JR西日本、間引き運転解除。近鉄、”減量運転”継続?──東日本大震災。被災工場からの「カーボンブラシ」供給巡り
旧国鉄時代に製造された電車車両を中心に使用されている直流電動機(直流モーター)向けカーボンブラシを巡り、そのトップシェアを誇るメーカーの生産拠点2箇所が去る3月11日に発生した東日本大震災により操業停止に追い込まれた影響で、去る4月2日から間引き運転を行ってきているJR西日本。
既に各種メディアがこぞって報じてきていますように、そのカーボンブラシの調達に一定の目処がついた、として一昨日(4月8日)から通常運転に戻されています───まずはホッと一安心ですね。
それにしても、東日本大震災の影響が、震災とは無縁とみられていたJR西日本管轄エリアにも及ぶなんて・・・
既報によると、JR西日本など日本の鉄道事業者に於いて使われているカーボンブラシは、その約7割を日立化成工業に於いて製造していて、実際は茨城と福島の両県に所在する工場(福島県内に所在する工場は子会社のもの)で生産されているとのことですが、先月発生した東日本大震災により両工場とも操業停止に追い込まれました。
そして、このことが、JR発足以来長らく(つい最近まで)旧国鉄時代製造の車両を、お家芸の域に達しているような感のある「体質改善工事」などを経て、大切に使い続けてきたJR西日本には大きな打撃となってしまったみたいですね。
尤も、JR西日本に於いては、旧国鉄時代製造の車両の他、JR発足後初めて開発された近郊形電車「221系」も対象とされているみたいですが───ただ、JR西日本では社内に於いて消費するカーボンブラシの約8割を日立化成工業から購入している、との一部報道もあります《これは痛い…》。
なお、余談っぽくなりますが、「カーボンブラシ」という言葉から、私自身は炭素(カーボン)とかでつくられた多数の毛を束ねたものをイメージしていましたが、本当のところは、19世紀中頃に発明された当初のモーターで使用されていた銅線刷子(銅編みブラシ)が、時代の流れの中で、黒鉛(カーボン)を使用したブロック状の塊に置き変わったものの、部品の名称としての”ブラシ”はそのまま残ったことから、今日まで「カーボンブラシ」と称され続けてきたのだとか───つまりカーボンブロックを”ブラシ”として擦らせているというわけですね。
震災からの復興が徐々に進捗し、2つある日立化成工業の工場のうち、カーボンブロック製造を受け持つ茨城県内の工場が去る5日から操業を一部再開させてきているものの、それに続いて部品の形に仕上げる工程を受け持つ福島県内の工場(浪江日立化成工業の工場)が福島原発爆発事故に伴う避難指示地域に入ってしまっているため操業再開の目処が立たないことから、業界団体「炭素協会」を通じて代わりに部品仕上げ工程を受け持ってくれるところを探していたところ、以下の3社が協力を名乗り出ました。
◎ 東海カーボン ◎ 東洋炭素 ◎ 新日本テクノカーボン |
このうち、新日本テクノカーボンは宮城県黒川郡大郷町に本社と工場を構える企業───宮城県といえばまさしく東日本大震災の被災地となっている県の一つであり〔大郷町も「震度6弱」の強い揺れに見舞われた模様〕、企業名を目にした時には「大丈夫かいな」と正直疑ってしまったものでしたが、当該企業の親会社にあたる日本カーボンが去る4月7日付で発出したリリース文書によると、既に工場設備自体は復旧して操業を再開させているとの由。
ライフラインが完全に復旧していない中で操業再開させるという、その頑張りには頭が下がります───去る4月7日の深夜に発生した強い余震により宮城県内全域でまたもや停電に見舞われた模様ですが、新日本テクノカーボンの本社と工場が置かれている大郷町は、今どうなっているのだろうか・・・
何はともあれ、他社からの協力を得られる見通しとなったことで、早ければ5月頃から直流電動機向けカーボンブラシの鉄道事業者向け供給が再開出来る見込みとなったことなどから、JR西日本管轄エリア内に於ける間引き運転の措置の解除につながったというわけであり、利用者の間からも安堵の声が聞かれました。
しかし、既にご存じの方もおられることかと思いますが、実はJR西日本と共に近鉄もまた東日本大震災によるカーボンブラシ供給停止の影響を受けています。
近鉄では、現時点に於いて、「アーバンライナー」と称される特急形電車車両のうち8両編成で運用されているものについて2両減車して6両編成として運用、そして南大阪線系統に於いて4月15日までの期間限定にて運転を予定していた臨時快速急行列車の運転を取り止める・・・という措置が執られています。
ご存じのように「アーバンライナー」と称される特急形電車には、現在、1988年から1990年にかけて順次投入され2003年から2005年にかけて順次車体等更新施工を受けた「アーバンライナーplus」こと21000系電車と、2002年10月に製造された「アーバンライナーnext」こと21020系電車の2種類が存在しますが、このうち8両編成で運用されるケースが存在するのは「アーバンライナーplus」こと21020系電車のみであり、当該車両は直流電動機(直流直巻補極巻線付整流子電動機)を伴う抵抗制御方式が採られています《カーボンブラシを要しないVVVF制御方式(+かご形三相誘導電動機)が採られている「アーバンライナーnext」こと21020系特急形電車は、現在、6両編成2本が在籍するのみ》。
それにしても21000系以外にもカーボンブラシを部品の一つとして使っている近鉄の車両は他にもありそうなものなのに、何故21000系なのか───名阪甲特急に向けて優先的に回している「アーバンライナー(plus & next)」車両は今の近鉄にとって看板的存在となっているからなのだろうか。
更に近鉄では、部品供給状況如何によっては6月以降に一部車両について運用出来なくなる可能性がある、としていますが、今回の日立化成工業に於ける「操業再開(茨城県内工場)&代替加工先確保」による近鉄側からの公式の反応は、これまでのところ、出されていません。
また、JR西日本や近鉄以外の鉄道事業者に於いても、今後の部品供給具合によっては間引き運転などの措置に踏み切るところが出る可能性も否定出来ず、今も予断を許さない情勢にあるといえるでしょう《尤も大阪市営地下鉄を運営する大阪市交通局は、日立化成からは購入していない、として「全く影響ない」と言い切っている様子ですが…》。
初めのところでJR西日本の通常運転再開に対して”ホッと一安心”と記しましたが、本当のところ、まだまだ安心するのは早いですね。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『車両部品の供給停止に伴う一部の特急列車の編成縮小について』
『【お詫び】南大阪線臨時列車の一部運転取りやめについて』
『コラム「カーボンブラシって何?」』
『山陽線など通常ダイヤに戻る』
『東日本大震災/日立化成、来月から鉄道用カーボンブラシの供給再開』
《→『東日本大震災/日立化成、来月から鉄道用カーボンブラシの供給再開』》
『【東日本大震災】鉄道車両用ブラシ、供給6月にも再開 日立化成』
『【東日本大震災】関西私鉄5社も影響 茨城で部品製造、在庫2~6カ月分』
『JR西、4月から一部路線で間引き運転 大震災の影響』
『近鉄:花見快速急行を中止 東日本大震災影響、特急は一部車両短く--南大阪線など』
『電車の制御方式 VVVF制御方式の基礎』
『三相誘導電動機』
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