新幹線「E5系」車内トイレのオストメイト対応──ブルーリボン賞受賞車両。「N700系」と比較《トイレ全般の比較も》
前回、鉄道友の会が制定したブルーリボン賞とローレル賞の今年の受賞車両について記しました。
改めて記しますと───JR東日本のE5系新幹線電車車両がブルーリボン賞を、JR貨物のHD300形ディーゼル(ハイブリッド)機関車がローレル賞を、それぞれ受賞することが決定されています。
前回掲載記事では、それらのうちで私の頭の中にも焼き付いてしまっているE5系車両のことに記事本文の過半数を割きました《勿論、何処か武骨な雰囲気を醸し出すHD300形ディーゼル機関車のことも若干記していますが…》。
カモノハシにそっくりな前面形状を持ち、東海道・山陽・九州新幹線に於ける最新型N700系と設計思想面で類似した点も散見する一方、N700系以上に造り込まれているような印象を受ける点もあったりするなど、昨年(2011年)3月に東北新幹線に於いて新規投入されたE5系はよく出来た車両であるような印象を抱いています。
その一方で、N700系と比較しつつ記しているうち、E5系新幹線電車車両に関して新たに一つ気になる点が浮かんできました。
それは、列車内トイレ───中でも、特に消化管や尿管の疾患或いは事故損傷のためストーマ(人工肛門或いは人工膀胱)の装着を余儀なくされている人、即ちオストメイトに対応する設備の有無について。
東海道・山陽・九州新幹線に於ける最新型車両N700系には、日本国内の列車トイレとしては初めてオストメイト対応多機能トイレが設備されており〔16両編成一般仕様車の11号車と8両編成”青磁”仕様車(九州新幹線対応車)の7号車に各々設置〕、更にこれ以降に登場したJR北海道789系1000番台車両、小田急60000形「MSE」などにもオストメイト対応トイレが順次設備されてきています。
では、今回ブルーリボン賞の受賞が決まったE5系についてはどうなのか。
これまでのところ、E5系に設備されているトイレに関して詳しく記したレポートの類は公式のものも含めて殆ど見当たらず、ましてオストメイト対応の有無に関しては、私自身、本記事を起こすまでは、その記述に一つも巡り会ってきませんでした。
そんな中、前回記事を記している過程でオストメイト当事者によるブログサイトに掲載された記事と巡り会い、その中で、E5系にもオストメイト対応トイレが設備されていることがわかってきました。
ただ、その対応の仕方に、当事者ではない私すら「??」の印象を受けたものです。
一般的に、オストメイトに対応したトイレ(便所設備)では、通常の便器とは別に太い蛇口(及び温水の出るハンドシャワー)を備えた深めの洗面台風な造りをした「汚物流し」(いわばオストメイト専用便器)が備えられているのが普通のようで〔汚物流し別置型〕、オストメイト当事者はその汚物流しを利用することになります《汚物流しに蛇口と共に温水ハンドシャワーが付いている場合には腹部の洗浄も可能》。
N700系車両に設備されているオストメイト対応トイレの場合、通常の洋式便器とほぼ向かい合う位置に太い蛇口とトイレットペーパーホルダーが備えられた小振りの汚物流しが別途設置されている”汚物流し別置型(シャワー無し)”仕様となっています。
一方、E5系車両に設備されているオストメイト対応多機能トイレ(5号車に設置)はというと───なんと、一般の洋式便器にオストメイト対応機能を付加しただけの簡易型!
具体的には、洋式便器の便座付け根直下に装具(パウチ或いは溲瓶)を洗浄するための水栓が、便器設置箇所後壁左側にはオストメイト・モードに入るための黄色の電光式ボタンが、それぞれ取り付けられており、その電光式ボタンを押下することにより便器がオストメイト用汚物流しとして機能するようになるというもの。
スペース上の都合などにより汚物流しを別途設置出来ない場合、通常の洋式便器にパウチや溲瓶を洗浄するための水栓を追設することで簡易対応させるという手段も存在し〔パウチしびん洗浄水栓使用型〕、トイレメーカーによってはそうした簡易対応型の商品提案を行っているところもあります。
尤も洗浄用水栓を追設するケースでは、洋式便器の真上に蛇口(吐水口)が来るよう少し長めの水栓を追設するのが普通のようですが〔メーカーによっては水栓を挟んで両側に背もたれを取り付けるところも有り〕、E5系の場合、先に記していますように、便器の付け根の直下に水栓が設置されています。
この手のオストメイト対応トイレに巡り会うのは初めてであり、アイディアとしては悪くないように感ずるところなのですが、オストメイト当事者の間からは、手を汚さずに装具洗浄が出来るのか、不安がる声も聞こえてきています。
オストメイト向け機能部分を除く、E5系に設備されているトイレ全般に関しては、現状、ネット上に流布されている関連情報の量が少なめなので確信の持てない部分も多々ありますが、全トイレのうち女性用トイレなど洋式便器が入っているところは全て暖房便座が装着している模様で〔少なくとも前記5号車のトイレには装着済み〕、更に2つの特別車両(9号車グリーン車と10号車グランクラス車)に挟まれる場所に位置する9号車トイレ(車椅子対応)にはウォシュレットも設備されています。
暖房便座にウォシュレット───何だか快適に使用して貰うことにこだわっているような印象を抱くところですね。
尤も、1編成に付き1箇所のみの設置とはいえ、果たしてウォシュレット向けの水をどう確保しているのか〔洗面所向けの水と分けているか否かも含めて〕、ちょっと気になるところですが・・・
参考までに、オストメイトには”汚物流し別置型(シャワー無し)”で対応しているN700系車両に設備されているトイレ全般についても───ネット上に流布されている情報から、こちらも男子用を除き全て洋式便器が搭載され、その全てに暖房便座を装着している模様であり、しかもその便座は自動的にセットされると共に使用後はドアロック解除と連動して自動的に上がるのだそうです。
その一方で、ウォシュレットの装着は無しとのこと。
これは惜しい!───尤も、このウォシュレット未設備に関しては「タンクからの汚物排出で基地に戻る必要が別途生じ運行に支障を来すため」といった指摘も聞かれますが・・・
とはいえ、N700系車両にせよE5系車両にせよ、トイレ設備に関して従前からの新幹線車両から更なる前進を遂げていることは間違いないところでしょう《当たり前、と言ってしまえばそれまでですが…》。
なお、E5系の洋式トイレ、及びN700系の洋式トイレとも、使用後に於ける処理方式として「真空式」が採用されている模様ですが、E5系のほうが幾分音が静かな印象です《比較→「E5系 vs N700系」》。
それなりに進歩してきているE5系とN700系双方の列車トイレ、しかしながらオストメイトへの対応方を巡って両者間で差異が認められるあたり、今後オストメイト当事者の間からどのような評価が下されるのか、気になるところではあります。
この鉄道車両に設備されているオストメイト対応トイレに関しては、もう少しだけ話が続きますが、今回はとりあえずこのあたりで留めておきます。
◎ 参照記事(本文中紹介分を除く)
『オストメイト対応トイレ』
『パブリックトイレのオストメイト配慮のご提案:TOTO』
『INAX いいナビ オストメイト対応多目的トイレ』
《←『多目的トイレがスリムになった!『オストメイトパック コンパクトタイプ』発売』》
『「はやぶさ」オストメイトトイレ』
『E5系・N700系 オストメイト対応トイレの比較』
『N700系新幹線』
『新幹線特別席』
『すごいぞ N700系!』
『座席探訪 E5系新幹線』
『座席探訪 N700系新幹線』
『座席探訪 N700系7000番台/8000番台』
『東海道新幹線のトイレにウォシュレットが採用されない理由…』
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