母国語(公用語)以外の言語で業務マニュアル(取説)を?・・・中国の高速鉄道。北京・天津間開業前のエピソードから
私の住んでいる関西圏の鉄道界に於いても、昨年はキハ189系特急形気動車と225系近郊型電車の営業運転開始、そして287系特急形電車の落成&出場が見られるなど、新しい息吹のようなものを感じさせてくれています。
その中で、昨年暮れ近くにようやく最初の編成が出場した287系に関しては、今年に入ってから、運用開始後に営業運転を行うことになる北近畿エリア電化区間に於いても試運転が始まり、北近畿タンゴ鉄道との接続駅の一つ・福知山駅では早朝の通勤通学時間帯に姿を現した真新しい287系の姿が通勤客らの注目を集めていたのだとか。
「サンライズエクスプレス」こと285系寝台電車を彷彿とさせるがごとくの(というか類似した)前面形状を持つ287系───北近畿エリア電化区間(「こうのとり」等向け)に加えて阪和線系統(「くろしお」向け)にも登場することになり、共にカーブの多い区間を抱えるだけに、どのような走りっぷりを見せてくれるのか〔車体傾斜機構は無さそうだし…〕、気になります。
ところで、これはいうまでもないことかも知れませんが・・・
鉄道車両というものは自動車や航空機など同じく工業製品の一つに数えられるわけですから、新しい車両形式のものが初めて製品として落成・出場し、そして指定された地点に於いて納車することになった際、併せてマニュアル(取扱説明書)を含む付属品一式も引き渡されることと思います。
勿論、私たち部外者にはこの鉄道車両に係るマニュアルの存在を目の当たりにすることはまず無いでしょうし、また引き渡しの現場に立ち会うことも無いわけですから、マニュアルの実体がどのようなものなのか、そしてどのタイミングで取説含む付属品一式が引き渡されるのか、知る由はありませんし知る術を持ち合わせていません。
ただ、これは鉄道車両ではありませんが、昔にあるテレビ番組に於いてボーイング社の一旅客機の取扱説明書が紹介されているのを目の当たりにしたことがあり、その厚さたるや20~30cmはあるのでは、と思わせるほど凄く分厚いもであったことを覚えています。
鉄道車両に関しても、業務用車両として安全運行を大前提に運用されるわけですから、それなりにボリュームのある取説が用意されるのでは、と想像してしまいます。
で、その鉄道車両に係る取扱説明書についてですが、前記で挙げました287系や225系、キハ189系など、日本の鉄道路線に於いて運用されることになっている鉄道車両に係る取説は、いうまでもなく、実際に使用するのは日本人なのですから、当然のことながら、日本語で書かれていることでしょう。
尤も英語で書かれている可能性も否定出来ませんが───何しろ部外者なものですから実体を目の当たりにしたことが無く、いろいろと想像してしまいます。
とはいえ、日頃の業務に密接に関わってくるものであるだけに、公用語であり母国語でもある日本語で記載されているのが普通でしょう。
だが、もし仮に、その日本国内で運用される鉄道車両に係る取説がフランス語或いはドイツ語で書かれていたとすれば───業務に支障を来すでしょう。
尤も現場の鉄道員がフランス語やドイツ語を勉強・習得していれば別ですが・・・そのあたり、部外者たる私には知る由もありませんけどね。
ところが、前記の仮定にあるような、一国の公用語(というか母国語;例えば日本ならば日本語、というふうに)以外の言語で鉄道関係のマニュアルが書かれているケースが実在するであろうことが、とある記事から明るみに出ました。
それは『レコードチャイナ(Record China)』に、昨年(2010年)の暮れに掲載された、中国に於ける高速鉄道に纏わる以下の記事で、ひょんなことから行き当たったものです。
『中国「独自開発」高速鉄道の不思議、マニュアルはなぜか英語だった―英紙』
日本の新幹線技術など諸外国の高速鉄道技術を採り入れて車両製造や高速鉄道インフラ建設を実行、それでいて「自国独自の技術」などと喧伝しつつ路線網を広げてきていることで知られる中国の高速鉄道について、イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズ中国語電子版が、その中国に於ける高速鉄道のマニュアルが英語で記載されていることを紹介しているというのです。
このことが明るみに出るきっかけとなったのは、中国の高速鉄道に於ける運転士第1号となった李東暁(リー・ドンシャオ)を称える宣伝資料なのだそうで、その中で彼自身が語ったエピソードによると、のちの中国国内に於ける高速鉄道網の礎になったといえる北京・天津間高速鉄道(京津都市間鉄道;2008年8月1日開業)の開業前にドイツ人エンジニアから「君に運転は習得出来ない」とふっかけられ、そのエンジニアとの賭に出た李運転士が僅か9日間で英語で記された高速鉄道マニュアルを中国語に翻訳、そして運転をもマスターしたのだとか。
それにしても、何とも凄まじき運転士───と思わず感心してしまいそうなところなのですが、素人考えながら、この中国に於ける高速鉄道網の初期開業路線の一つである京津都市間鉄道の開業時点に於いて、運転士の中には外国人運転士も若干在籍していたのでは・・・なんて思ったりもしていました。
ここで思い浮かんだのが、日本の新幹線技術の最初の海外導入事例となった台湾高速鉄道(台湾新幹線;2007年3月2日正式開業)の開業前後に於ける運転士陣容のこと───試運転の際には日本のJR西日本・元新幹線運転士5人を招請したものの、営業運転に於ける運転技術指導については当初JR東海が行う予定だったところ「指導責任を持てない」等と突っぱねられたところから、運転士不足を懸念した台湾高速鉄道がやむなくフランスTGVやドイツICEの元運転士計38人を招請、運転業務と共に台湾人運転士育成にもあたらせた・・・とのことなのですが、その際、彼らフランスやドイツからやって来る高速鉄道運転士たちにも理解してもらえるよう、フランス語やドイツ語による高速鉄道マニュアルを作成したことでしょう。
まさかドイツ人・フランス人運転士に対し、いきなり台湾の公用語である台湾国語(台湾華語)で書かれた業務マニュアルを押しつけるというのはちょっと考えにくいですし・・・
そこから考えると、中国に於ける高速鉄道網形成初期に於いて、もしかすると若干の外国人運転士(フランス人とかドイツ人とか…)も働いていたのかもしれない───そう単純に考えてしまうところですね《本当のところはどうなのか定かではないけれども…》。
それで、前出の『レコードチャイナ』掲載記事の本文最後には、将来の中国による「国産高速鉄道技術」導入先となる国々に於ける高速鉄道の運転士には何語のマニュアルが提供されるのだろう───と半ば皮肉調に締めくくっているのが見えます。
日本国内に於いては、新幹線技術の売り込み先として、アメリカ・ブラジル・オーストラリア各国に於ける高速鉄道プロジェクトが紹介されてきていますが〔一度は新幹線技術を採用するとしながら議会で否決とされたヴェトナム高速鉄道プロジェクトのほうはちょっと微妙…〕、中国の高速鉄道現況レポートを通じて、これらの他にもタイやラオス、サウジアラビアなどの国々に於いても高速鉄道プロジェクトが進行中であることを知るところとなり、これらの国々に対しても積極的に「純国産」の高速鉄道技術を売り込んできている中国に対して、正直、ちょっと恐ろしさのようなものを禁じ得ないところがあります。
仮にサウジアラビアに於ける高速鉄道プロジェクトで中国の高速鉄道技術が採用された場合、アラビア語を公用語としている現地採用の運転士に対し、まさか中国語で記載された高速鉄道マニュアルを押しつけるようなことはしないだろうね───いくら中国でもそのようなことはしないか《自国にとって不利になるようなことはしないだろうし》。
高速鉄道マニュアルの記載言語のこともさることながら、もはや高速鉄道の世界に於いても中国の存在を侮ってはならないということですね。
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