、応札(入札参加)するのは韓国連合だけにとどまるのでは、との観測が浮上してきています。
「リオデジャネイロ~サンパウロ~カンピーナス」間で策定されたこのブラジル高速鉄道プロジェクトは総事業費331億レアル(約1兆6000億円)の大型投資で、落札されれば鉄道建設と40年間の運営を任されることになっているわけですが、一方で鉄道建設と開業後に於ける運営に対するブラジル政府の関与の度合いが低く、仮に需要が計画を下回った場合などに於いて大きなリスクを背負う格好となることから、入札に動くとみられている日本とフランスの各連合が入札に慎重な姿勢を見せてきています。
三井物産、三菱重工業、日立製作所、東芝で構成する日本連合は「民間企業としてリスクを負いきれない」と、場合によっては応札を見送るか関心表明にとどめる意向を明らかにしているほか、アルストムが中心となりフランス政府からの支援を受けているフランス連合も「現時点では応札準備をしていない」と在ブラジリア・フランス大使館が漏らす有様。
また、日本・フランスと並んで入札参加すると見込まれているドイツ、スペイン、中国の各グループについては現時点で何の動きを示してきていない模様ですが、恐らくは同様の懸念を示してきているものとみられるところ《尤も中国に関しては、一時期、国ぐるみでブラジルにも参戦するのでは、との噂が流れていたみたいですが…》。
一方、韓国鉄道公社(KORAIL)を初めとする韓国連合は、今月ソウルを訪問したルラ大統領に応札する意思を伝えるなど意欲を示してきています。
その韓国に於いて、「まずスタート。問題があれば走り出してから考え対処する」といういわば”韓国スタイル”(?)が定着しているとの話があるみたいで、韓国国内を走る高速鉄道KTXの建設に際してもこのスタイルで建設が進められてきている模様。
今回韓国が示してきているブラジル高速鉄道プロジェクトに対する意欲的な姿勢もこれに倣ったものと思われるところですが、他方、日本以上に国土面積の狭い韓国に於いて、高速鉄道に関して海外に生き残りの道を求めるより他ないという切実な事情を抱えているということも背景にあるみたいですね。
とはいえ、前記の「まずスタート~」という気質が災いしたであろう悪しき前例も残念ながら存在するみたいですね〔韓国国内KTX関係はこちら(→進展後)、海外はこちら(但し高速鉄道関連ではないが)』〕───まぁブラジルに於ける高速鉄道プロジェクト、そして前記で触れたアメリカに於ける高速鉄道プロジェクトでは、コスト面にばかり気をとられて肝心の安全面がなおざりにされることの決して無きよう取り組んでもらいたいところですね。
話がそれてしまいました───現在、条件見直しを求めて日本とフランスが水面下でブラジル政府と交渉していると報じられてきていますが、仮に条件見直しがなされないまま入札の運びとなり、韓国連合の他に入札するグループが現れないということになると、日本の新幹線技術の採用を期待している日系人コミュニティの間で失望感が広がることは想像するに難くないところ。
で、少し横道にそれますが、先般実施されたブラジル大統領選挙は政権与党の労働者党から立候補していたルセフ元官房長官が去る10月31日に行われた決選投票で56%の得票率にて勝利、現在のルラ大統領が策定した高速鉄道プロジェクト自体は維持されるとみられるものの、マーケット界では、「歳出削減維持」などを公約に掲げているルセフ次期大統領が実際には歳出を抑制しきれず、ブラジルの中央銀行が来年以降利上げに踏み切らざるを得なくなるだろう、との見方も存在し、現在9560億ドル(約76兆8000 億円)の公的債務を抱えるブラジルに於いて更なる借り入れコストの上昇が懸念されています。
そうした背景もあってか、ブラジル政府としては「想定外のリスクまではとりたくない」というふうに考えている様子で、そのことが先に記した、条件面に於ける建設並びに開業後の運営への政府関与の低さとなって現れているものと思われます《本当のところどうなのかは定かでありませんが…》。
日本やフランスによるブラジル政府との水面下の交渉で、どこまで譲歩を引き出すことが出来るのか───こちらも気になるところですね。
コスト面に於いてとかく不利な立場に立たされているとの話をしばしば耳にするところの日本連合、新たな売り込み先として持ち上がってきている南半球のオーストラリアに於ける高速鉄道プロジェクトも含めて、果たして台湾に続く本格的な新幹線技術の輸出の実現なるかどうか、引き続き眺めていようと思います。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『JR東海、フロリダ高速鉄道応札へ 新幹線輸出、11社が協力』
《→『JR東海、フロリダ高速鉄道に応札へ 新幹線を輸出』》
『JR東海など11社、米フロリダ高速鉄道応札へ』
『ブラジル高速鉄道29日入札 日・仏は応札に慎重』
『ブラジル大統領選:ルセフ氏勝利-同国初の女性大統領誕生』
『【外信コラム】ソウルからヨボセヨ 韓国高速鉄道の苦労』
《→『韓国高速鉄道の苦労 早くも海外進出』》
『ソウル‐釜山全線営業のKTX 鉄道強国へ海外輸出が急務』
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