事業入札「来年4月11日」に延期──ブラジル高速鉄道プロジェクト、複数入札呼び込み狙い。各方面から批判相次ぐ
先日、当ブログにて南北アメリカ大陸で同時進行中の高速鉄道プロジェクト2本について書きました。
その中で、日本から見ればほぼ地球の裏側に位置する、南アメリカ大陸最大の国家にして日系人を最も多く抱えるブラジルの「リオデジャネイロ~サンパウロ~カンピーナス」間にて策定され現在入札に向けて作業進行中の高速鉄道プロジェクトについて、先日掲載した記事では、日本とフランスが入札に慎重な姿勢を見せている旨のことを書きました。
その後の動きについてですが、日本でも各種メディアがこぞって報じるなど、ドラスティックな結末が待っていました。
その前に、当ブログに記事掲載したあとの動きを追ってみますと・・・
まず、日本の最大のライヴァル国であるフランスが、去る11月24日、ブラジルのフランス大使館からブラジルのパソス運輸相宛に送った書簡の中で、「計画に関心を持っている」としながらも入札参加を見送ることを表明、更に日本もまた入札を見送る方針を表明しています。
これで、入札に意欲を示している韓国連合だけが入札するものとみられていましたが・・・
実はこのブラジル高速鉄道プロジェクトに対しては、国外からだけでなく、ブラジル国内からも批判が相次いでいることが明らかとなっています。
日本やフランスなどの有力処が「リスクが大きすぎる」などとして相次いで入札を見送る姿勢を見せてきていることについて、ブラジル国内の企業の間からも同様の理由で消極的になっているとの地元日系人向けメディアの報道が存在するほか、ブラジルの重機・車両メーカーなどでつくる業界団体は「より多くの事業体に道を開くべきだ」としてブラジル政府に対して入札の半年間延期を要請しています。
また、このブラジル高速鉄道プロジェクトの中で、1キロあたりの賃率を0.49レアル(0.27ドル→約24円)、「リオデジャネイロ~サンパウロ」間のエコノミー席(普通席)片道運賃を200レアル(約9730円)とブラジル政府が提示していることに対し、地元メディアはコンサルタントの見解として、日本よりも高価であり、現状のブラジル国民の所得水準から考えればブラジル政府が想定しているような需要はまず見込めず、営業利益も上がらないだろう、などと伝えており、これに対してはブラジル社会経済開発銀行(BNDES)のインフラ分野責任者が、この運賃設定は空港利用客からとったアンケートの結果を基にしたもので飛行機やバスとの価格競争に十分対抗出来る、等と反論しています。
更にブラジル司法省からも、事業費の積算資料に電力供給計画が含まれていない・・・等と指摘、そしてブラジル政府が示している入札資料にも欠陥があり「国庫に重大な損害をもたらす可能性がある」として入札手続きを直ちに中止するよう求めていたことも明るみに出ました。
えーっと運賃といえば、以前にブラジル政府が入札審査基準原案の一つとして「完成後に於いてどれだけ安価に運賃設定が出来るのか」という点もポイントとしていることが報じられていたような───「日本より高価」とコンサルタントが指摘したという前記の運賃額はいわばブラジル政府が基準として示しているものであり、これ以下に抑えることを入札者に対して求めているということなのだろうか・・・よくわからないけど。
このようにしてブラジル国内の各方面からも高速鉄道プロジェクトに対する批判が相次ぐ中、ブラジル政府が下した決断は・・・
入札を「2011年4月11日」に延期!
昨日(11月27日)の正午にNHK総合に於いて放映されたNHKニュースの中でこのことが報じられ、びっくりすると共に「また延期か」などと思ってしまいました。
このブラジル高速鉄道プロジェクト、策定されたのが2007年11月、同時期に発布された大統領令に基づくものであり、これまでにも2~3度入札の機会を設定してきているものの、財政面での不手際などから延期してきています。
今回の延期は、高速鉄道技術を保有している有力処が相次いで入札見送りを表明し、入札に動いてくれるのは事実上韓国勢だけになってしまっているという状況の中で、競争性確保のため複数の入札を呼び込むべく延期を決めた旨を報じてきています。
尤もリスク回避策などの見直しについては現時点では言及されていませんが、今回の入札延期を受けて三井物産などで組織している日本連合では入札条件見直しをブラジル政府に対して要望するとしています。
一方、今回の入札延期で出鼻を挫かれた格好となっている韓国勢は、2年前から周到に準備を進めてきていただけに、一様に失望感を隠せない様子。
また、韓国と共に高速鉄道界の新興勢力として知られている中国勢は、同時進行中である中東のサウジアラビアに於ける高速鉄道プロジェクトへの入札も表明してきており、今度のブラジル高速鉄道プロジェクトに対しては融資条件などに対して懐疑的見方を抱いていることから入札を見合わせている模様。
それで、このプロジェクトの予定ルート上には人口密集地の他、環境保全指定地域、土壌の不安定な地域も含まれるほか、高低差の激しい区間も存在するところから、応札を検討している国々の各連合体では予算見積もりに困難を来しているほか、当初ブラジル政府で見積もられている総費用330億レアルどころか500億レアルであっても採算を危ぶむコンソーシアムも存在するのだそうな。
以前、ブラジル政府はコスト面を最重要視して落札先を決める旨を表明をしていますが───勿論コストパフォーマンスもまた考慮しなければならないでしょうが、それ以上に安全に恙無く輸送出来ることが公共交通機関である高速鉄道にとっては大前提となるわけであり、是非とも条件の洗い直しを願うと共に、ブラジルにとって鉄路による高速輸送は未経験の領域のはずですから、勿論経営自体は最終的に落札した事業体に任せるにせよ、いざという時に備えてのサポート体制も別途ブラジル政府あたりでつくっておいてもいいように思えます《期間を区切ってでも;金銭面に限らず技術面・経営面にも…》。
或いは、私が言うのも変ですが、今のうちならば、逆にブラジル政府もまた何処か高速鉄道事情・技術に精通している国々や機関から改めてアドバイスを受けたりすることも悪くないように思えるところなのですが・・・
日本でも、1964年に開業した東海道新幹線の建設工事に際して世界銀行から莫大な融資を受けたことはよく知られているところなのですが、同時に経営面に関しても色々とアドバイスを受けたような話が伝わってきています《→『日本と世界銀行 - 東海道新幹線』》。
何はともあれ、来年の「4月11日」までの約4ヶ月半の間に条件面を練り直すなどしてブラジル国内外からも納得されるプロジェクトになっていてほしいと願うばかりです。
果たして、ブラジル政府の思惑通り、再びこの南米最大の国家で展開中の高速鉄道プロジェクトへの参加に名乗りを上げる国は現れるのだろうか───注目すべきところですね。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『ブラジル高速鉄道、来年4月に入札延期 「競争性確保」』
『ブラジル、高速鉄道入札を来年4月に延期』
《→『ブラジル、高速鉄道入札を来年4月に延期』》
『日本企業連合、条件変更要請へ ブラジル高速鉄道の入札延期で』
《→『日本企業連合、条件変更要請へ ブラジル高速鉄道の入札延期で』》
『ブラジル高速鉄道、入札延期=来年4月まで、各国に応札促す』
『ブラジル鉄道業界が入札延期要請 初の高速鉄道建設計画』
『ブラジル初の高速鉄道が入札延期 今月を来年4月に』
『ブラジルの高速鉄道入札、来年4月11日に延期』
『三井物産など日本連合、ブラジル高速鉄道入札の見送り濃厚』
『ブラジル高速鉄道 フランス勢、入札に不参加 』《要無料会員登録》
『ブラジル高速鉄道、入札延期求める動き 日仏勢再参入促す』
『ブラジル、高速鉄道入札を延期 複数応札へ来年4月に』
『ブラジル、日仏勢に参加促す 高速鉄道の入札延期』
『「世界一高い」高速鉄道?』
『高速鉄道の入札を120日延長の要請』
『韓国コンソーシアムが高速鉄道落札の可能性』
『TCUは高速鉄道入札を延長か』
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